6話 現状把握…師に出会う?
訂正
「火の力」を「イグニスの力」と変更しました
まぁ…言っちゃ何ですけど、この身体は私の姿をしてるけど私の物じゃないっていうか…そんな身体でね、ちょっと人間の領域ちゃったとしても、別にね…
[…地に何か書いてあるのか?]
ふふ、鹿さん四つん這いで落ち込んでるあたしに冷静なツッコミをありがとう
「火の玉現象が自分のせいだって落ち込んでるんです…しばらくほっといてください」
[何故落ち込む必要がある?]
鹿のちょっと首を傾げる姿に萌え…じゃなくて…
「…火を発生させられる人間なんてどう考えても改造人間ですよ。あたしの体実はサイボーグとか…うっ…ぐすっ、この世界だってほんとは別世界なんかじゃなくて悪の秘密結社のアジトとか…意識だけ誘拐されたとか…あたしの今後は戦争マシーンとして使われたり…ひどすぎる」
[…サイボ?何を訳のわからない事を言っている。そなたは人間だ。人間が与えられたイグニスを…力を使うのは当たり前だろう…]
「さっきから力とかイグニスとか魔式とか魔物とか…なんなんすか…それ」
[………]
うん…必死に会話をしようとは思うんですけどね、火を吹く獣が存在する世界感の持ち主と普通に会話をしても成り立つわけがないんですよ。
「………」
[………]
…沈黙が痛い。
[………イグニスを含む四大力は我らを形成する力、人はその力を魔式という方式によって世界へと具現化する。魔物は世界の力の歪みによって生まれる者達…]
とりあえず鹿さんはあたしの質問に答えてくれたらしい…。
「四大力って?」
[…そなたよくその年まで生きてこれたな]
会話中の疑問をそのまま口にしただけだったけど、溜息と呆れた鹿の声に四大力というのがこの世界の常識なんだって事は理解出来た。
[四大力とは【イグニス】【テラ】【ウェントス】【アクア】、この四つの力によって世界の均衡は保たれ、その力の加護により生まれたのが生物]
常識どころか基本中の基本でした…四大力って事はあたしの世界の四大元素と似たような考え方と過程して『アクア』は聞いた事がある単語だし、水って意味だったはず。…確かラテン語?イグニスってのは…イグニッションの意味が点火装置だから…火。テラは『兆』…って単位なわけないので、他に思いつくのは地球って意味があったと思うけど…ここが地球かどうかもわかなんないから多分地上みたいな意味なんだと思う。ウェントスはわからない…ゲーム的には残りは風?っていうのはオタク思考だからか…ふふっ
「つまり四大力というのは何処にでもある物なんでしょうか?」
[そうじゃな…この世界の存在するものは四大力の何らかの加護を得ている…だそなたのように複数の強い加護を得ている者は稀だな」
「…稀ですが。普通は一人一個のような感じなんですか?」
[植物など生息場所が固定されているものには単一加護のものもあるが、その他の動物や人など移動を可能とする者は一つの純粋な加護という事はあまりないな。一つの大きな力とそれに付随する小さな加護を複数という形が常態だ]
おぃっ!!誰かは知らないけどこの世界へ連れて来た元凶にもの申すっ!!
それじゃなくても別世界からの人間というハンデを背負ってるのに、せめてこの世界の普通人にするぐらいの配慮は無かったのか!?
これじゃこの世界で普通に浮いた存在になっちゃうじゃないかっ!!
バカぁっ!!
あたしの心の嘆きなど聞こえる筈も無く、鹿の解説は続いてる
[………が属性獣、聖獣、精霊などだな。そなたは我らをどう思う?]
あ、聞いてなかった。
何が属性獣?もしかして聞き逃したのは結構重要な説明だったんじゃないの?
でも聞き逃しちゃったものは仕方ない。
「えぇ~っと…貴方達は…」
[………]
こういう時は誤魔化すに限る…けど誤魔化し方がわからないんですけどっ!?
