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16.適性


 パキーン!!


 乾いた音が響いた。渇きつつも澄み渡る音。残響……。


 ヨシムネが、


「な、なんということでござるか……」


 驚愕を漏らす。


 無防備な、気合も尽き、常人以下、精々常人レベルの防御力となった俺の脇腹に、ヨシムネの自慢の愛刀、オサフネが吸い込まれたはずだった。


 寸止めをしてくれていない限りは俺は多大なダメージを受けて、絶命する、よくて瀕死に陥るはずだった。


「オサフネが、拙者の愛刀が……折れたでござる」


 理由はわからない。

 が、俺の肉体は強化された強い犬にも後れを取らなかったヨシムネの剣を弾き返したということだ。


 それも、単に攻撃を無効化するのではなく武器破壊という形で。


「まいったでござるな……」


 ヨシムネが呟く。


「どうやったの? リョーキ!

 すごいじゃない。ひやひやしちゃったわ。

 これを狙ってたのね!

 新しいスキルなの?」


 セリスが聞いてくるが、もちろん俺に心当たりはない。


 しいて言えば……。


 スキルカードでスキルを取得する際に、間違って幾つかの意味がわからないスキルを選んでしまったということぐらいだ。


 俺はそのことをセリスに告げる。


「ちょっと、リョーキのスキルカード見せてみて?」


 とセリスが言うのでカードを放ってやった。


「拙者も見ていいでござるか?」


 ヨシムネが聞くので俺は、「うむ」と短く答えた。


 スキルカードを手にした瞬間、


「なに? これ?」


 とセリスが戸惑いの声を上げる。


「拙者が苦戦するのも致し方なしのパラメータでござるな」


「どういうこった。

 たしかに、俺はクラスチェンジしてそこそこのレベルアップはしたが……」


「そこそこどころじゃないわ!

 ありえない数値よ。

 魔王と戦えるってほどじゃないけど……。

 えっ?

 ヨシムネってひょっとして今のリョーキよりも……?」


「拙者でござるか?

 まあ、現段階では拙者のほうが上でござるな。

 だが、その差は大した量ではござらんよ。

 下手をすると明日、いや明後日には追いつき、抜かれるなんてこともあるかも知れないでござる。

 拙者はレベルがそこそこ高いでござるから、次のレベルアップまではまだまだ時間がかかるでござるが、リョーキの今のレベルは、よい修行を積めばどんどんとレベルアップしていける時期でござるからな」


「どういうことだ?」


 と俺は聞く。


 たしかに、クラスを変えて、スキルもとって、地味に成長したはずだった。

 が、それに比べて俺の成長具合は全然釣り合っていないほどの成長をしているようなのだ。


「ヨシムネがそんなにまで強かったっていうのも驚きだけど。

 たかだかレベル5のリョーキがレベル30を超えているヨシムネに追いつきそうな状態だなんて……」


 セリスとヨシムネはその後も俺のスキルカードをいろいろ弄って調べたが、結局、なぜ俺がそこまで強く成れたのかはわからずじまいだった。


「どうだ? ヨシムネ?

 強い犬と戦ったお前の経験からして、今の俺で強くなった犬を倒せそうか?」


「うーん、一対一であれば可能性はあると思うでござる。

 拙者は未だ、リョーキ殿の攻撃を受けていないから攻撃力としては未知数であるが、数値を見る限りにおいては、拙者と互角に近い。

 素手でも気合による攻撃力増強と組み合わせればあるいは……」


「でも、あせりは禁物でしょ?

