封筒
一時限目の始業チャイムが鳴った
今日は、先生に同行して、新しい生徒が教室に入ってきた。
睦先生は、転入生を紹介した。
「え~、今日はアメリカからご両親と帰国して、本校に転入となった 金星 明君だ。皆、仲良くするように・・」
「え~、金星君、自己紹介できるかな?」
彼は黒板に向かい、自らの名前を書き出した。
金 星 明
「かねほしです。アメリカではこの名前からニックネームが 明けの明星(Lucifer) と呼ばれていました。あきらでも、かねほしでも呼びやすい名前で呼んでください!」
とても、垢抜けた感じのいい転入生だった。
成績もよいらしく、特待生としての入学で転入してきたようだった。
「え~、赤車君の後ろの席、空いてるから今日からそこが、金星くんの席だ」
「え~、みんなよろしくたのむよ」
「赤車くん、いろいろ聞くと思うけど、よろしくね」
「あっ、うん。こちらこそ、よろしく」
なんか、こっちが転入生みたいに緊張した受け答えになってしまった。
その日の授業が終わって、部活に行こうとしたとき
「赤車くん、ちょっと時間ある?」
あきらくんが、声をかけてきた。
「うん、部活あるんだけど、ちょっとくらいなら」
「赤車くんは部活入っているんだ。何の部活やっているの?」
少し答えるのに、臆面してしまったが
「コンピュータのプログラミングをする部活だよ」
と、パソコン部のことを、自分なりにかっこよく言ってみた。
「ふーん。プログラムかぁ。今度部活見に行ってもいいかな?」
「えっ、いいけど。つまらないかもしれないよ・・。」
正直、3名の部活で根暗なイメージを持たれそうなので、恥ずかしい気持ちがあった。
「ありがとう。僕もプログラムするんだよ。」
「ほら、この本よかったら読んでみてよ。貸してあげるから」
あきらくんは、なんかプログラム言語の本らしいものを貸してくれた。
僕も、特に断る理由も無く受取ってしまった。
「あ、僕そろそろ部活に行くけど、話って?」
「また今度話すから、とりあえず今日はその本だけでも読んでみてよ」
そういって、あきらくんは教室を後にした。
ガラガラガラー
「はぁはぁ、遅れてしまった。ごめんよ」
「あれ?今日は佐竹1人しかいないの?」
部室に遅れていった僕は、いつもと雰囲気が違ったので、そう声をかけた。
「なんか、あいつ今日は家族で飯行くからって、帰っていった。」
「そーなんだ。」
「あ、今日さ転入生来てさ、帰りにこの本貸してくれたんだけど・・」
「真っ黒の本だな。何の本?」
「なんか、プログラム関係っていってたけど、見てもよくわからなかった」
「ちょっと見せてみてよ。」
「いいよ。」
そういうと、僕は彼にその本を手渡した。
パラ・・パラ・・・・パラ・・・
「ん、ん。。」
「昔のBASICプログラミングが載ってるだけだ」
「BASIC?」
僕は、部活ではJ#、C#、C++しか使ったことが無く、一瞬わからなかった。
「なるほど。BASICなんだ。佐竹はBASICでプログラムできるの?」
「当たり前だよ。一番簡単なインタプリタ言語だからね」
「インタプリタ?」
「あー、一行づつ順番にしか処理できない言語なんだよ。昔は主流の1つだったんたよ」
「そーなんだ。よかったら、その本読んでみる?」
「でも、転入生の本だろ?まずくないか?」
「部室で保管しとけば大丈夫だと思うよ」
「まあ、そういうことなら。。 BASICも簡単だから教えてやろうか? ちょうど本もあることだし」
「うん。簡単なら教えてよ」
佐竹はこの部の部長で、僕やもう一人よりも、プログラム経験が長く、かんたんなプログラムならすぐに作ってしまう。
カタカタカタカタ・・・
10 PRINT "A";
20 GOTO 10
RUN
「そら、実行」
がめんに「A」が、延々と表示された・・・。
「うわー、これって無限ループでPC暴走するんじゃ・・・?」
カタカタ
[CTRL][BREAK]
「ピー」
お、簡単に止められるんだ。
「BASICの場合、コンパイルしなくても簡単に実行できるものもあるから、こんなプログラムでも、あわてなくて大丈夫なんだ」
本を取ろうとして、持ち上げた瞬間、本の間から赤い封筒がこぼれ落ちた。
「なんだこれ?」
2人とも、同時に声を出してしまった。
封筒の口は封がしてあり、中にはCDが入っているような感触だった。
「なんかのデータ入ってるんじゃないのか?」
佐竹は興味深々にそうつぶやいた。
