8話 HELP ME!
シャボン玉に揺られる事…1時間。
森を抜けた時には何て素敵な乗物を手に入れたんだろうと思ったのだけれど、そんな上手い話はすぐに終了。
100%風任せなこの乗物は森を出た途端、突風によってジェットコースターと化し、無風の時は全く進まないというなんとも厄介な代物へと変化しましたよ…
ふっふざけんなぁっ!!
ジェットコースターなんて物を超インドアなあたしが得意なわけが無いし、もちろん最初の急降下からグロッキー状態。しかもいつまで続くかわからないなんて何の拷問!?
「ぎ…ぎぼぢわるい」
さっき鹿に蹴られて墜落した時の方が扱い酷かったけど気分は全然ましだった…
「…このシャボン玉、恐ろしいぞ」
低空飛行の時になんとか外へ出ようと、さっきと同じように膜に触れてみても反応なし…どうやら『外部干渉不可』にひっかかるらしい、どうして外部干渉認定されてるかもわからないので対処方法なし。
だったら内側から殴ったり蹴ったりして破壊を試みても…キラキラと透明な膜はとっても柔軟で丈夫らしく、何度やっても『ぼよんっ』と言う効果音が最適な跳ね返しを受ける
「…メルヘンっ!!」
「にっくきメルヘン、すごいぞメルヘン」という相反する言葉を含むと「メルヘンっ!!」になった…つっ疲れた。
とりあえずジェットコースター状態から落ち着いたシャボン玉の膜に凭れかかったら思いの他優しい触り心地に更に複雑な心境です…ハイ
「…いぃ天気だなぁ」
森ではまだ東方向だった太陽はとっくに真上にきてて、つまりお昼なわけで…
「お腹すいたなぁ…」
若干このままだったらどうしよう?なんて恐怖から目をそらすために向けた視線の先に見えたのは
「…とり?っていうか……えぇっっ!?」
どんどん近づいてくるそれは大型の猛禽類で、すごいスピードでこっちに向って飛んできてるし
「おっおっお願いだから突風吹いてぇぇぇ!!」
うん、シャボン玉をいくら押しても『ぼよん』なんだけどね…
「いやぁぁぁ!!」
まずい…どうみても…ほ、捕食されそうにしかみえない。シャボン玉のスピードと鳥の飛行スピードではどうやったって軍配は鳥にあがるわけで、っていうか向こうがさらに加速してるような気がするのはあたしの目がおかしいのかなぁ?
あぁ…あたしのせめてもの抵抗といえば大きく手と頭を左右にふって
「無理です!!無理!!多分このシャボン玉も私も美味しくないです!!」
と必死にアピール!これのみ!鹿と話せる世界なんだからどうか言葉が通じる事を願うしかないし。でもやっぱ突撃されそうな勢いでこられる飛行物に対してガン見できる勇気もなく思わず目をぎゅっと閉じてしまう
「…んっ?」
突進されたような衝撃も気配もないわけで…
「ぎゃう!ぎゃう!」
「え?」
目の前には空中に羽をはばたかせながらホバリングする鳥…というかワシ?
「えっと…ほんとに通じたの?」
ただ…シャボン玉手前で止まってくれた鳥は、胸に赤い魔石という石が煌くとっても見覚えのあるあのイヌワシで
「ぎゃう!ぎゃう!」
あはは、いいねぇ~ご機嫌そうで~
なんだろうなぁ?おかしいなぁ?
昨日からこのイヌワシを殴りたくてしょうがないわぁ。
「ぎゃ…ぎゃう?」
あたしの不穏な気配を感じたのか、イヌワシが鳥一羽分後に下がったけど…おかしいなぁ~あたし笑ってるのになぁ~
「イ・ヌ・ワ・シ。とりあえずもうちょっと近づこうか」
「ぎゃ…ぎゃ…」
強面がおずおずと前に飛んでくる様子が…怒られた子供みたいで、そんな姿を見ると何だか一気に怒りも飛んで、残ったのは笑いだけ。
「あははっ!!ほんとに怒ってないから!でもどうしたの?ここ森からはだいぶ離れてると思うんだけど…」
「ぎゃうっ!ぎゃぎゃぎゃぎ、ぎゃう!ぎゃぎゃ」
…何かを喋ってそうなのはわかる。
「ぎゃ~ぎゃう、ぎゃぎゃぎゃう。ぎゃ?」
「いやいや、あたし鳥じゃないし最後の「わかった?」みたいな感じしかわかんないから…それもなんとなくだから」
「ぎゃ~~」
あきらかに凹んだ様子のイヌワシ。
「えぇと…なんかゴメン…」
「ぎゃうぎゃう」
あっ…今の「別にいいけどね」はわかったわ…やっぱなんとなくだけど
「ってか、別にいいけどねとかおかっぁ!?」
「おかしくない!?」というあたしの言葉は途中で羽音にかき消されて、イヌワシが頭上に飛んだかと思うと爪でシャボン玉をがっしり掴んだのが見えた
「え?…ちょっとイヌワシ?」
あのさ…いくら強度ばっちりっていってもさ、そんな鋭い爪だと割れちゃうかもしれないじゃない?ここどうみても軽く地上30Mはありそうだよ?…もし割れちゃったらさ…死んじゃうよね?
「いやぁぁぁぁ~」
「ぎゃ~♪」
あたしの叫び声とイヌワシの楽しげな鳴き声が草原に響いたけど、それを聞いた人は多分いない…




