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10.修行

「兄ちゃん、今日もやるのか?」


 ギルドに入るなり声を掛けてきたのはガルナという冒険者。

 それなりに腕は立つようだが、基本的に怠け者で最低限の仕事しかせずにぶらぶらしている。


 喧嘩、つまりは冒険者との戦いで俺の経験値アップを目指した活動の初日に俺をのした奴でもある。


 因縁深い相手だが、恨みつらみはこの数か月で消え失せた。


 非常に協力的に俺の修行に付き合ってくれているのだ。


 なに、相手からすれば簡単なお仕事だ。


 俺と戦うだけ。そして俺の方からは手出しはしない。できない。

 相手の一撃を受けてから反撃するのが俺の流儀だからだ。

 そして、俺は相手の一撃をいまだに耐えることはできない。


 地道に溜めた経験値で、防御系のステータスを上げて見てはいるが、このガルナのパンチの威力に耐えきれるほどの力はついていないのだ。




 俺は今日も、一撃であっさり敗北しセリスの膝枕で回復魔法を受けて意識を取り戻した。


「ガルナさん。

 今日もありがとう。これ、いつものやつ」


「おう、ありがとよ。こいつは酒が進みそうだ」


 ホリィがガルナに何か手渡している。

 俺と他の冒険者の戦いはもはや売った売られたの喧嘩ではなく、俺のささやかな経験値取得のためだということが知れ渡っている。


 たまに、ストレス発散のために喧嘩をふっかけてくる奴もいるが、今となってはそういう奴は数少ない。


 なので、俺の修行に付き合った礼としてホリィが手料理を振る舞っているのだった。ギブアンドテイクというやつだ。


 俺は、修行相手に事欠かないし、ホリィの料理は美味であり、重宝されている。

 今日はガルナ以外には修行相手の希望者がいなかったが、多数の暇人冒険者がたむろしている時は取りあいになるくらいだったりもする。


 ともかく。


 俺の強さは一向に向上していかない。


 このまま後何か月、いや何年地道な修行を繰り返せば街の外に出て魔物とやりあうところまでいくのか?


 まだまだ道は長いようだ。


 今日の分の修行を終え――修行は一日一回だとセリスに決められている――、帰る道すがら、おかしな恰好をした奴とすれ違った。


 顔は端正な女――二十歳前後だろうか――、でポニーテールがちょんまげのように揺れている。

 おかしなのは服装だ。

 どっからどうみても浴衣にしか見えないような服を着て、腰には剣をぶらさげている。

 ミスマッチ、あまりにもミスマッチ。


「なあ、セリス?

 ああいう恰好って見たことあるか?」


「あんまり……っていうか一度も……」


 セリスは言葉を濁しているが、あれは変人だというような表情だ。


 そりゃそうだろう。日本でならまだしも、この世界では浴衣など、奇異に映るに違いない。ガラも派手なのだ。


「だよな?」


 そこでホリィに尋ねてみた。


「あいつも転生者だったりするのか?

 見たところ日本人には見えないが」


「ああ、リョーキの国の衣装だよね。

 浴衣っていうやつ」


 ホリィは案外物知りだ。日本の一般常識は大体知っている。


「どうだろうね。

 あの剣というか刀っぽいけど……、あれはアクソクザンじゃないから。

 聖剣持たずに転生した人がいるって話は聞いたことないなあ」


「なるほど、ではあいつは転生者ではないという可能性が高いんだな」


「そうだね。

 でもどこかで転生者と関わった可能性ならあるね。

 大きな街では武器や防具をカスタマイズして作ってくれる人もいるから」


 この時は、あの女が俺達と関わってくるなんざこれっぽっちも考えていなかったが、後にあの女は重要な人物となるのだった。




 翌日のことだった。


 いつものように、ギルドへ修行に向う俺達三人。


「噂をすれば……」


 冒険者のひとりが言った。


「彼らがそうか?」


 そう尋ねたのは昨日見かけた浴衣姿の女だった。


「なにか用ですか?」


 緊張気味に、セリスが問う。


「うむ、聞いた話によると珍しい食べ物を食べさせてくれるとか」


「ああ、ホリィの料理のことか?」


 確かにホリィは和食から洋食までこなすし、異世界料理よりも日本人好みの食事を作ることが多い。

 たまに、ここで俺の修行相手をしてくれている冒険者にもそういった料理を出している。

 そのことを言っているのだろう。


「今日もあるのか?」


 女が聞く。


「持ってきてるよな?」


「うん、まあいつもどおり」


「ならば、それを戴く!

