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めしサポ

おうちでごはんを作ろう。 サポート付き(辛口ver)

作者: 鬼笑

山内 詠さんの企画「おうちでごはん」に勝手に参加させていただきました。

ノリで書いたお話です。


タイトルに何のひねりもない…。


月曜日 キャベツのキムチ炒め

火曜日 キムチスープ

水曜日 コンビニの肉まん

木曜日 カップラーメン

金曜日 カレー(辛口)

土曜日 カレー(辛口)

日曜日 コロッケ(お惣菜購入)

月曜日 白菜のキムチ炒め

  ・

  ・

  ・



「飽きた…」

 社会人になり、1人暮らしを始め、きちんと自活するぞと意気込んでいたのは半年前。

 自分のご飯は嫌だ…と泣きごとを言いたくなる、また。

 かといって、レトルトやインスタント食品も食べ飽きたし、ご近所のスーパーのお惣菜も制覇してしまった。

 もう作るしかない。

 作るしかないんだけど―――。

「飽きたんだってば~」

 なんせ、レパートリーが極端に少ない。

 そのせいで、すでに2か月前に「もう飽きた!!」と音を上げていた。

『うるさいっ、そんなくだらないことで電話してくるなって、前も言ったでしょ?!』

「酷い、鈴音ちゃん…。私が飢え死の危機なのに」

 勝手に死にさらせっ、という親友のありがたいお言葉を聞き流して、舞子は「おなかすいたー」とわめく。

 2か月前もこうして、鈴音に電話をして、「キムチでもブチ込めば?」という貴重な助言をもらった。

 辛い物大好きな舞子は、その手があったか! と早速キムチの素を買ってきた。

 切って炒めて、キムチ。切って煮て、固形スープの素とキムチ。

 キムチ万能! と喜んでいたのも過去のこと。

 どんなに頑張っても普通の味。

「美味しいごはん食べたいー!」

『うるさい、わめくなっ』

「鈴音ちゃん、作りに来てよ」

『誰が行くか。自分で作るのが嫌なら、実家帰れ』

 そう言われて、舞子は黙るしかなかった。

 実家までは気軽に行けない距離ではない。けれど、なぜ舞子がここまで渋るのかかと言えば、1人暮らしをするときに「ご飯くらい作れるし、掃除や洗濯だってできる!」と大見えをきったせいだった。

 しかし、そう言って強行しなければ、心配性の母と過保護な兄からは逃れられなかったに違いない。

『なんなら、『お兄様』に私から連絡しといてやるぜ? 『あんたの可愛い可愛いまーちゃんが飢え死にしそうですー』って』

「ダメ! そんなことしたら、絶対連れ戻される…」

『私に迷惑かけるなら帰れ』

 相変わらずのキツイお言葉に、舞子はスマホ片手に床へ倒れこんだ。

 過干渉な母と兄から逃れて、ようやく持てた舞子の城。

 1DKの自分だけの空間を、手放すつもりはなかった。

 開いたドアの向こうに見えるキッチンの床に、特売で買ってきた2分の1にカットされた白菜が転がっていた。その向こうに置かれた先週の特売のキャベツの残りが、軽く黒く変色してきていた。


 今年は白菜安いし、しばらくキムチ鍋かなぁ。今日はキムチ抜きにしてみようか。でも、それだと本当になんの特徴のない味になっちゃうし…。あぁ、あのキャベツもいい加減食べなきゃなぁ。

  

『…こ、舞子?! ちょっと、突然黙ってどうしたのよ? 大丈夫?!』

「あ…、うん。だいじょぶ。今日の献立何にしようかなって」

 鈴音は、キツイことを言いつつ、肝心なところではちゃんと舞子のことを心配してくれる、いい友達なのである。

『人との電話中にいい度胸じゃない。勝手に飢え死ね』

 おっそろしいくらい低い声で呪いの言葉を吐いて、ブチっと電話が切られてしまった。

「おおぅ、やっぱりキツイ」

 甘やかされて育った舞子には、そのキツさが新鮮で楽しくもあった。

 くすくすと笑いながら寝転んでいたが、しばらくしてふっとため息と共にそれが止まった。

 笑い声が止めば、何の音もしない部屋。なんだかぼーっとしてしまい、もうご飯いらないかもと舞子が思い始めた頃、握りしめていたスマホがブルっとメールの着信を知らせる振動を伝えてきた。

