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7話 上に下に、世界は動いてる

あれからかなり打ち解けた鹿と鳥ズ、その他の火の獣達とどんちゃん騒ぎをしてしまい…気がつけばいつのまにか夜が空けてた。

木々の間から差し込む朝日が眩しい…。


そして襲いかかってくる現実。

残していたお弁当も含め、かなりあった筈のお菓子と言う名の非常食が空袋となっており、袋の内側の銀仕様が朝日に反射して眩しい


「………」

[………]

『………』


え〜っと、これは誰に請求すればいいんでしょうかね?


さっと鹿に視線を向けても何故か反らされる…それならばとイヌワシに向けたら木々の間の朝日に向かって飛び去った。


「くぉらぁぁぁ!!イヌワシぃぃぃ!!てめぇあたしの配下になるんじゃねぇのかぁ」


あたしのその怒声に、まるで某アニメの黒いマリモのように消え去る獣達


「あっ!!お前等っ!!」

[…奴らは強者の怒りには敏感だからな。それじゃ我もそろそろ…]


何事もなかったようにポクポクと去ろううとする鹿の首根っこを腕全体でとりあえず捕獲した。

 

弱いものいじめはイケナイけどさ、よくわかんないけど確かこの鹿は何かが同じぐらいだって言ってたよね?

つまり請求先決定という事で…


「ドコ行くの?」

[いゃいゃ…我も年だしな。巣に帰って睡眠をとらねば…]

「500年以上も生きる生命力持ってるんだから一日ぐらいの完徹何でもないわよ。保障するわ」

 

鹿が振り返って何かを言ってこようとしたみたいだけど、あたしの顔みてすぐに前に視線戻した。

 

あたしすっごい笑顔なんだけどなぁ〜そんなギギギって音が出そうな感じで前向かなくってもいいじゃん。


[……何が望みだ?]

「とりあえず死活問題なので、水と食料。出来れば人家がある所まで案内してくれれば感謝感激の雨嵐」

[………水と食料は何とかしてやろう。ただ我はこの森の番人故、人家までの案内は無理だ。それとイグニス属性に対して雨嵐とはイヤミだな]


あ…火属性でしたね…なら


「……火事親父?」


ちょっと首を傾げて自分なりに可愛く言ってみたら、片方の口角上げて[意味がわからぬ…]って馬鹿にされた…ほほっ可愛いなんて年齢はとっくに過ぎてるのにそりゃ無理だって


[…背に乗れ。水場に案内してやろう]

「えっ背中に乗る!?あたし結構重いけど…」

 

いや…決して太っては無いよ!身長の標準体重よりは下だしさっ!


[重さなど同じイグニス属性であれば同化すればいいだけのこと、問題ない乗れ]

「同化って何?恐ろしすぎるんだけど...」


頭に浮かぶのはスライムみたいに液状になって溶けたりとか、上半身人間で下半身が鹿の未知の生物とか...


[イグニスの力を同化させるだけだ。お前の想像してるような状態にはならん]

「…むむっどうしてあたしの想像がわかんの?さては人の頭の中をのぞい[そんな蒼い顔して想像する事がまともなわけがないだろうが]…ごもっとも」


それにしても鹿側の問題は解決したとしても、あたし的には鹿に乗るって普通に馬に乗るよりキツそうなんですけど、だって動きを考えたら普通にロデオでしょ…無理、絶対酔う

 

「乗る事考えただけでちょっと気持ち悪くなった…」


あ、しまった...うっかり口から出た言葉だけだと失礼極まりないと後悔は先に立たずだったけど、どんちゃん騒ぎのお陰なのか鹿は[お前は果てしなく失礼な奴だな]と軽く笑って流してくれた


グッジョブどんちゃん騒ぎ!


[とにかく乗ってみろ。苦情はそれからでもよかろう]


ここまで言われて乗らないわけにはいかない


「わかった。片付けするからもうちょっとだけ待って貰える?」


えぇ、昨今モラルが欠落してる人が多いですけどね。あたしはきちんとゴミは家まで持って帰る派なのですよ。

この国で「やっぱり日本人はダメだ」なんて言われたくないしね


……まぁ…十中八九言われないだろうけど、むしろ言ってくれ!日本知ってる人プリーズ!!


そんな事を思いながら、あたしはどんちゃん騒ぎのゴミをきちんと集めて鞄に詰めた。

元の世界ではゴミにしかならない物でも何かの役に立つかもしれないし、変にここに放置してこの世界に何か影響を与えたりしても困る、たとえば動物の誤飲とかね。

火元もきちんと砂で消火してから周りを一通り確認して、大丈夫だと判断した所で鹿の待つ場所へと戻った


「お待たせ〜」

[いや、終わったのか?]

