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竜の少女  作者: よる
第一章 竜の少女
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襲撃

アドリィが驚いて、黒竜を見上げた。

首がゆっくりと動き尖った鼻面が降りてくる。

大きく見事な姿をした竜の顔をはじめて間近に見ることになった。

繊細に整った美しい顔だと感じた。大きな眼球は黄金色に燃えて、縦に走る黒い瞳孔に捉えられると動けなかった。

『嫌だと言われても、壊したものは戻せないから困るがーーー』

ぜんぜん困っていないくせにと思った。

選択肢を与えられなかったアドリィは、優しいと感じていた。

黒竜のガーレルは、強者に相応しく、自信たっぷりで横暴だけれど優しかった。

でも甘えてしまってはいけないとも感じた。

アドリィは、小さく首を横に振っていた。

「一緒には行けない」

『なぜ』

「鱗を完全には消せない。わたしは気配を消すことはできないから」

『構わないよ』

ガーレルは最初、追われていると言っていた。ガーレルがいくら鱗を完全に消して追っ手を巻くことができても、側に竜の気配を消せないアドリィがいたら意味はなかった。アドリィのせいでガーレルの居場所がばれ、いずれ共倒れになることは予想が付いた。

「足手まといになりたくないの・・・」

黒竜は黙っていた。黙る代わりに、小さな鼻の穴ーーーそれでも大人の握り拳よりも大きな二つな穴から鼻息だった。

フーと吹かれて、アドリィは吹き飛ばされてぺたりと尻餅をついた。

立ったところで、顔を寄せた黒竜がもう一度鼻息を飛ばして、踏ん張りきれずにふらついたアドリィは再び尻餅だった。

『ーーー不遜だ。おれのことをきみが判断するのかい?』

少し口調は厳しくなっていた。

『おれのことは、おれが決める。おれの足手まといになるかどうかはおれが判断することのはずだ。それとも小さなきみは大きすぎる負担になり、おれには支えきれないと心配されているのか?』

機嫌を悪くしてしまったのか再び黒竜の顔が迫って、アドリィは怯えて体を小さく丸めていた。

「ごめんなさい・・・」

『きみはその小さな頭でただ考えればいい。おれと来たいか、来たくないか。そして、答えるーーー』

考える。

でも考える前から、もう最初から思いは決まっていた気がした。

「・・・一緒に、行きたいです・・・」

『よろしいーーー』

黒竜の機嫌はそれで回復していた。

横暴な黒竜は、ただ答えさせたかっただけだったのだろう。

ひどい緊張感を強いられていたアドリィは気がつかなかったけれど、先回りをしてもう見世物小屋にはいられない状況を作り上げていた黒竜には、置き去る気などさらさらなかったのだから。




黒竜と一緒に行くことができる。

信じられないような喜びだった。嬉しかった。

ずっと独りで心細かった。でもこれから一緒にいられる仲間ができたのだ。

それも大きくて美しい黒竜の許可が下りたのだ。

嬉しくて堪らなくて、体中がふわふわした気分だった。

喜びに夢中になっていたから、回りの注意を怠ってしまっていた。

黒竜はのそりと顔を回していたけれど、決死の覚悟を決めた青年の方が動きが素早かった。

黒竜の脇に立っていたアドリィへ、ぶつかるような勢いで走った世話係のケロイドの青年はアドリィの小さな体を抱え込んでそのまま逃げ去ろうとした。

一座の天幕や小屋を目茶苦茶に破壊した大きな黒竜から。

青年は、凶暴な竜から少女を守ろうとしていた。

でも許すわけはない。

黒竜はゆったりした動作で、大きな尻尾を振っていた。

青年はアドリィもろともなぎ払われて地面に転がっていた。

したたかに地面に打ち据えれた青年の腕から、アドリィは転がり出ていたが、体に受けた衝撃は人間の青年の方が大きかった。

青年の擦り剥いた膝や肩は皮膚が破れ、血が滲んでいた。

顔を上げたアドリィは何が起きているのかすぐに理解した。

アドリィにも優しい青年だった。アドリィに気がつくと這い寄り、再び腕を伸ばし体の下に抱えるように庇った。

再び黒竜の尻尾が迫って、青年の背を打っていたが、青年は決して逃げようとせず、必死にアドリィの身を守っていた。

同じ竜だからといってーーー。

青年は思ったのだ。

現れた竜が少女の味方だとは限らないだろう。心配になってアドリィを探しにやってきたのだ。

やっと見つけた少女は、大きな竜に虐められていた。

鼻息で何度も吹き飛ばす竜は、やはり人間と同じ、同じ種族だというだけでは仲良くやってゆかない生きもののようだと感じられた。

なら守らないと。

自分が守ってやりたいと、青年は思ったのだ。

竜の少女は、可愛らしかった。

話をすることもなかったけれど、少女の世話をすることが青年の楽しみで、毎日の喜びだったのだ。

見世物小屋以外行くところのない、悲しい少女の身の上に、自分を重ねて見ていたのかもしれない。

でも、それ以外に、たぶん純粋に惹かれていたのだ、と感じる青年は少しも躊躇わなかった。身を挺して少女を守ることを。

少女を守って、竜に潰されても構わなかったのだ。

竜の尾に打たれ続けてもじっと耐える青年の腕を、ゆっくりとアドリィが押しのけていた。

そして青年の下から抜け出して、起ちあがると、地面に落ちている鞄のところへ歩いた。黒竜、ガーレルの鞄で、ガーレルの衣服や荷物が詰め込まれてある物だった。

手を突っ込んで中から取りだしたのは、小振りな短刀だった。

尻尾に襲われ続ける青年は、追いかけられなかったけれどアドリィの動向を目で追っていた。

アドリィは青年を振り返った

息を呑んだのは、アドリィの両目が黒竜と同じ黄金色に輝いていたからだ。

怒りを孕んだ、闇を焦がすような黄金だった。



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今日もお付き合いいただき、ありがとうございます!(*^_^*)






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