 一週間って決めたんだから、それまでは地道に修行しましょうよ?」


 とセリスが提案する。


「うむ。それでよい」


 俺は納得した。


「が、問題は、拙者の方でござるな」


「どういうこと?」


「拙者の自慢の愛刀、オサフネが見てのとおりでござる」


 そうだった。故意ではないにしろ、ヨシムネの大事な刀を折ってしまったのだった。


「すまんな」


「過ぎたことはいいでござるよ。

 ただ、問題は、拙者がこれからリョーキの修行の相手を務めるにしろ、剣無しでは心もとないでござる。

 この街では、オサフネと同等レベルの剣が入手できるともおもわないでござるし、修復も困難でござろう。

 いくら拙者でも素手で今のリョーキと特訓するのは荷が重いでござるよ」


「俺が手加減するってわけにはいかないのだな」


 修行は、相手との実力差が大きければ大きいほどその成果が上がる。

 それには全力を尽くさねばならない。という制約もある。


 つまりは、手抜きの練習をしていても微々たる経験値しか手に入らないということだ。


 かといって他の冒険者とまた喧嘩や修行をするにしても、どうやら今の俺はこの街の冒険者を凌駕する強さを手に入れてしまったことになる。


 であれば、他の冒険者と修行をしてもそれはやはり微々たる経験値しか得られないということになるのだ。


「そういうことなら……。

 ボクが力になれるかもしれない」


 とホリィがやってきた。


「ホリィ」


「話は聞かせてもらったよ。

 リョーキ、スキルカードを見せてみて」


 とホリィが言うので俺はスキルカードを見せるようにセリスに視線を投げて頷いた。


「うん、やっぱり」


 とホリィが言う。


「わかるのでござるか? リョーキの強さの秘密が?」


「おそらくというか、半分は推測なんだけど」


 と前置きしてホリィの説明が始まった。


「アビリティ……」


 ホリィが呟く。どこか悲しそうだ。


「アビリティ? なんでござるか?」


「聞いたことがないわ」


「実装はまだのはずなんだけど。

 そうとしか考えられない。

 この世界にはクラスが沢山あって、選びきれないほどでしょ。

 で、あまり知られてないんだけど、冒険者それぞれに適性クラスっているのがあるんだよ。

 運よく適性クラスに就くことができたら、そこには適性ボーナスによる能力値の底上げと、そして隠しスキルともいうべきアビリティが与えられる。」


「俺は、『舎弟』になったが、このクラスには適性があったっていうことか?」


「リョーキはもう『舎弟』なんかじゃないよ。便宜上舎弟というクラスに属していることになっているけど、内部ではクラスチェンジしているのと同じ。

 新規クラスが解放されるときに見られる現象なんだ。

 上位クラスがいくつも現れる時には、起こらないんだけど、ごくまれに、選択できる上位クラスがひとつだけになることがある。

 その時には、上位クラスのアビリティが隠しパラメータとして発現してその効果の一部が先に手に入るんだ。

 アビリティってのはいろいろあって……。

 でも、このスキルカードは対応していないみたい。

 アビリティの確認ができないから……」


「リョーキ殿がどのような能力を手に入れたかは現時点ではわからないということでござるな」


「そういうことだね。

 このステータスを見る限り、そう遠くないうちにリョーキは強い犬に勝てる力を手に入れれるよ」


「だがな、ホリィ。

 練習相手のヨシムネの剣が折れてしまったのだ。

 俺の特訓の相手を務めてくれる奴がいないのだ」


「方法はふたつある……。

 ひとつは、セリスの魔法。

 セリスの魔法であれば、リョーキの修行相手が十分に伝わると思う」


「えっ?」


 とセリスが驚いた顔をする。

 そして、……、


「でも……」


 となにやら言いづらそうな気配でセリスが黙り込んだ。


「うん。それが難しいってことはわかってる。

 だからそれは、最後の策。

 今の段階でそれよりふさわしい方法は……」


 そこでホリィは言葉を切り、ヨシムネを見つめた。


「ボクはヨシムネの剣となるよ。

 ヨシムネならボクのことを使いこなせると思うから……」


「拙者が……。

 ホリィ殿を?」


「うん。ボクは自由に姿を変えられるから。

 ヨシムネにとって適性効果が得られる最適の武器。

 カタナの姿となってヨシムネに使役する。

 それで、リョーキが魔王を倒すための力になるんだ」


 ホリィの決断。その裏にどれだけの葛藤があったのかは俺は知らない。

 また、ホリィの提案が、彼女自身にとってどれだけのプライドをかなぐり捨てて、どれだけの希望を失い、どれだけの苦悩の上に選ばれた道なのかもわからない。


 が、ホリィはホリィなりに俺の力になる方法を見つけ出した。

 俺のためにできることを考えて、道を作ってくれたのだ。


 ならばそれに応えるのが俺の役目だ。


「もちろん、ヨシムネがいいっていってくれたらだけど」


「ホリィ殿の心意気。無下にするわけにはいかないでござる。

 拙者も魔王の討伐の力になれるのであれば。

 そのお力、およばずながらもお借り受けるでござる」


 翌日から、ホリィ(アクゾクザン)を持つヨシムネとの血のにじむような特訓が始まった。



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