自分の常識が常識じゃないって恐ろしい、こういう日常会話にも無理が出てくるんだ…
[………]
「………」
[聞いてなかったようだな]
「はは…はぃ」
う~ん。さっきから鹿に呆れられてばっかりです…ほんとにすみません
[我らは属性獣。属性獣には魔核と呼ばれるものが体のどこかにある]
鹿が鼻先で指したヒズメの部分にはまるでデコラティブネイルのように赤い石が複数キラキラと輝いてる。キラキラと光っているように見えるのはどうやら石の中身が生き物みたいに揺らめいてるからみたいだ
「へぇ、すごく綺麗」
[これが我らの源、魔核だ]
「魔核…」
[聖獣と精霊に関しては存在自体が魔なので核のような物はない。この二つの違いは具現化してるかどうか…聖獣は誰の目にも見え触れることが出来るが、精霊は彼らが認めない限りその存在すら確認する事は出来ない]
「へぇ~」
精霊なんて聞くと羽の生えた小さな女の子を想像しちゃう自分に以外と乙女じゃん、とちょっとウケる。
またまた飛んでしまっていた思考を無理矢理現実に戻してあたしは「ダメだ、ダメだ」と言いながら頭を左右に振る。
ちゃんと大事な話なんだから聞かないと…と視線を上げて目があったのはあたしにドロップキックを繰り出してくれたイヌワシだった。
悪鳥とラブラブ中はあの悪鳥をお腹の中に囲ってて見えなかったし、戦闘中はそんな余裕はなかったんだけど…よく見ればあいつのお腹部分におっきな魔石がはまってる。
「つまりあそこの鳥集団とか火を吹いたラットなんかも…」
[属性獣だ]
なるほどなるほどと意識したわけじゃなくそのまま他の鳥集団に目を向けてびびった。何だか皆がこっちを見てるのは気のせいじゃないと思う
「…げっ」
しかもあんな激戦を行ったイヌワシと赤い鳥が仲直りして隣同士でいるし。2羽の間のほのぼのした雰囲気にさっきのあたしの死にそうな思いは何だったのかと鳥相手だけど詰め寄りそうになる。
「悪鳥はどうした。悪鳥はっ!!」
原因となったあの悪女…じゃなかった悪鳥の姿を探したけど、見つからない。というかこんなにたくさんの鳥がいてスズメのようなあの一匹だけを認識出来るほどあたしはあの鳥を覚えてないので…申し訳ないけど小さな鳥は全部同じに見える。
「…あれか?」
適当に側にいた小さな鳥を指差せば、指された鳥は慌てて後に飛んでいってしまう
「違うのか…じゃあ…あれだ」
次に指した鳥も怯えた感じで後方へ飛んでった。
飛んでいった先を見てみると2羽とも怯えて震えてる…そんなに怯えた様子を見せられると2羽にかなり申し訳ない気分になった
…うん、確実に冤罪だよね。適当に指差してごめんなさい。
それにしてもさっきのキャンプファイヤーまであたしの存在まるで無視だったのに…
「?…もしかして意思の疎通がはかれてるのかな?」
[そなたはあれ等にとっては上位者だからな]
「…はぃ?」
上位者って…また良さげな響きに聞こえますが、今のあたしには厄介事としか変換されないんですけど…
[そなたの覚醒したイグニスの力は遥かにあれ等を上回ってるのだけの事だ。我でさえ微妙なとろこか…]
「…え?鹿さんってもしかして強くて偉い人なんですか?」
[…我は火獣の中でも上位。人語を扱う時点で気付くんだがな。普通は]
普通のアクセントが若干強かったのは嫌みと捕らえていいんですかね?
まぁ…でも色々教えてくれてるし、上の人っていうなら態度も改めないといけないのか…
「…申し訳ありませんでした」
[今更言葉尻を改める必要は無い。今のそなたは我と同じかそれ以上の力の持ち主だ]
そんなの全然嬉しくないぞぉ〜
[属性獣は強さだけが唯一、どうだ?あのトリなどそなたの使役獣になりたがってるぞ]
「いりません」
鹿が鼻で指したのはイヌワシ。色んなところで目立つな…イヌワシ。気持ち胸を貼ってるよね?イヌワシ…
思われてて嬉しい…わけでもないですが、自分一人の生活というか存在さえ確保出来てないのに、扶養者なんて持てるかっ!が今のあたしの立場なんで…
[便利だぞ?]
