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14.葛藤

「期限は一週間だ。それまでに俺は犬を超える力を付ける」


 俺は言い放った。


「だけど、クラスチェンジに成功したからって、一週間でそこまでの力を付けるのは難しいんじゃない?」


 ホリィが言う。


「いや、可能性は十分だ。

 俺が選んだクラス、舎弟。

 このままでは犬には勝てないだろう。

 少なくとも、二回はクラスチェンジが必要だろう。

 運が良ければそれでヤンキーまでたどり着く計算だ」


「一週間で二回もクラスチェンジ?

 そんなにうまくいくかなあ?」


「心配はいらねえ」


 俺は言い放った。


「そうよ、リョーキならきっとできるわ」


 セリスが肯定する。希望を持ってくれている。


「でも、クラスチェンジが上手くいったとして、それだけで犬に勝てるだけの強さって身に付くのかなあ?」


 ホリィはあくまで懐疑的だ。


 俺は、説明してやった。


「まあ、単純な攻撃力や防御力では難しいだろう。

 だが、スキルの組み合わせいかんによっては、山積みの問題も一気に解決する可能性がある。

 俺はそれを実現するために命を賭けるのだ。

 まずは、気合。既に手に入れているスキルだが、これのスキルレベルアップが一番の課題だ。

 気合スキルというのは、攻撃力そして防御力を向上させるのだから」


「気合スキルってそんな使い方があったんだ。

 わたしの知っている限りだと、防御力の上昇にしか効果が無いって」


 セリスが口を挟んだ。


「まあ、それは……、攻撃力の上昇は俺に与えられた特権だな。

 武器を使って攻撃するクラスにとって、気合は防御の補助にしか使えない。

 なぜなら、気合スキルと言うのは体の強さ、固さをUPするためのスキルだからだ。

 だが、それは拳で戦う俺にとっては攻撃力を上昇させるという効果が付与される。これは、既に実験にて実証ずみだ。

 つまりは気合スキルというのは俺にとっての生命線ともいえるスキルだ。

 ならば、他のスキルは気合スキルをより使いやすくするためのスキルに絞って取得していけばいいということになる。

 気合を素早く溜めるための、『ブチ切れ』、気合レベルと精神力の交換効率を上げる『根性』などのスキルだな。

 通常気合を溜めるには時間がかかる。

 が、基礎的な能力に劣る俺は、悠長に気合を溜めながら戦うなんてことはできない。

 ならばどうすればいいか。

 そこで役に立つのがブチ切れだ。

 ブチ切れは、発動すれば一気に気合レベルをMAX近くまで溜めることが可能だ。

 ただし、その成功率に難がある。一度でMAXまで行くことは難しいだろうし、運任せで戦うのは、心もとない。

 よって、戦闘開始と同時に、ブチ切れを複数回発動して一気に気合をMAXにするという戦略だ。

 ここで問題になるのが、精神力だ。

 知ってのとおり、気合というのは精神力を元にして上昇させるパラメータだ。

 通常、一度のブチ切れで精神力は空になる。

 カラになってしまっては二度目のブチ切れは使えない。

 その時に有効なのが、根性だ。根性は残りの体力が少なければ少ないほど精神力の回復量が増えるスキルだ。

 根性を発動して精神力を回復させる。その際に体力はぎりぎりのゾーンであればあるほど回復量が増える。

 それはなにも事前にダメージを受けておく必要などはない。

 気合を溜めながら相手の攻撃によって自然に体力は失われていくだろう。

 俺はひたすら、敵の攻撃を耐えながら、根性とブチ切れを繰り返し発動していくという寸法だ。

 そして、気合を溜めて、一撃で敵を葬り去る。

 どうだ? 俺の勝ちパターンが見えて来ただろう」


「すごいわ。すごいわリョーキ。完璧な作戦!

 これなら絶対に行けるわね」


 セリスが喜んだ。


「……」


 ホリィは黙ってうつむいた。


「どうした? ホリィ」


 俺は聞いた。


「無茶だよ……。なんて言っても聞いてくれないんだよね」


「うむ」


「それにしてもどうして、リョーキがヤンキーのくせにそんな戦略を?」


 ホリィが聞いてくる。


「うむ、ヨシムネにいろいろ聞いたのだ。

 ヨシムネが持っている研究ノートというのがあってだな」


「拙者が書いたのではござらんが。

 その、テンテイシャという物から得た情報をまとめたものなのでござる。

 一時期テンセイシャとともに旅をしていた時期があってな。

 一緒に旅をしていた仲間が情報を綴ったものでござるが、拙者が譲り受けたのだ」


「そうなんだ……。

 すごい努力だね。リョーキ。

 でも……。

 その作戦じゃあ……」


 ホリィはぐっと拳を握ってわなわな震えだした。


「ボクなんか、ボクなんか要らないじゃないか!」


 叫ぶと、ホリィは走り出ていった。


「おい! ホリィ」


 と俺は引き留めようとするが、


「もうリョーキなんて知らない!