「うん、自然破壊はダメだからね」

[…意味がわからぬが、終わったのなら背に乗れ]


よし…たとえロデオであろうと…3分は持たせよう。という限りなく低い目標を持ってあたしは乗りやすく屈んでくれた鹿の背に「お邪魔します」と言いながら乗った。


「うわっ!」


鹿が起き上がろうとすると落ちそうになる。

そりゃそうだろうと思う。馬にだって観光旅行で1度乗っただけの人間が、座るための馬具など何もついてない動物に安定して乗れるわけがない。


「ちょっ…無理っ!!」


落ちどころ悪く、顔面から落下。

世界を飛び越えさせる力があるのなら、どこぞの野生姫のオプションなども付けてほしかった…


「ぐぅのぅ…っっ!!」


…3分どころか、5秒と持たないじゃん、あたし。


[……何故そうなる]

「乗れるかっ!!」


顔面の痛みに悶えてると聞こえてきた鹿の声に思わず叫び返してしまった


[…仕方ない]

「え?」

[少し魔酔いするかもしれぬが]


そう言うと鹿が俯せになった状態のあたしの背中をドSさながらに前脚で踏みつけてきた。しかもぐりぐり地面に押し付けてくる


「いたっいたたっ…って鹿っ!!あたしに喧嘩売ってる!?」

[喧嘩は売るものじゃないだろう…仕掛ける物だ]


心の底からどっちでもいい…それより何だか身体が地面に埋まってってる。

めり込むというよりはむしろ低反発の枕みたいにじんわり沈みこんでいってるような…気がするんじゃなくて、すでに視界が半分埋まってるんですけど…


「いっ生き埋め!?鹿っ!!おぃこらっ!!」

[うるさい。魔脈に集中しなければ酔いが酷くなるぞ]

「まみゃぁぁぁあああああ」


魔脈と口が発する前に身体が全部土に沈んで死んだと思ったら、襲って来たのは土の中ではありえない浮遊感だった。


「うわぁぁぁっっ!!!」


絶叫マシーンさながらの胃の浮いた感じに一気に恐怖が襲ってくる。

しかも見たくも無いのに視界に入ってきた落下地点は水では無いと断言出来る何かの流れ…余りに思考がぶっ飛んであれが魔脈なのか?なんて冷静に考えてる自分にウケる


あぁ…短かったな…異世界人生。

お兄ちゃん、ごめん…


[行くぞ]

「しっ鹿?」


鹿の言葉と共に魔脈?から赤い煙のような物が近づいてくる。よく見える場所まで伸びてきたソレはどうみても炎でしかなく


「それでも焼死体はいやぁぁぁ!!!!」


あたしが必死になって空中を平泳ぎでなんとか炎から逃げようとしてるのに、鹿がまた容赦なく今度は後脚で炎に向かって蹴り込んでくれた


「うわぁぁあ!」

[何度も同じ事を言わせるな]


炎を包まれたと思った瞬間、胃の浮いた感じも浮遊感もあっという間に消えさって、残ったのは安心感だった。


視界は真っ赤な炎なんですけど…


「何コレ熱くない……むしろお布団の安心感?」


あたしを包む物全体がゆっくり川の流れのようなものに流されてるので移動布団と言うのが例えとしては正解?


[これは魔脈の中のイグニスの力だ。地上を走るより魔脈を進んだ方が早い。しかしこれほどの魔に囲まれて魔酔いせぬとはさすがだな]


鹿……色々説明不足すぎて何を突っ込めばいいのかもぅわかんないよ。


[水場はすぐだ。もし頭に痛みが走ったならばすぐに言え]

「……了解」


さて鹿が言った魔酔いというのにはならなかったようだけど、もぅ全てが急展開すぎて頭が目の前の現実に対しての理論説明を拒否してる……ただ単純に目の前でゆらめく炎に驚くばかりだ


これこそファンタジー!


目に見える空想世界にちょっとドキドキしてしまう。

うん、鹿と話すのも充分変なんだけど、あれは目に見えないからね…たまに鹿と話してても、もしかしてコレってあたしの一人妄想だったら恥ずかし過ぎるっ!なんて思っちゃってたし…


綺麗な炎に手を伸ばして触れてもやはり温度は感じず、触れた部分のゆらめきの色が変わるばかりだった


「綺麗だね…イグニスの力……だっけ?」

[あぁ…イグニスは美しい。一つの姿を留める事なく常に変化する力だ。この外側には他の力も流れているがな…私は火獣故、ほかの力には触れられぬ]

「変化の力…ね」


確かにゆらめきは同じ形を留める事はない。色でさえ同じ赤といっても無限に存在する


[よし、着くぞ]