 場合によっては力づくでもだ!」


 女が力んで言う。


「でもこれはリョーキの修行のお手伝いをしてくれた人のお礼だから」


「渡せないというのか?

 ならば力づくでも奪うといっただろう」


 女が腰の剣に手をやった。


「まあまあ……」


 とセリスが宥めて事情を説明する。


 話さなくても良い内容まで話したために話が長くなった。


「とすればなにか?

 クラスにもつかずに、冒険者相手だけをしてひたすら経験値を溜めているのか?」


 女が呆れたように言った。


「それしか道はない。

 俺はヤンキーだからな!」


 俺は言ってやった。


「待て! 矛盾しているぞ、少年」


 女が言う。


「矛盾ってどういうことだ?」


 俺が聞いた。


「ヤンキーというのは立派なクラスではないか?

 それもかなりの上級職だ。

 それぐらいのクラスについていればみじめな経験値稼ぎも要らないしこんなところでうろうろしている必要もなかろうて」


「ヤンキーなんてクラスがあるの?」


 ホリィが聞いた。


「まさか?」


 とセリスが疑いの表情を顔に浮かべる。


 が、俺は身を乗り出して聞いた。


「どうやったらヤンキーになれるんだ?

 知っているのか?

 教えてくれ、変な恰好の女!」


 変な女は、


「やはり変なのか?」


 と聞いてくる。


「うすうす気づいていたがお前達もテンセイシャとか言う奴の仲間か?」


「ああ、厳密に言うとホリィは違うし、セリスは元々この世界の生まれだが、俺は転生者だ」


「なるほど……。

 では、侍というクラスをご存知か?」


「侍……、知らねえことはねえが……」


「交換条件でどうだ?

 拙者は侍を目指して旅をしている。

 理由は聞くな。

 侍の情報を教えてくれ。

 そうすれば、ヤンキーの情報を教えてやろう」


 渡りに船とはこのことだ。


 いわゆる、クラスにつかないでこのままのんびりと地道に経験値稼ぎをしていくことには飽きが来ていた頃でもある。


 正式にヤンキーというクラスが存在するのなら、そのクラスになってしまうのが手っ取りばやい。


 自称ではなく、正式なクラスとしてのヤンキーをめざし、そしてヤンキーの向こう側へと到達する。

 俺の目標は決まった。


「お前の話、嘘はないな?」


「武士に二言はないというではないか」


 そうして、変な恰好の女侍志望と俺達は情報交換をすることになった。



 すんません。本来は、聖剣アクソクザンの設定として、善行を行えば攻撃力が増し、悪いことをすれば攻撃力が下がる(それは隠しパラメータの善悪が関係している)というのがありました。


 相手が悪であるほどに攻撃力を増すとかいう仕組みを考えてもいました。


 そこで、暴れもののヤンキーが四苦八苦しながら善行を積んでいく、そして魔王を倒すというのがこの物語の趣旨でした。


 書いているうちに、幽遊白書の序盤に似ているなと気付き、いろいろ考えたのですが、だめでした。


 リョーキは決して魔王相手であれ剣では戦わない人になってしまったのです。作者に相談もせずに・


 このあとリョーキは、ヤンキーというクラスにつきます。


 それは、侍を目指す女が、荒くれ者というクラスからしゅぱつして現在の用心棒というクラスに到達するまでに、ヤンキーというクラスが選択肢に出たことがあるという情報に基づいたものです。


 でも、途中からこの作品は犬を倒すのが目的になりました。


 なんだかよくわからなくなったので、すみませんが、これ以上連載を続けていくのは無理だと判断しました。


 ここまでお付き合いいただいた方には申し訳ございませんが、次話を持って打ち切りとさせていただきます。


 

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