「鈴音ちゃんから?」

【料理の本でも買いなさい! アレンジせずに、適当にせずに、きちんと作れば美味しいごはんになるから。ただし、私に一切ウザイ質問しないこと!!】

「料理の本かぁ」

 確かに、今までその類の本は見たことなく、適当に作っていた。

 鈴音ちゃんに勧められたし、一度買ってみよう、とスマホから通販サイトにアクセスして、『料理本』と検索をかけた。すると、大量のヒット数。

「『基本』とか『初めて』とか…。一応半年自炊してたんだから、中級くらいの腕はあるよね?」

 いいとこ下の中か下の上くらいの腕前の舞子だったが、さすがに『基本』や『初めて』と書かれた本を買う気にはならなかった。

 検索ボックスに『中級』と追加する。

 すると、今度は何やら難しい本ばかりが並んだ。

「うぅぅー。鈴音ちゃんに質問しちゃダメって言われてるしなぁ…」

 難しい本を買ったら、何が書かれているのかわからない可能性もある。

 検索ボックスの『中級』を消して『質問』と追加する。

「料理の質問集じゃなくてっ」

 目的物が決まっていないと、情報量が多すぎてなかなか検索するのは難しい。

「質問に答えて欲しいんだよねー。ってことは、助けてほしいんだよ。えーっと『ヘルプ』? は、ないか。じゃぁ『サポート』?」

 サポートと入力すると、数件のヒットがあった。

 一番上には、『おうちでごはんを作ろう。サポート付き(甘口ver)』とある。

「へぇー、サポート付いてるなんて面白い」

 わからないことがあったら、電話とかメールで聞けるのかな、と画面をスクロールして下ろしていくと正に舞子向けの物が。

「辛口だ!」

『おうちでごはんを作ろう。サポート付き(辛口ver)』というのを見つけた。

 辛い物好きの舞子は、むふふと笑いながら早速それを買い物かごへと放り込み、会計へと進む。

「美味しいごはーん♪」

 注文を終え、さぁごはんと思ったところでようやく気がついた。

「届くの3日後だ…。今日はどうしよう。キャベツかじるか…生で食べてもまだだいじょぶだよね?」

 切り口が変色したキャベツに、舞子はお伺いを立ててみた。



 ※  ※  ※



 3日後、注文した本は無事ポストに投げ込まれていた。

 仕事から帰ってきた舞子は、鼻唄まじりで梱包を解き、『おうちでごはんを作ろう。サポート付き(辛口ver)』を開いた。

 1ページ目を開くと、そこにはお札のような物が貼ってあった。

 達筆な筆文字と朱印。

「な、にコレ?」

 料理とはかけ離れた物を見て、何を買ってしまったのかと呆然とする。すると、目の前でその文字が揺らいだ。目の錯覚かとまじまじ見詰めていた舞子の前で、揺らいだ文字が今度はぐにゃりと動きだし、なんと一つにまとまって小さな黒い丸になった。

「ええええ?!」

 慌てて本をダイニングテーブルの上に放り出した。

 目の錯覚?

 最新技術?!

 と、舞子が混乱している間も、テーブルの上の本は着実に摩訶不思議な現象が進んでいた。

 真っ黒な黒い丸は、直径10センチほどに広がり、穴になった。

 そう、穴。

 だって、中から小さな手が出てきたのだから。

 その手は、穴の淵を掴み、よいしょとばかりに這い出てきた。


 身長15センチほどの、紺袴姿の男…の子?