「え?もぅ?」

[イグニスの力を上昇させる。衝撃に備えろ]


鹿の言葉と一緒に襲ってきたのはとんでもない重力加速度、いわゆるGと呼ばれるものだった。


ロケットに乗った事はないけど、打ち上げ時はこんな感じかもしれない。

ただ、彼等はすごい外装に守られてるし、今のあたしのように無防備に空中に放り出される事なんてまずない筈…


「うぁぁぁっ!!」


まるで源泉の噴水に押し出されるように放り出され、空が見えた事によって地上に戻って来た事を理解したのはいいけどさ…


ねぇ、これって結構高い所から落ちてるんじゃないの??

このまま地面とか死亡でしょ!?あたしどんだけこの世界で臨死体験すればいいの!?


「鹿ぁぁぁ!!」

「×××××××××××××××」


あたしの叫びに帰ってきたのは求めていた天からの鹿の声じゃなく、全く意味のわからない男の声だった


「え?」


体が何かに包まれたと思ったら急に落下速度が落ちた。


「…何これ」


よく見るとシャボン玉みたいなもの全体を包まれてる


きっとこれも鹿の言ってた四大力ってやつなんだろうけどさ、得体の知れない突いたら弾け飛びそうな膜に安心感なんてものは存在しない。


「まだ下まで50Mはあるな…」


ゆっくりと降りるシャボン玉の中から地上を確認してみると、人影見っけ。

付近に鹿の気配を探っても見当たらない。


「信じられない。あたしを囮にして逃げやがった…」


どう考えても今のあたしの状況は下の人間に捕獲されてるに等しい


現状がどうなってるのかさっぱりわかんないけど、このままじゃやばいっていうのは理解出来る。


とにかくこの物体から出ることが先決で、ただ弾けて落下で死ぬのは困る。

少なくとも直接中にいる人間に危害があるわけではなさそうだけど…突然ジェットコースターからエレベーターに乗り換えた!みたいな感じで身体に違和感はありありです。


「…あと40M」


もちろんイグニスの噴出はとっくに無くなってる。

つまり自分の力で何とかするしかない


「………」


ゆるやかだけど確実に落下してる


待ち受けるのが善人とは限らない。鹿達との団欒ですっかり忘れてたけど、相手によってはもしかしたら人形男のところに連行される危険性だってある。だってあそこでは殺されかけたんだし…


「30M」


鹿に説明されたイグニスの力を使うにしても火の玉しか出した事ないあたしにこんなぶっつけ本番で何が出来るかわかんないっつうの!


このあたしを包むもの自体に意思があれば無理だけど、少し風に流されてるぐらいだからシャボン玉ほど軟いものじゃなくても風船程度と認識する。


とりあえず逃げるにしても他の事をするにしても、直接あそこに着地するのがまずいわけだから…


「風船…火の玉…熱い…あっ!!」


地上まであと25Mぐらい…ぎりぎり!!

あ~でもボイルシャルルの法則とか計算する時間はない!!

人の力に干渉出来ればいいんだけど…


「…どうか壊れませんように」


そう言いながらあたしを包む風船に触れる。少しひんやりとしたそれは触るだけでは特に変化は無かった


「上部2Mからを20立方メートル大きく」


言葉を発した途端、包んでいたシャボン玉上部がすぐに大きくなった


「おぉ!干渉できたよっ!ならそのまま、これ以後外部干渉不可」


下の人にシャボン玉割られちゃったらおしまいだからね。ただこの台詞がきちんと通じてるかは神のみぞ知るだけど…


「割られちゃったら、その時はその時で!」


よしっ!後は簡単なはず


「私を座標を0とし、上部2Mから大気固定20立方メートル、温度50度」


軽い浮遊感に思わず「やった!」とガッツポーズをしてしまう


簡単にいうと、今のあたしは気球に乗ってる状態でさっきまで落下してたシャボン玉がゆっくりと上昇し始める


森の中で水場が木々の晴れてるとこでほんとに良かった…


「グッジョブあたし!!」


イグニスの力があってほんとに良かった。

今なら鹿に力を貰った時のあの仕打ちも許せるわ…置いて逃げたのは許さないけどね。


「次会ったらぶっ飛ばしてやる…」


下に見えた人影が何か叫んでるけど…ごめんなさいシャボン玉借りパチしてトンズラします。だってせっかく移動手段を手に入れたんだからこのまま人里近くまで何とか行きたい


「とりあえず森を抜けよう!」


目標に向けてあたしはフヨフヨと上昇するのであった


それにしても上に下に移動ばっかで…そろそろ体力限界、眠さ爆発なんです

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