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2.転生

 気が付くと深い森の中に居たようだ。

 まったく現実味は感じないが、ここは既に異世界なのか?


 ふと違和感を感じて頭に手をやると、自慢のリーゼントはほどけ、髪が降りている。


「あ~、とりあえず、ポマードを手に入れることから始めなきゃならんのか?」


 思わずひとりごちる。


 服装が、お気に入りの学ランのままだったのは幸いだった。

 背中に入れられた『絶対悪』の刺繍が気に入っているのだ。


『悪いけど、刺繍は消させて貰ったからね』


 どこからか声が聞こえる。


「誰だ?」


『ボク? ボクは……。

 窮屈だから、姿を変えてもいいかな?』


 剣? 剣か? 女神が与えたなんとかという剣が喋ってるのか?


「好きにしやがれ」


 俺は短く言い放つ。

 面倒に巻き込まれたのだ。それもいつ終わるとも限らない。


 何が起きるにしてもさっさと進行してくれたほうが鬱陶しさが少なくてすむ。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 と、目の前に小さな女の子が現れた。


 髪は短く、目が大きい。可愛らしいという言葉が合いそうだが、あいにくと俺にはロリ属性も、幼女趣味もない。


 少女が言う。


「始めまして。ボクはリョータに与えられた聖剣、アクソクザンだよ」


「剣がなんで人間の姿をするんだ?」


「だって、この世界のナビゲーター役でもあるから。

 喋る剣なんてあったらおかしいでしょ。

 剣の姿の時は、リョータとしか話せないし」


「それはいいが、リョータっていうのは止めてもらえないか?

 ムシズが走りそうだ」


「でも、登録名はもう決まっちゃったから」


「登録名?」


「そう。別に台帳とかが存在しているわけじゃないけど。

 天界側で管理するのに名前の登録が必要なんだ」


「だから~、紅い猟奇って言ったじゃねえか!」


「それだと文字数がオーバーしちゃうんだよね。

 なんなら変更する?

 リョーキだったら登録できるけど?」


「好きにしやがれ」


 こうして、俺はリョーキとしてこの世界で生きていくこととなった。




「で、とりあえず。

 このボク、聖剣の他にも当面の生活費とか、言語翻訳とかの能力は基本パックとしてリョーキが転生する際に与えられてるんだけどね。

 他のスキルとかは、これから身に付けていかないといけないし、拠点も必要だし、情報収集だって大事だから。

 町を目指そう」


「好きにしやがれ……。

 と言いたいところだが。

 聖剣はともかく、カネや翻訳能力ってそれってまさかチートじゃねえか?」


「うん? チート。

 ああ、そういうのがあるってのは聞いてるけど。

 チートじゃないよ。最低限必要な物しか基本パックには含まれてないから」


「ならいいんだが……」


 というのも、俺はチートが大嫌いだ。

 なんか凄そうな聖剣が与えられたというだけで、既に少し腹が立っている。


 俺はズルが嫌いなのだ。

 あくまで正々堂々と生き抜くのが俺のスタイルだ。

 悪いこともしてきたが、全て腕力、力、己の能力を活かしてのことだ。


 相手の隙をついてちまちまと働く悪行――たとえば万引きやスリ――なんかには、一切の価値を認めていない。

 それは卑怯者のすることだからだ。


「でも、時には戦略というか戦術を駆使することも必要だよ」


 少女が言う。


「お前! 俺の心が読めるのか?」


「そりゃあね。聖剣とその使い手は一心同体だから。

 読まれて困ることある?」


 そういえばないな。

 思想と行動の一致が俺の美点でもある。

 どんなに悪いことを考えていても、そしてそれを他人に知られたところで恥じるべきところのない裏表のない人間というのが俺の理想であり、今までもそうやって生きてきたつもりだ。


「じゃあ、問題ないね」


「だから、勝手に心を読むなって」


「伝わっちゃうんだからしょうがないでしょ」


「それはそうと、これからどうするんだ?」


「聞いてなかったの?

 街に行くんだよ。

 ギルドがあるからそこで、冒険者登録をしてスキルカードを手に入れるのが第一の目標」


「あ~」


 俺は落胆した。

 スキルだの必殺技だのが苦手なのだ。

 ゲームなんかもやらないことはないが、最近のゲームは複雑で面白味に欠けると思っている。

 いっそのこと素手のみ、せめてパンチ、蹴り、頭突きのみで戦い抜けるようなゲームがやりたいのだが、そういうゲームは極端に少ない。

 気を放出したりだとか、面倒な必殺技があって、それを使わないと勝てないようなバランスのものが溢れかえっている。


 特にRPGとか魔法の要素が含まれているものなんて最悪だ。


「いまどきの若い子にしては珍しいね」


「お前に言われたくねえよ。

 この小学生が!」


「馬鹿にしないでよ。

 見た目は子供でも、知識レベルは高いんだから」


「知るか! それより、刺繍がどうこう言ってたな?」


 ふと思い出して、俺は学ランを脱いで背中の刺繍を確認して驚愕、いや憤怒を覚えた。


「てめえ! 俺のトレードマーク!

 無くなってるじゃねえか!」


「だって、かっこ悪かったんだもん。

 それに、そういうバックプリントがあったらボクの性能にも影響するし」


「元に戻しやがれ!」


『絶対悪』という看板を背負って生きていくことは俺にとっての勲章みたいなものだ。

 どんな理由であれ、それを取り除くことは許されない。

 相手がこの世界で世話にならざるをえない聖剣であれ、神であろうとだ。


「一応、天界からの指示だから。

 申請はしとくけど、すぐには無理だよ。

 期待はしないで。

 刺繍が無いと力が出ないってこともないでしょ?」


「そりゃそうだが……」


 釈然としないものを感じるが言いくるめられた形だ。


「とにかく。道案内は任せてよ。

 街はすぐ近くだから」


 青い髪の少女が歩き出す。


「そういえば名前を聞いてなかったな?」


「ボク? ボクはだから、聖剣アクソクザンだって」


「いや、その、人間の姿をしている時のだよ」


「好きに呼んでくれたらいいけど?」


「俺に押し付けようってのか?

 名前ってのはな……」


 名は体を表すというか、俺は名前についてこだわりがある。

 というのも、『良太』なんて偽善たらしく、大人しい名前を付けられていい迷惑をしているからだ。

 もっと、現実に即した名前に改名できるものなら改名したいと常々考えてもいる。

 そんなことを説明してやろうと考えていると、


「ホリィってのでどう?」


「ホリィ?」


「聖剣だから聖なるのホーリーをもじって結構他の転生者から名づけられている名前なんだけど?」


「すると何か?

 俺以外の転生者も小さなホリィという名の幼女を連れて冒険しているわけか?

 ホリィだらけだとめんどくさくないか?

 他の転生者たちに出会った時とか」


「大丈夫だよ」


 少女は軽く言い放つ。


「他の転生者は、もうほとんど死んじゃってるから」

 

 


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