1.プロローグ
本作は打ち切りエンドを迎えました。
我ながら酷い終わり方です。と、あらかじめ言っておきます。
気が付くと真っ白い場所に居た。目の前には美しい女性が居る。
美しいっていうか、なんというか、まあ現実ではお目にかかれないぐらいの若くて上品な西洋人だ。
「あなたは、紅神良太で間違いございませんか?」
「ああ!? 俺を誰だと思ってるんだ!? てめーこの!」
「ですから、紅神良太ではないのでしょうか?」
「うるせえ! 人の名前を連呼すんな!」
「連呼って二回言っただけでしょう」
「気に入らねえ、何もかも気に入らねえ」
「まあ、落ち着いてください。
いろいろと説明することがありますから。
そこにおかけになって」
「座れったって……」
椅子も何もない。仕方ナクというか、俺はその場にしゃがみこんだ。
「まあ、聞いていた通り。それはヤンキー座りというやつですね」
「ヤンキーがヤンキー座りして何が悪い!」
俺はタバコを取り出して火をつけた。
煙を深く吸い込み、そして吐き出す。
少し気持ちが落ち着いた気がする。
が、このイラツク状況はそんなことじゃあ緩和されない。
「残念ながら、あなたは、死んでしまいました。
16歳という若さでです」
「そうみたいだな」
それくらいはわかっている。
「50人か。100人相手に一人で勝ち切った俺ともあろうことが……、
たった50人相手に不覚を取るとは……」
「負けたわけじゃありませんよ」
女神風の女性が言う。そうだ。
綺麗な西洋人というか、佇まいから何から、こいつは女神に違いない。
面倒なことに巻き込まれる序章だ。
「負けたわけじゃない?
喧嘩の結果として俺は死んだんだろ?」
「紅神良太……」
「だから、その名前を呼ぶなって!」
「なんとお呼びすればいいので?」
「リョータって名前が気に入らねえんだ。
人は俺を『紅い猟奇』と呼ぶ。
呼んで恐れるんだ」
「ほどよく厨二ですねえ」
「うっせえ!」
殴ってやろうかと立ち上がりかけたが、俺は女には手をかけえねえ。
それが、老婆であろうと、神様であろうとだ。
悪の限りを尽くして生きてきた俺に残された最後の良心だ。
「ともかく、紅神さんは、お亡くなりになりました。
死因は……」
そこで女神は言葉を切った。
そして言いにくそうに続ける。
「30人ほどを鉄パイプで殴り倒したあとだったでしょうか。
変形して使いづらくなったパイプをあなたは放り投げましたね?」
「ああ、残り二十人くらいなら、素手で十分だったからな。
よわっちい相手に、武器を使うのは俺の矜持に合わねえ」
「その鉄パイプが運悪くあなたの頭の上に落ちてきたのです。
アタリどころが悪くて、あなたは……」
「ばっ……。
馬鹿野郎!
自分で投げた鉄パイプに当たって死んだって言うのかよ?」
「はっきり言って想定外でした。
計算上、あの鉄パイプであなたが死に至る可能性は……、
0.000000001%以下だったはずで……」
「なんの、確率か知らねえが、人生運の悪い時は悪いさ。
さっさと地獄にでも落としやがれ」
「わたしもそうしたいところなのですが、あいにくと地獄なんて言うところは存在しませんので」
「じゃあなんだ? 天国か?」
「天国に行けるのは善い行いを積んだ人間だけと決まってます」
「そうだろうな。期待はしてねえよ。
で、どうなんだ?
このなんにもないだだっ広い空間でアンタと一緒に暮らすってか?」
俺の言葉に女神は身構えた。
まるで、貞操の危機を感じるように。
「心配スンナ。俺は女子供は手にかけねえよ。
いやらしいこともしない」
それで女神の警戒は若干溶けたようだった。
「お願いがあるのです。
本来ならばあなたには非常に向いていない任務なのですが」
「ああ? 自慢じゃねえが俺は人からの頼みなんてよっぽどの気分が乗らねえと受けねえぞ」
「しかし、上層部からの決定事項でもあります。
喧嘩に明け暮れ、人間としてはかなりの戦闘能力を持つあなた。
その強さには需要があるのです。
意味わかりますか? 需要」
「需要ねえ。こう見えてもそれなりに勉強はしてんだ。
新聞は読まねえがな!」
「紅神さんには、異世界に行ってもらいます」
「異世界ってえとあれか。今流行っているやつか?
異世界でだらだら二度目の人生をやり直すってパターン?
もしかして」
「もしかせずともそのとおりです。
だらだらと暮らされたり、現世でのように悪の限りを尽くされても困りますが」
「俺に期待スンナよ」
「とはいえ、他にめぼしい人材が居ないのも事実なのですよ。
何人かは既に異世界に送り込みましたが、成果が上がってないのです」
そこで再び女神は言葉を切る。
目を離したわけでもなかったが、気が付くと女神の手には一本の剣が握られていた。
「聖剣、『アクソクザン』です。
天界が開発に成功した、魔王を討伐するための唯一の武器です」
「刃物は、性に合わねえな」
「まあ、そういわずに。とても便利なものですよ。
紅神さんには、これを持って異世界で魔王を倒していただきたいのです」
「魔王? なんで俺がそんなことをしなきゃならねえ?」
「さっきも言いましたが、既に『アクソクザン』は量産体制に入っています。
その性能をフルに発揮するために、これまで不慮の事故で死んだ何人もの心の清い若者を異世界に送り込んでます」
「性能? フル? 心の清い?」
「それはおいおい。
とにかく、様々な若者を送り込みましたが、未だ魔王どころか、スタート地点の街周辺のモンスターにも苦戦を強いられている始末で」
「不良品じゃねえのか? その剣」
「いえ、性能に問題が無いことはのTTマークがついていることが保証しています。
TTマークは厳しい検査と審査を潜り抜けないと付与することが出来ない、いわば天界のお墨付きの品質保証の印ですから」
「んなことはどーでもいい。
で? 仮に俺がアンタの依頼を受けたとして何の得がある?」
「得と言うほどの事でもないですが。
上手く魔王の討伐を成し遂げた暁には天国での暮らしを保証します」
「退屈そうだな。天国なんて」
「それがお気に召さないようであれば、あなたが亡くなったあの喧嘩のあった日の朝にまで時間を戻して、生き返らせるということも可能ですが……」
その言葉には正直惹かれた。
俺の目標。ヤンキーとしての日本制圧。
その偉業はまだ途中段階だ。
中学時代はチャリでしか移動できなかったために、近所の中学までしか勢力を伸ばせなかった。
が、高校になってバイク(もちろん無免許)という移動手段が手に入ったのだ。
高1で関東制圧。
高2で日本の北半分の高校を配下に置き。
高3には近畿や九州にまで足を伸ばし日本中の高校を支配下に置く。
俺の夢はまだ叶えられていない。
その悲願が達成できるのなら……。
「おうよ! わかった。
異世界でもなんでも行ってやろうじゃねーか!」
「そう言ってくれると信じてました。
詳しいことは、異世界に行ってからその聖剣に聞いてください」
「聖剣に? いったいどういう……」
聞きかけた時には意識が失われかけていた。
「すみません。わたしもこう見えていろいろ忙しい身ですので」
という女神の声を聞きながら……。