17.決戦前夜
激しい特訓もひと段落した。今日のノルマとしては十分だろう。
「今日はこの辺でよかろうでござる」
「そうだな」
「セリス殿、回復頼むでござるよ」
「任せて」
セリスが詠唱し、俺とヨシムネの傷が癒える。
ヨシムネと俺はほぼ互角の力となっていた。
それも、俺の気合いスキルの発動を抑えた状態でだ。
「リョーキ殿、さっきの状態で気合は何割ぐらいでござるか?」
「そうだな、大体2割程度か」
「リョーキが素の状態で、ヨシムネに勝つ日も近いわね」
セリスが盛り上がった。
「リョーキ、スキルカード……」
ホリィが変身を解いて元の姿に戻る。
「お、おう……」
俺はスキルカードを見た。
クラス選択画面に燦然と輝くヤンキーの文字を俺は見つけた。
「出た!」
「ほんと」
「まじでござるか?」
セリスとヨシムネが覗き込んでくる。
「ああ、ついに、俺はヤンキーとしての資格を得たようだ。
これもそれも、お前らのお蔭だな」
「いっとくけど、ヤンキーになったからって、ステータスが大幅にアップするわけじゃないと思うからね。
多分リョーキの強さは隠しアビリティのおかげで、その恩恵のほとんどは既に受けているはずだから。
そうじゃないと、今のレベルでのその強さは説明つかないから」
にげもなくホリィは言う。
「まあいいだろう。
とにかく、クラスチェンジだ」
俺は、ヤンキーにクラスチェンジした。
俺の体が光り輝く。
「ふん。まあ、感覚としては何も変わらないが……」
俺は、何も感じなかった。が、
「まさか……、こんなことがあるなんて!」
ホリィが驚いた。
「こ、このパラメータ……」
セリスも驚きの声を上げる。
「どうした?」
と俺は聞いた。
「すごいでござる。
拙者を大幅に上回るステータスでござる」
「ホリィどういうことだ?
ヤンキーになったからって、ステータスの変化は少ないはずじゃなかったのか?」
「そうだと思うんだけど……。
ひょっとしたら、リョーキの場合、ヤンキーというクラスの適性が半端なかったのかもしれない。そうとしか考えられないけど、他の説明はつかないよ」
とにかく俺は強くなった。
約束の一週間までは、まだ2日を残している。
俺は風呂に入った。
練習の後のひとっぷろは気持ちがいいのだ。
「リョーキ殿ちょっといいでござるか?」
浴室の外からヨシムネの声がする。
「いいもなにも、俺は入浴中だが?」
「背中を流すでござるよ」
とヨシムネが言う。
「背中? もう洗っちまったが」
「そういわずに」
とヨシムネは了解もとらずに入ってきた。
いつもの浴衣姿ではあった。裾と袖をまくっているので露出は高いが。
「いったいなんの風の吹き回しだ?」
「まあ、いいでござるよ。
背中を向けるでござる」
俺はヨシムネにいわれるままに背中を向けた。
そして背中を洗われた。
ヨシムネは無言だった。が、しばらくしてぽつりと漏らす。
「リョーキ殿、つかぬことを聞くが、入れ墨というやつはどこに入っているのでござるか?」
「墨なんて入れてねえよ」
「そうでござったか」
どうやら、ヨシムネは俺が入れ墨を入れていると勝手に思って、それが見たくて侵入してきたようだった。
「まあいいでござる。
それにしても、傷だらけでござるな。
特訓とはいえ申し訳ないでござる」
「いや、お前が居なければ俺は強く成れなかった。
礼はいえども、わびはいらねえ」
「そういってくれるとありがたいでござる」
そして、ヨシムネは夢を語りだした。
「拙者は強く成ること、そして侍としての申し分ない装備を手に入れるのが目的であったでござる。
特に魔王を倒すなどということは考えていなかったでござる。
犬が強くなったから、アイテムを買いためるために街に戻ってきたぐらいで、いわゆる一匹狼で気ままに旅を続ける予定でござった。
リョーキ殿が教えてくれた着物とニホントウを手に入れるのが当面の目的でござった」
「ああ、それなのに俺の特訓に付き合ってくれて感謝している」
「まあ、ひとつにはホリィ殿の和食を食べるというのもこれは良い体験でいわば餌につられたともいえないでござるがな」
「ああ、ホリィの和食はうまいからな。
が、三日に一度は洋食とか中華も混じっているがな」
「そうでござったか。どうりで毛色の違う料理がたびたび出ると思っていたでござる」
「なんなら、レシピをホリィに書いてもらうといいさ。
腕のいい料理人なら再現できるだろう」
「それにはおよばんでござる」
ヨシムネは俺の背中にお湯をかけながら、
「拙者決めたのでござる。
正式にリョーキ殿のパーティに入れて貰うでござる」
「それはかまわんが、自分自身の夢というのはどうしたんだ?」
「それも込での話でござるよ。
この後、強くなった犬を倒したら、着物とニホントウを作ってもらいに武器職人たちで栄える街を目指すつもりでござったが。
どうにも聞いた話ともらったイラストだけでは本当の侍の装備ができあがるのか不安でござる。