 3頭身の愛らしい身体つきなのに、その顔には可愛らしさの欠片もない。 

 釣り上がった目と、への字になった口。不遜なオーラが立ち昇って見えるかのようだった。


「えっと、あの…。どちら様デスカ?」

「サポートに決まっているだろう」

「っ、しゃべった!!」


 声をかけたが、本当に返事をされるとは思っていなかった。

 わたわたと慌てる舞子だったが、「少しは落ち着け、見苦しい」と冷たく言い捨てられて、急に冷静な思考が戻ってきた。

 じっと、目の前で自分を睨み上げるそれを見つめる。

「なんだ、何か文句があるのか」

「いや、あの。サポートって、一体?」

「お前が頼んだのだろう、サポート付きを」

 そう言って指差したのは、彼が出てきた穴のある本だった。

「料理の、サポート…」

 その通りだ、と彼は重々しく頷いた。


 これがサポートかぁ。すごい予想外。てっきり、メールか電話で質問すると答えてくれるサービスなのかと思ってた。だって、サポートだよ? サポート。普通、サポートセンターみたいなところがあってさ、そこにずらっとパソコンが並んでて若い女の子がインカムで『お電話ありがとうございます。こちらサポートサンター加藤(仮名)でございます』とか応対してくれるわけ。そんで、こっちが焼き加減こんなもん? とか塩一つまみって何グラム? とか、キムチを隠し味に入れてもいい? とか馬鹿な質問するとさ、にこやかにアドバイスしてくれるんだよ。きっと心の中では『なにコイツ?』とか『そんなこと幼稚園児でもわかるわ!』とか思われちゃってんだけど―――


「おい、いい加減に戻ってこい」

「ハイ」

 不機嫌そうな彼に言われて、舞子は大人しく現実を直視する。

 相変わらず不遜な態度で、彼はダイニングテーブルの上で仁王立ちをしていた。

「さっさと手を出せ」

「へ?」

 何かくれるのかと手のひらを差し出すと、ピクッと片眉が上がった。

 何が気に入らないのか、舞子を馬鹿にしたように大きなため息をつくと、彼は小さな手で人差し指を掴んだ。

 触感がっ

 小さな手がきゅっと指を握る感覚に、おおおっと舞子がちょっと感動していると、ぐるっとひっくり返されて引っ張られる。そしてそのまま、札に残っていた朱印の上にぽんっと付けられた。

「よし」

「何が、よし?」

 彼の手が離れたので、指を持ち上げると、朱印だったものが何故か指紋のような形に変わっていた。

「受領印だ」

 その言葉とともに、指紋はするりと黒い穴の中へと入っていた。そしてそのまま穴も小さくなり―――消えてしまった。

「えっ、あぁぁぁ」

 残されたのは料理の本と不遜な3頭身の得体の知れないモノと、呆然とする舞子だけだった。



※  ※  ※



 衝撃的な出会いの後、舞子は不遜な3頭身の得体の知れないモノ―――シンを受け入れた。

 『サポート付きの料理の本を買ったら、3等身の男がついてきた』なんて話で聞いたら、「頭、大丈夫?」と真剣な顔で聞き返しただろう。けれど、目の前で見てしまったのだから受け入れるしかない。しかも、「受領印をもらったのだから返品不可」とまで言われてしまえば。

 そんなわけで、現在二人で料理本を見つつ夕飯を製作中なのだったが―――。


「白菜は水気を絞っておけ。ハムは6等分…ちょっと待て、雑巾みたいに絞るやつがあるかっ」

「さっき俺は6等分って言ったよな? 等分・・って! なんだ、この不公平さは」

「小麦粉入れたら炒める手を止めるなよ? おいっ、まんべんなくやれよ。焦げるだろ!」


「絞るって言ったら『雑巾絞り』じゃないの?」

「うーっ、少しは不揃ふぞろだっていいでしょ? ハムは生でも食べれるんだし! 火が通らなくても問題ないよ」

「えっ、えぇ?! 待っていっぺんにいろいろ言わないで!」


 二人で大騒ぎつつ、若干茶色くなったホワイトソースの入った小鍋の中に、形の崩れた白菜と不揃いなハムを投入した。

 その頃には、二人ともぐったりと疲れ切っていた。

「舞子、お前…手際悪すぎだろう」

 コンロを覗きこめるように、と流し台の隣にある冷蔵庫の上を指令台にしたらしく、今はそこで脱力して座り込んでいる。

 怒鳴り疲れたらしい。


「シンちゃんだって、口悪すぎでしょ」

「だから、『シンちゃん』って呼ぶな! そもそも、口悪いのは仕様だ」

「『仕様』って、どこまで俺様なの」

 自信満々に言い切ったシンの態度を、ぶれないなぁと笑ってしまう。第一、サポートする側が偉そうってどうなんだろう。仮にもお客様はこっちなのに、と笑っていた舞子は、次の言葉に凍りついた。