「でも、これ転入生の物だし、勝手にあけちゃ悪いと思うよ」
「そーだな。明日、転入生にも来てもらって何か見せてもらわないか?」
「うっ、うん。そんなにまだ、話したことも無いんだけど・・。聞いてみるよ」
その日は、そのまま過ぎていった。
「じゃ、また明日」
「ああ、転入生の件、明日たのむぞー」
そういって、2人は帰宅していった。
翌日、学校に来るとなにやら騒々しい雰囲気でいつもの様相ではなかった。
「おい。赤車。」
「え?」
振り返ると、昨日部活を休んでいた、召二だった。
「俺らの部室に、泥棒が入ったらしいぞ」
「ほんとに?」
「ああ、ただ、パソコンなど何も取られていないみたいなことを先生が話してた」
「あっ」
そのとき僕は、転入生から借りた本と赤い封筒が脳裏によぎった。
あわてて、部室のほうに行くと、立ち入り禁止のテープが張ってあり、中には入れそうにはなかった。
「赤封筒か」
あきらくんが僕の横にいつの間にか立っていて、そうつぶやいた。
「ごめん。昨日借りた本、部室において帰ったんだ。すぐ探すから・・・」
「赤い封筒だけ盗まれたんだと思うよ」
あきらくんは、妙に冷静にそういった。
「あっと、あの、本に入っていた封筒のこと?」
「君は、あれを空けなかったんだね」
「うん。封がしてあったし、明日、中身を教えてもらおうって佐竹と話してたんだ。」
「あ、佐竹っていうのは、この部の部長なんだよ。」
僕は、しどろもどろになって、昨日のいきさつを話していた。
「もし、佐竹くんがあの封筒を開けたのなら・・・」
そう言いかけて、あきら君は教室に戻っていった。
僕は、何がなんだかわからず、あきらくんの後を追いかけて教室に向かった。
一時限目の始業チャイムが鳴った
先生が入ってきて
「え~、佐竹くんが・・」
「え~、昨日の帰宅のときに、車と接触して入院しました。」
「え~っと、皆さんも帰宅の際には十分に気をつけてください。」
「え~、昨日のパソコン部の部室ですが・・・」
「え~、特に取られたものは無かったようです。念のため警察の人が調査をされますので、今日はパソコン部は学校が終わったら、帰宅してください。」
赤い封筒も、残っているのか?あの本も大丈夫なのだろうか?
授業中そのことばかり考えているうちに、放課後を迎えた。
部室に行こうとすると、あきらくんが声をかけてきた
「本は無事だったけど、封筒が無くなっていたよ」
「え?どうして?」
まさに、そのことを確認に行こうとしていたので、聞き返してしまった。
「僕が、第一発見者なんだよ。朝早めに学校に来て、校舎を見て歩いていたら、扉の壊されている教室があったから、中に入ってみたら、僕の本がおいてあってんだ。中にはさんでおいた封筒だけ無くなっていたから・・・。」
「ごっ、ごめん。ちゃんと持って帰ってれば、無くならなかったのに・・。」
「いや、赤車くんが無事でよかったよ」
このとき、僕は泥棒と遭遇しなくてよかったね。といっているものだとばかり思っていた。
「これから、佐竹のお見舞いに行くけど、あきらくんも行く?」
「そうだね。本当なら今日会うはずだったんだから」
病院に向かおうと玄関を出たとき
「おーい、俺もいくぞー」
召二が、後ろから走ってきた。
「あ、はじめまして、雅山召二です。みんな召二って呼んでます」
転入生に向かって、召二は挨拶をしていた。
「こちらこそ、よろしく」
あきらくんはそっけない気もしたが、挨拶を返していた。
「じゃ、行こうか」
僕は、二人に声をかけて病院に向かった。
病院に付くと、なにやらざわついた空気が漂っていた。
受付に行って
「赤車といいます。佐竹さんのお見舞いに来たのですが・・」
と言いかけると、看護師さんは、
「佐竹さんのお見舞いは今は出来ないんですよ。」
と返事をすぐに返してきた。
「容態が悪いのですか?」
「容態というか・・・そうです。もう少し良くなってから来てください」
と、言葉を濁しながら、追い返すような返答が返ってきた。
召二が
「せっかくだから、病室のぞいて帰ろう」
と、悪ふざけ的に言ってきた。
「でも・・」と僕が言うのをさえぎるように
「そうだね。せっかくだから覗くだけなら大丈夫だよ」
と、あきらくんも相槌をうってきた。
「受付じゃ部屋教えてくれないよ?」
と僕が言うと、2人は部屋を知っているかのように、歩き出した。
しばらく歩くと、佐竹の札がかかっている病室の前に来た。
個室になっているようだ。
召二が病室のドアに手を掛け、横に開けようと力を入れた。