4.続ギルド
「あの~」
受付の男がおずおずと声を掛けてくる。
「あん?」
さっきの件もあり、いささか挑発的な返事になった。
「いえ、なんでもありません」
男は、気まずそうに目を背けるが、
「言いたいことがあるならいえよ。
心配スンナ。乱暴はしねえよ。
俺は元々弱いものには手を出さねえ主義なんだ」
「行動と言ってることが一致してないね。
そもそも、リョーキの素の強さってそのおじさんとあんまり変わらないし」
などとホリィがチャチャを入れる。
それで気が楽になったのか、
「もしかしてあなた。
えっとつまりリョーキさんは、『テンセイシャ』とかいう人達と何かご関係が……。
あるのかなって思いまして、はい」
かなり男に気を遣わせているようだが、それは気にならない。
俺の生き様に関わる問題だからだ。
舐められたら終わり。それが俺の生きてきた世界の理だ。
それはそうと、転生者と言ったか。
転生者であるということをばらしてもいいものかどうなのか?
「別に問題は無いんだけどね。よくわかってないと思うし」
なんてホリィが小声でつぶやく。俺の心を読んでの返答だろう。
「だったらどうしたってんだ?」
俺は肯定とも否定ともつかない曖昧な返事を返した。
「いえね、このところちょっと変わったと言いますか。
どこか普通とは違う新規登録者が立て続けに訪れてまして。
だいたい小さな女の子と二人連れの方で」
なるほど。同じ境遇で転生しているから、スタートは似たようなものになるのだろう。目立つのも仕方ない。
「で?」
と俺は話の続きを促す。
「いや、みなさん勢い勇んで街を出ていくんですが、あまり良い結果が残せていないようでして。
いや、順調に他の街でご活躍されている方も居るとは思いますし、リョーキさん達が同じだとはいいませんよ。
ですが、万一のこともありますので。
こちらも出来る限り冒険者の方々にはその、あの、身の丈にあった堅実な活動をして末永くご活躍していただきたいと思っているものですから」
なかなか要領を得ないが、受付の男が話した内容はとどのつまりは。
俺のように自信満々で登録しては、冒険に出て消息不明になる新参者が後を絶たないらしい。
で、それらの輩は、自分が転生者であると述べ――この世界の人間にはその意味はわからず何かのグループだという認識ができつつあるらしいが――、パーティも組まずに旅に出る。
普通は、登録した街のギルドで依頼を見つけながらレベルアップを重ねていくのが一般的なためにその行動は酷く目立つ。
さらに言えば、風のうわさで――というか、死体が発見されたり、満身創痍のところを救出されたりと、なかなか無残な結果を晒している。
で、俺も似たようなパターンに該当しそうだから、出来ればコツコツと地道に活動してはどうか?
というような提案を、ひどく遠回しに、迂遠な表現を交えながら語ったのだった。
「なるほど。
喧嘩無敗の俺に対する冒涜だな」
怒りを通り越してあきれからの言葉だ。
それを聞いて男は黙り込む。
助け舟というか方針を打ち出したのはホリィだった。
聞かれてまずい話なのか、少しカウンターから遠ざかり、声を落す。
「まあ、でもおじさんの言ってることはそうなんだ。
これぞという人選をして、送り込んでいるのに全然結果が伴わないって事例が多過ぎて。
その理由がはっきりするまでは、地道な活動から始めるほうがいいかもね」
「理由? わかんねえのか?」
「そうなの。
こっちに来る前に会った人が居たでしょ? あの女の神様」
ホリィは『神様』と言う時だけなおさら小声で呟いた。
そしてトーンを戻して続ける。
「忙しいのとそこまで下界を観察できないのとで」
「頼りねえ奴だな」
「ボクはボク自身の力については把握してるんだけどね。
でも前に来た人達に何が起こったかは知らされてないから」
ちっ。と小さく舌打ちが出る。
面倒なこった。
「で? そんで、地道な活動ってのはどういうことを指すんだ?」
「そうだねえ。聞いた話によるとみんな一人で出発しちゃってるから、それとは発想を変えて、経験のある冒険者とパーティを組んで小さな依頼からこなすってのがいいかな」
まったくもって面倒なことだ。
基本的に喧嘩はひとりでやるもんだと俺は考えているのだ。
相手が多数であれ、一人であれ。
「それはリョーキが最強だった時のことでしょ」
「今も最強だ」
「そうかなあ」
スキルカードでのステータスの件があるからなのかホリィは懐疑的だ。
さっさと魔王とやらを倒して元の世界に戻って最強ロードで全国制覇を果たしたい俺にとって回り道や地道な経験積みなど蛇足も甚だしい。
「俺は、俺の好きなようにやる」
ばしっと言い切ってやった。
「うーん。それでいい結果がでるとも思えないけど……」
ホリィは乗り気ではないようだ。
「お前は道案内だけやってればいいさ」
と俺はギルドを出ようとする。
「あ、リョーキさん。
装備の準備がまだですよね?
予算によっていろいろなお店が紹介できますが……」
と、商売なのか親切なのか、受け付けの男が声を掛けてくるが、
「ヤンキーに武器も防具もいらねえよ」
と、男に背を向け右手を掲げて俺は言い返す。
そう、素手喧嘩こそがヤンキーの、そして漢の生き様なのだ。
背中の刺繍、『絶対悪』が無くとも、漢は背中で語れるはずだ。