「はぁ? 『辛口』がいいんだろう?」


 心底不思議そうに聞かれた。

「辛口…。辛口ってそっち?!」

「そっちってどっちだよ。辛口にもだえるような『えむなひと』なんだろ?」

「違うよっ。辛い物のレシピが多いんだと思ったの!」


 確かに「新鮮~」とか鈴音の罵倒を聞いて楽しんではいたが、別にそれでハァハァしてしまう変態ではない。―――ないったらない。


「おい、そんなことはいいから、ちゃんと鍋かき混ぜろ。これ以上焦げたら『美味しいごはん』になんねーぞ」

「はー…い」

 誤解が解けたのか微妙なところだったが、まずはご飯が先だ。騒いでいたら余計お腹がすいてきて、舞子は鍋を覗きこんだ。

 小鍋からは、美味しい匂いがしてきていた。

 その匂いを嗅いで、舞子はすぐに元気を取り戻してにへへと笑う。

「美味しいごはーん♪」

「歌うな。んで、最後にチーズをのせてオーブンで20分焼けば出来上がりだ」

「オーブン?」

「あぁ」

「―――どこにそんなものが?」

 二口のコンロと流し台。シンが立っている1人暮らし用の冷蔵庫と、あとは古い小さな電子レンジだけ。

 無言になった二人の間に、くつくつとホワイトソースが煮立つ音だけが響いていた。

「なんでグラタン食べたいって言ったんだ…」

 冷蔵庫の上で打ちひしがれるシンの姿が、あまりに哀れで、舞子は「食べたいって言っただけで、作りたいなんて一言も言ってない」とか「そもそも、グラタンにオーブン使うとか初めて知った!」という反論は、口から出さないことにした。

 武士の情けだ。と、うなだれたシンの後頭部にある、二つのつむじを眺めながら、立ち直るのを待った。


 結局、オーブンがないのはどうしようもなく。

 フライパンでグラタンも作れるようだったが、ほぼ形がないほど煮込まれた白菜を見て、シンは「もういっそシチューにするか」と力なく提案した。

 取っておいた白菜の煮汁と牛乳を少し加えて伸ばして、固形スープの素と塩コショウを入れて味を調える。

 先ほどよりゆるくなったグラタンもどきをスプーンですくって味見をする。

「うん、美味しい!」

 ちゃんとシチューになっていた。

 そのことが嬉しくて、味見をしたスプーンをそのままシンに向けて差し出すと、小さな指がシチューをすくっていく。

「あの過程でこれだけできれば、まぁいいだろ」

 微妙な褒め言葉をいただいた。さすが辛口なだけのことはある。

 これがアメとムチかぁ、と変な納得をしつつ、ダイニングテーブルの上にシチューと朝食用に買ってあったパンをセッティングする。

「おい。それは何だ?」

「え、シンちゃんはシチューにご飯派なの? 今日ご飯炊いてないけど…」

 冷凍にあったっけ? と首をかしげつつ、冷凍庫を漁ろうとすると、「そうじゃない」とシンから制止される。

「それは誰の分だ」

「誰って…。シンちゃんは食べないの?」

「……」

 ダイニングテーブルの上にセットされたのは二人分。

 一つは舞子用の食器で、もう一つは来客用の物だった。シンも一緒に作ったのだから、当然食べるものだと思っていたのだが。

「あ! 食器大きすぎるよね。子供用の食器なんてないしなぁ」

「誰が子供だ。そのままでいい」

 憮然とした表情で、冷蔵庫の上から飛び降りる。

 危ないっと思った瞬間に、ミニチュアのシンの姿は消えていた。

「へ?」

「これなら平気だ」

 偉そうにそう言うシンの、2つのつむじはもう見えそうになかった。

 そればかりか、逆にこちらのつむじを見下ろされてしまう。

「背…高いデスネ」

「まぁな。見下ろされるばかりじゃ面白くないし、食事するならこっちの方が都合がいい。ほら、さっさと食うぞ。冷めるとマズくなる」

 そう言ってシンは、さっさとイスに座る。

 巨大化したシンに戸惑いながらも、美味しそうな匂いの誘惑には勝てず、舞子もシンの向かいのイスに座る。


「「いただきます」」


 こうして、奇妙な料理のサポート生活が始まった。

拙作をお読みくださりありがとうございました。


企画モノに一度参加してみたいと思ってたので、今回勇気を出して勝手に参加してみました!

こんなお話でもいいのかなぁ。趣味全開です(笑)


ツッコミどころが多いですが、いろいろスルーでお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして、こんにちは。 サポート拝読しました。クスクス笑いが止まりません(笑) こういうのと一緒に料理が出来たらどんなに楽しい事か…! いや、他人事だからこそ笑えるのでしょうか。 辛口俺様…
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