ホリィ殿とリョーキ殿に見立てて貰うほうがいいと思ったのでござる」
「それはかまわんが……」
「それにリョーキ殿を見ていて思ったでござる。
魔王を倒すと言う信念を持ち、日々精進するその姿。
漢気に惚れたのでござる。
拙者も侍として、リョーキ殿の力になれたらと思ったのでござる」
「そういうことなら、これからも頼むぜ。ヨシムネ」
「ありがとうでござる」
思えば俺も一匹オオカミだ。
ホリィとは切っても切れない縁というか、それもまたなし崩し的ではあるもののの、ホリィと別行動するとは考えもしなかった。
セリスもなんだかんだありながら面倒をみて傍にいてくれている。
そしてヨシムネだ。
仲間の力があって俺は犬と再戦できるところまで来ようとしている。
最後の頼るのは己の力とはいえ、仲間たちへの感謝の気持ちは日々大きくなるばかりだ。
ヤンキー王と舎弟という関係ではなく、信頼しあえる同等の立場としての仲間。
それは俺にとって新鮮な成分だった。
「いよいよ明後日ぐらいだね」
ホリィが言う。
「ああ、だいたい明後日ぐらいだ」
「この五日ぐらいでリョーキは大きく成長したわね」
「それでね、強くなった犬との再戦を前に、一応整理しとこうと思うんだけど」
「なにをだ?」
「ボク達のパーティの戦力だよ。
犬は大群だから、やっぱりリョーキの力だけでは勝てないと思うから」
「俺は一人でもやるがな」
言いながら、昨日の風呂でのヨシムネとの会話を思い出した。
仲間の力を借りるのは決して悪いことじゃないはずだった。
「じゃあ、まずはわたしから」
とセリスが手をあげた。
「クラスは『賢知を求めしもの』。
レベルは、28ね。
で、犬と戦うときのことだけど。
しょっぱなに、全力で全体魔法を使おうとおもっているの。
あとは回復に魔力を残しておこうかと。
だから、実際の戦いはほとんど参加できずに、逆に足手まといになるかもしれないけど」
「まあ、魔術師だから仕方ないよね」
「そうでござる。
回復役がいるというだけで心強いでござる。
それにしてもレベル28とは驚いたでござる。
どうしてこんな……いや、この街の冒険者を悪く言うわけではござらんが、それほどの力があれば、他のパーティから声が掛かって最前線とはいわないでまでも、もっと魔王城の近くの暗黒魔力の濃い地域でも活躍できたのでござらんか?」
「まあちょっといろいろあってね。
リョーキ、ヨシムネ。
もしわたしの存在が邪魔なのなら言ってちょうだい。
足手まといにしかならないのなら……」
「戦闘中に回復役を護り通すのもヤンキーの役割だ。
まあ、回復なしで俺は犬どもを倒す覚悟だが、セリスにはここまで尽力してもらった。
セリスが良いというのなら、俺の戦い見届けて欲しい」
「わかった。
もしものときは、わたしの回復魔法で回復させるから」
「たのむでござる。
次は拙者でござるな。
クラスは侍でござる。リョーキ殿との修行でレベルは32に上がったでござるよ。
おそらく、犬ども相手に後れをとるようなことはござらんが、いかんせん数が多い」
「ああ、ヨシムネは無理せずセリスの護衛に専念してくれたらいい」
「で、ボクはヨシムネの武器として」
「ああ、ホリィ。
勝手ばかりいってすまんがな」
とその後も、確認を進めていく。
その後、念のためにとアイテムを買い出しに行った店でのことだ。
「おう、兄ちゃん。久しぶりだな」
店主が言う。
「あいにく、アイテムのほとんどはギルドに買い上げられたから残ってないぜ。
兄ちゃんも行くんだろ?」
「行くというのはなんのことだ?」
「知らねえのかい?
強くなった犬の討伐隊だよ。兄ちゃんは入ってないのか?」
「討伐隊が結成されたのか?
それで、その出発はいつだ?」
「明日じゃないか?」
「なに?」
俺はホリィ、セリス、ヨシムネの顔を順に眺めた。
そして頷く。
「ちょっと予定がはやまっちまったが、討伐隊に先に犬を倒されてしまったら元も子もねえ」
と俺は言った。
「それよりも、この街の冒険者達では、あの犬どもに返り討ちに合う可能性も高いでござるよ。
そんな危険なことをどうして」
「知らねえのかい?
交易が途絶えちまってな。
まあまだ少しばかり余裕はあるが、あまり長い間他の街との行き来が出来ない状態だと食料も尽きてしまうからな。
それにどういうわけだか、待てども暮らせども他の街からの来訪者は訪れない。
犬がいるから助けを求めることもできない。
破れかぶれでも一度討伐に出征せざるをえない厳しい状況だ」
と店主は言う。
「なるほど」
「他の冒険者達に犠牲を強いるのは得策ではござらんな」
「ああ、ヤンキーの名に懸けて。
俺が犬を一掃してやる。
お前たち、出発は一時間後だ」
ホリィもセリスもヨシムネも決意の籠った表情で見返してくる。
こうして俺の、リベンジマッチが幕をあけるのだった。




