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竜の少女  作者: よる
第二章 冒険
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保護と支配

ガーレルの手からアドリィの中に押し入ってくるものがすぐにアドリィの体中に満ちるのがわかった。

足の先から頭の天辺、髪一本だって残らずすべてに流れ込み、アドリィを覆い尽くす。

呑み込んでゆく。

苦しいーーー気がした。

でも

「ーーー嫌なら、やめるよ」

ガーレルの声に気を取られるうち、よくわからなくなった。

嫌なのだろうか。

不思議な気分だった。

自分が違うものになった気がする。自分じゃないものに変わった気がするのだ。奇妙な感じだった。

でもそれは、気分だけのことではなかった。呑み込まれた体中すべてに起こっていることだとアドリィもすぐに気がついた。

視界の隅に見える自分の髪の毛の色だった。

黒色になっている。

アドリィ本来の光沢はあるけれど色のない白っぽい髪ではなく、ガーレルと同じ色の黒に染まっていることに息を呑む。

髪だけではない、爪の色も、肌も普段とは違うと思った。

じゃあ、たぶん目だってーーー。

目に触れようとするように腕をもたげたアドリィに、まさか嫌で抉ろうとするのかと慌てたガーレルが細い腕を取って言う。

「ああ。そうだね、今、きみの目の色は金色になっているよ。・・・きみは今、おれに繋がっている、おれの一部になっている状態なんだ。大丈夫、意識をどうこうするつもりはないんだ・・・」

ガーレルはその言葉は隠してはっきりと口にしなかったけれど、これは支配だった。

相手を支配する方法だ。

小さな力の弱い相手を助ける振りをして支配している。

アドリィにはふんわりと説明して誤魔化しているけれどガーレルの中には、誤魔化せない明確な罪悪感があるから、何度も弁解し顔色を窺う。嫌ならすぐにやめるからとーーー。

でもガーレルにもこれ以外の上手い方法は見つけられないから、拒絶された場合は困ったことにもなる。

どうしたらいいのかとても悩むことになるだろう。

ここに来て手放す気にはなれないなら、しばらく状況が落ち着くまではーーー。

丸ごと、アドリィの嫌だという気持ちごと封じるしかないのかな、とさらっと考えているガーレルはやはり竜の中でも特別な存在だった。

強く、大きく、美しい個体。

選ばれた優れた命。

闇の精霊に選ばれた黒い王ともいうべき竜だった。

その前で、天恵と言われ、対極に消えるだけの弱い定めだったけれど、皮肉な展開に、通常ではない時間まで生き延びてしまっているアドリィは憐れなほど弱々しい。

でもそれがひどく新鮮で、可憐なのだ。

美しいとさえ感じている。

不思議で面白くて、たまらなく興味が引かれてしまっていた。

ガーレルも乱暴なことをしているとはわかっているのだ。

いたいけな少女を言葉巧みに騙すような真似をしている。

いくら言い訳してみてもーーー圧倒的な力が必要となる行為なので普通レベルの竜ではまず実質的には不可能という問題もあるとしてーーー他の種族ならともかく同族、他の竜を支配することなど決して易々と許されることではない。

知られたら非難される行いをしようとしているとは十分にわかっている。

でも、他に方法がないじゃないか!

置いたまま去るのは嫌だ、自分は連れて行きたいと思っている。

いい方法があるなら、意地を張るつもりはない。そっちにするから教えてくれ!

ーーーまあ、非難されても痛くも痒くもないがーーーと半分ぐらいは開き直る黒竜だったが、やはり残り半分、相手の尊厳を侵すことなので後ろめたさが拭えない。

ただアドリィに対してだ。もしかすると嫌われてしまうだろうかと心配なのだ。

そんなガーレルを助けたのはアドリィだった。

アドリィはとても意外な反応をしていた。

笑顔だった。

ガーレルはアドリィの反応に驚き、たじろいでしまったが、アドリィは純粋に、嬉しさを感じていた。

アドリィは自分の容姿が嫌いだから。

薄い透明な色のない鱗は大嫌いだった。

ガーレルは美しいと言ったけれど、嘘だった。ぜんぜんそんな風に感じられない。美しいのはガーレルだった。

黒竜の黒。

とても綺麗で、美しくて、憧れてしまった。

ちらりと思った。ガーレルの力を借りるとはガーレルの一部になることだと。加減一つで完全な部分になるのかしら。そう考えても恐怖感はなかった。

でもその方法で黒い色に染まるなら、それは嬉しいことだった。

力も色もただの借り物でしかないとはわかっても嬉しい。ガーレルがしきりに気にしている意味がわかっていても、だった。

なぜって、アドリィは思う。ガーレルは優しすぎる。

大きな竜の庇護を受ける、守られる、支配下に置かれるーーーそれはすべて同じことだから、与える立場のガーレルが引け目を感じる必要などないのではと。

それに支配だとしても、強大なものに呑み込まれて不満に思えるほどの自分でもないのだとも。

「ガーレルの力で、わたしの気配も消えるの?」

「ーーーああ。消える。この状態を維持したまま、おれが化けたとき、きみもおれと一緒に化けることになるから。・・・けどそれはーーー」

ガーレルの言葉を遮って、アドリィは言った。

「平気です。わたしには、心配されている意味がわからない・・・」

ガーレルは、幼くて理解ができていないのかと、もっと詳しく自分の悪行を説明しなくてはいけない気持ちになっていたがそういうことではなかった。

アドリィは己をちゃんと受け入れている結果なのだ。

弱いこと、天恵と言われるほど偏った存在でしかないこと。

たとえば、黒い大きくて強い竜の支配を拒んだとき、自分に何ができるか。どんな道が、どんな道しか残されていないのか。

先のことを考えず、どうにでもなれと構えていられるほど精神だって強くなかった。

弱い者なりの生き残る方法。それなりの方法を探すしかないはず。

間違っているのだろうかーーー?

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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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