 勝手にすればいい!」


 とホリィは聞かずに出て行ってしまった。


「追わぬでござるか?」


「しばらくすれば帰ってくるだろう」


 俺は冷たく言い放った。


「残された時間も少ない。

 ホリィには後で説明すればいいだろう。

 とにかく犬を倒す、そのことに今は全力を尽くすべきなのだから」


「そう……」


 セリスは、俯きながら言いながらも、


「ちょっと、わたし見てくるね」


 とホリィの元へと追って行った。


 俺が、下手に関わるよりもセリスに任せておいたほうが良いかも知れない。


「ヨシムネ。早速特訓の開始だ」


「わかったでござる。

 手加減のほどは任せるでござるよ。

 こうみえても相手の力量を見抜く力には自信があるでござるから」


「手加減などいらない。といいたいところだがな。

 少しばかり様子を見て貰おうか。

 セリスも居ないことだしな」


「いつになく謙虚でござるな?」


「ヤンキーだってたまには謙虚になるもんさ」


 そして、俺の血のにじむような特訓が幕を開けた。






「ホリィ!」


 セリスがホリィを見つけた。


 ホリィは草むらでしゃがみこんでいた。


「セリス……」


「わかるわよ。ホリィの気持ちも」


 セリスが言う。


「わたしだって一緒だもん。

 リョーキの特訓で、傷ついたリョーキを回復させるって役目はさせてもらうことになってるけど。

 それ以外ではほとんど役に立たないから……」


「セリス……?」


「でもね、わたしはそんなことぐらいじゃめげない、くじけない。諦めない。

 愛する人のことを想えば、影で支えるってことも大事だし。

 なによりもやる気になって突き進む、そんなリョーキを見守るだけでも十分だって思うから」


「セリスは大人だね」


「そんなことないわよ」


「ううん。ボクとは全然違うよ。

 ボクは……。

 ボクはリョーキが強くなるところを見たいよ。

 リョーキにはどんどん強くなって欲しい。

 だけど……、どうしてもボクの力、聖剣の力を使って戦うリョーキが見たいんだ。

 一緒に戦いたいんだ。

 だけど、リョーキはどんどん遠くに行ってしまうような気がする。

 ボクなんか全然必要としてくれないんだ」


「ホリィは……、リョーキの力になりたいんでしょ?」


「うん」


「それって、方法はひとつしかないのかな?」


「どういうこと?」


「ホリィが変身する剣の力は凄いんだろうって思うよ。

 ただ、今はリョーキがそれを使いこなせていないだけで」


「そうかなあ。それも自信がなくなってきちゃったよ。

 ボクと同じ力を持った剣を使った冒険者、転生者たちが全然活躍できてないみだいだから。

 ひょっとしたら、ボクは不良品なのかもしれない。

 すごい力なんて備わってないのかもしれない」


「そんなに自分を責めないで。

 自信を失わないで。

 きっと神様はみてるのよ。リョーキの頑張りも、ホリィの態度も」


「神様が?」


「そうよ。犬が強いっていうのは神様が与えた試練なのよ。

 リョーキには直接的にその試練が与えられた。

 で、リョーキは拳ひとつで戦うって決めたでしょ」


「うん」


「それはホリィにとっての試練だと思うの。

 それを受け入れて、乗り越えて、いつかきっとリョーキの役に立つ日が来るって信じてリョーキと一緒に努力するっていうことが必要なんだと思うの」


「ボクが、リョーキの力に?

 なれる時が来るのかなあ?」


「大丈夫よ! 自信を持って。

 きっと諦めずに待っていればその時がくるわ」


「少し……、考えさせてくれないかなあ」


「ホリィ……」


「ひとりで考えたいんだ。

 ごめんね、セリス。

 せっかく来てくれたのに」


「いいのよ、ホリィ。

 じゃあ、わたし行くね。待ってるから」


「うん、ありがとう」


 セリスは二度三度振り返りながら、ホリィの元を後にした。

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