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竜の少女  作者: よる
第二章 冒険
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約束と疑問

でも少し思い直して、口を開いた。

「・・・精霊たちが、ずっと言っているの、変だ、おまえはなにか変だって・・・」

ガーレルは笑みを消すと真面目な顔になった。

耳を澄ませているのだと知れた。

「ーーー駄目だ。おれだと、ぴたっと黙ってしゃべらない。きみは精霊と仲がよいようだね。すべての精霊?」

「たぶん。・・・みんな話しかけてくる」

「そうなのか。おれだと闇以外は、聞けばしゃべるが話しかけられることはない」

ガーレルはしばらく黙って、何かを考えていたようだったけれど待っていると、「一つ、いいかな」と切り出した。

「約束して欲しいことがあるんだ」

アドリィは首を傾げる。

ガーレルは固い表情になっていて、難しいことなのだろうか。

「ーーーあいつに、シルドレイルにきみの本当の髪の色についてのことは言わないで欲しいんだ」

それは天恵ということをだろうか。

簡単なことでよかった。

だけどこんなことも少し思った。穏やかで親切で、自分のことを放っておけないぐらいとても優しいけど、やっぱりガーレルもアドリィのことを連れていて、恥ずかしいのだと。

誇りもないような小さな竜の本当を隠しておきたいと考えるくらい。

「わかった。絶対言わない・・・」

告げると、ありがとうと、ガーレルは、ぱっとにこやかになっていた。

ガーレルの眩しいほどの笑顔、だけど今はそれが少し悲しい。

迷惑になるのなら言われた通り隠す。鱗の色も、好きだと言うことだって。やはりこんな思いは絶対バレちゃいけないことだとアドリィは強く思った。




アドリィは見つけた小さな池の縁に座って、足を浸していた。

足の裏がじんじんと熱を持って痛んでいた。

これまで生きてきて歩いた量の百以上を一度に歩いたのだから、いくらガーレルの力を借りていても平気ではないのだろう。

冷たい水に浸していると気持ちがよかった。

ガーレルは夕食でも探してくると、どこかに出かけたから、アドリィは一人で待っている。

水面に自分の姿が映っていることに気がついた。

黒い髪で、琥珀の瞳だった。

素敵だと思うけれどそう感じれば感じるほど、これは自分であって自分じゃない姿だと感じる。

嬉しいはずなのに、見ていると悲しい気分になってきて、パシャリと水を蹴った。

パシャパシャ蹴り続けて、飽きて足を止めると再び自分ではない自分が水面に現れて静かに揺れる。

見つめ合っていたとき、アドリィのまわりにいた水の精霊たちがふわっと色めき立った。

「どうしたの?」

ーーー水霊の王が来たよ。

ーーー我らの竜がやってきたよ。

精霊のおしゃべりを聞いたアドリィが驚いて、振り返った。

シルドレイルがゆったりと歩んでくる姿があった。

アドリィの視線に気がついたのか、シルドレイルの方もアドリィに水色の瞳を向ける。

アドリィは慌てて、水から足を抜いて立ち上がった。

シルドレイルはアドリィのすぐ前までやってくると、静かにアドリィを見下ろした。

ガーレルのいないところでシルドレイルと向かい合うのははじめてで心細かった。

俯いたアドリィにシルドレイルが言った。

「こちらを向け」

恐る恐る見上げた。すると

「ーーーおまえの姿がよく見えない」

シルドレイルが不快げに目を眇めながら言う。

「その大きさで、おまえはもう角が生えかけてるようだな。ーーー鱗の色だ。黒に見えるが、目を凝らすと、一瞬、他の色が混ざって見える。ーーー定まらない色だ。なぜだ?ーーー」

アドリィに尋ねていると言うより、自問で、答えを待つまでもなくすぐに続いた。

「ーーーあいつが、何かをしているのか・・・?子でもないのに波長がひどく近いな」

アドリィは、氷のように怜悧なシルドレイルの美しい顔を見上げたままで固まっている。

「おまえは誰の子だ?」

今度はアドリィへの問いかけだった。

竜にとって父親より直接生み出した母親が意味をなす。自己紹介をする場合の基本だった。

暗に母親の名を答えよと、言われたのだから答えた。

答えられる質問でよかったと、ほっとしながら。その前のシルドレイルの疑問が投げかけていたらアドリィは困っていた。

「スフィジェ」

素直に答えた。

すると、状況は予想のしていない方へと転がった。

「ーーーは?」

シルドレイルの冷たく澄んだ大きな湖のような表情が乱れて、鋭く見つめられた。

「私に、嘘を答えるか?」

揺れた湖面から現れたのは、怒りだ。

驚いたのはアドリィの方だった。

「嘘じゃないですっ、嘘なんて言いません!」

「スフィジェの子では歳が合わん。スフィジェは人間に狩られ果てた。二十年も前の話だ。彼女は子を守ろうとして巣から離れようとはせず、最後の子らは彼女の亡骸もろともーーー」

シルドレイルに湧いた怒りの色は静かに消えていったけれど、もっと怖い顔になっていると思った。

「ーーーおまえは、スフィジェの子?」

「・・・はい・・・」

小さな声で答えた。

聞こえなければいいと思いながら。

アドリィは、自分が大きな失敗をしてしまったと感じた。よくわからないけど、失敗だったとはわかる。

「ーーーひどく小さいな。でも角が生える頃合いという点なら話は通じるが・・・おまえは小さすぎる・・・」

アドリィは卵から孵って巣立ったばかりの子竜とあまり変わらない大きさでしかないことがおかしいのだ。普通ではありえない。

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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