「遠慮します…」
…思いっきり肩を落としてるよイヌワシ。さっきの痴話喧嘩から思ってたけど、感情表現豊か過ぎるだろ…イヌワシ。
ってどんだけイヌワシを連呼すればいいんだろう…まぁそんな事はどうでもいいです
「さっき鹿さんの上に乗ってた一匹の鳥ってまだいます?」
[そなたの言う一匹とは魔物の事であろう]
「魔物?……そういえばさっき魔物を退けたとか言ってました?」
疑問系なのは覚醒?作業と言われる直前の事だからであって、いや…何度も言うけどほんとに死ぬかと思ったからあれは…そんな前後の記憶に自信があるわけがないです
[そうだ…魔物は力が歪んだ存在だと先程言っただろう。奴らにとって我らの魔核は極上の獲物だ。そして火の側に集まった属性獣達に魔物も誘われたのだろう…我より少し劣る魔物だったので我は抑え込まれただけで済んだが、他の物達はあのままでは餌食となっていただろうよ…だがそなたの散布した物によって魔物が浄化した。そのおかげであれ等は助かり、抑え込まれていた我の自我も戻った]
あ…あれって寝てたんじゃなかったんですね。
それにしても散布した物って…単なる塩せんべいですけど…
あっもしかして塩で浄化されたのか?
盛り塩とか邪気払いとかかな…ただ…撒いたの物は塩よりせんべいですけどね
「…お役に立って良かったです」
特に狙ってやった行動じゃなかったんだけど、そのおかげでこうして親切に話せる鹿がこの世界の事を基本から教えてくれるし、結果オーライなんだろうと思う。
きっと人間相手じゃこうはいかなかった。
初対面の常識を知らない人間なんて普通に怪しい人物リストの最上位でしょう?百歩譲って保護してもらったとしても、すごく警戒はされただろうし。
「あたしこそ鹿さんに会えてよかったです」
[いや、あのまま魔に取り込まれれば付近一帯が大惨事になっていたところだ…ここにいる属性獣全ての力を取り込まれては、かなりやっかいな魔物となっていただろうからな」
やっぱり何だか知らない内に危険に晒されてたんだ。でも悲しいかな一日でそういうのに慣れて来たよ。
この世界は危険に満ち溢れてる…あの寝室ですぐに学んだ事だったしね。
「…今の現状は理解しました」
[そうか。それはよかった]
とりあえず…自分が普通の存在とはちょっと違う事はわかった。
何とか人と接触する前に常人のごとく生活する術を身につけなくてはいけない。
その為には出来るだけ鹿からこの世界を学ばないと…
「あの他にもいいですか?」
[我で良ければ…]
「師匠と呼ばせて下さい」
[断る]
ばっさり切られた。
やっぱり親しくなったと思ったのはあたしだけだったのか…ぐすっ
[我ら属性獣は強さが唯一と言っただろう。そなたはもう我と同等の存在。我を師と仰げばそなたの成長はそこで止まる…そなたには才がある、もっと高みを目指すがいい]
いやいや…これ以上常人から離れるとかご免被ります。現状キープ!素晴らしい!
「やっぱり師でお願いします」
[ならば我が使役獣になってやろうか?そなたの下に跪くのは面白そうだ]
「………」
全然面白くな〜いっ!!
「…ちっ」
大人な鹿め…あたしが使役獣とかいうのを絶対了解しない事を見越してるな。あたしより十歩ぐらい先をいってそうな鹿に言葉で勝てる気が全く無くなった
「鹿さんって何歳なんですか」
[?……年齢か?さて………500年程までは把握していたがな…]
「ごっっ!?」
[そなたは…15.6か?]
24歳ですけどね。
童顔日本人、こんな事ぐらいで泣きませんよ?
それにしても十歩どころか…もう悟りの域に達してらっしゃる方だったんですか…お年寄りは大事に精神の日本人ですからね…突然後光が差して見えますよ。仙鹿かぁ…
勝てるわけないじゃんっ!!




