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5話 覚醒

 いくら同じ言葉を話せるからとはいえ、鹿と向かい合って話が弾む………わけがない。


 一応落ち着いたように皆で焚き火に戻ってきたのはいいけれど…って動物達を皆でって言ってる時点で自分の状況把握キャパが相当広がったなって思い、そんな自分にちょっと喜べばいいのか凹めばいいのやら悩みどころ…なのか?

 

 まぁそれはさておき、鹿が話せるとなるとまさかここの動物達全員話せちゃったりするの?さっきまでの様子では全然言葉は理解出来なかったけど…


 そんな事を考えてたら突然[術師よ]って声が聞こえてきて、「…しまった」と口に出したも時にはすでに遅く、やっぱり空を見上げてしまっていた


 […コホン。私だ]


 やっぱり目の前の鹿が喋ってるらしい…いや、理解はしてるんですけどね。咄嗟の事になると反射神経というか…理解して聞いても頭上から声が聞こえてくるんですよ。


 「…ははは」


 とりあえずにへらと笑って誤摩化す。 


 [我らとの会話にはあまり慣れていないようだが…]


 人間以外と話したのも初めてなんですけどね…慣れどころか初体験。それにしても…鹿の言い回しから察するにこの世界って、動物と会話出来るのが普通なの?


「すみません。余所者で何分不慣れでして…」


 違う世界から来た。とか言っちゃって殺されたら洒落にならないので、軽く言葉を濁す程度に抑えておく

 

[ほぅ。そなたほどの力の持ち主なら使役している獣を1.2体持っていても不思議ではないが…]


 …力?何の話?


 「あの、ちからって…」

 [まだ覚醒していない故…か…、しかしその年まで覚醒の儀式をしていないと言うのも不思議だな。…なるほど、力の大きさと複雑さによって儀式を執り行える者が居なかったか。……我が感じられるのはイグニスの力だけだが、そなたの身体はそれだけで満たされているわけでは無いようだ]


 悩める鹿ってこんな感じなんだ…ってそうじゃないっ!!

 覚醒って何?儀式?イグニスの力?鹿の言葉に「はぁ」とか「はい」とか2文字の相槌しか打つ隙がなく、勝手に話が進んでいくから会話の間に挟まってる重要そうな単語の意味がわからない…


 [我の力でイグニスの魔力は覚醒させる事が出来るが、どうする?]

 「いいです」


 どうする?と聞かれ、よく会話の意味もわかららずに返事をした途端、鹿の角が光り出した事に慌てふためいてしまう。


 「え?」


 あたし…いいですって言ったよね?もちろん「結構です」の「いいです」なんだけど…ぎゃふん…悪い意味で力量を発揮してしまった日本語の曖昧さ… 


 [角に触るがよい…]


 いやぁ…触るがよいとか言われましても…触った後どうなるかっていうのが全く未知数で大問題なんですけど、どんどん光りが強くなってますけど…


 [早くしろ]


 ……死にはしないですよね。きっといい事ですよね?信じますよ…鹿。


 おっかなびっくりで差し出したあたしの手にかなり強引な性格なのか鹿がぐいぐい角を押し付けてくる。


 「んぎゃっ!!」

 [集中しろ]


 何に!?一体何に集中すればいいのさ!?

 ってか鹿アバウトすぎるだろっ!!儀式ってもっと厳かな物なんじゃないんですかっ!


 ただそんな考えはすぐに頭から吹っ飛んだ。

 とにかく鹿の角から流れ込んでくるよくわからない感覚が気持ち悪い。しいて言うなら身体の内側を温水が流れ抜ける感じ?だけど温泉に浸かっているような安らぎ感なんてない。ヤケドみたいな痛みはなくとも、とりあえず身体が暑い!


 「ちょっ…ちょっと鹿さんっ!!タンマッ!!」

 [もう少しだ…集中しろ]


 だから何にっ!?自分がどういう状況なのか全くわかんなければ、助けを求めようにも目の前には動物しかいないしっ!!


 「ぁあっっつ!!」


 いや、まじでさっきのラットみたいに口から火が吹けそう。あわわ…そうなってしまうと、もはや人間じゃなくなりそうだ。


 いつまでも続くかと思ったその温水地獄は最後に爆弾を落として終わった


 「ぅんぎゃぁぁぁ!!」


 目が…目が…。痛み?なのか何なのかわからない物がだんだん頭部に集中したかと思ったら目が「ぼがんっ!」と爆発した感じ。頭皮の毛穴もがっつり全開っぽいし、視界は真っ赤だし…確実に何か燃えた気がする。


 ただそれも一瞬の事だった様で、完璧に失明したと思った目もすぐに視界は良好になった。…とにかく何が起こったのかわけがわからない。…ただ頭に何らかの衝撃があったのので…髮がどうにかなってたら…あわわ…恐ろしい…


 […上手くいったようだな。魔を払って貰った礼だと思ってくれ]


 礼?死ぬかと思った好意に礼?


 …とりあえず鹿の両角むんずと掴んで、視線を合わせる


 「コロスキデスカ?」

 […?]

 「ワタシ、シヌカトオモイマシタ。コロスキデスカ?」


 若干片言になるのは仕方ない。それほど怒りの針が振り切れてしまっているのだ…だって目が爆発って、ほんとに死んだと思ったし。これで禿げてたら


 [死ぬ可能性は無かったが、覚醒過程の説明は抜けていた…すまなかったな。それにしても綺麗な赤だ…よほど魔力が澄んでいるのだろう]


 あたしの怒りが通じてない…それにこの鹿と意思の疎通がとれた会話が出来る気がしない。あ、鹿とまともに話そうとしてる方がおかしいのか?もぅ訳わからないしっ!!


 ただ燃え上がった怒りは発生と同じく一瞬でどこかへ消え去ったようで、残ったのは虚脱感だけだった


 「何ですか…その綺麗な赤って…」


 赤いアクセサリーなんて付けてないし、そもそもあたしに魔力があるって気のせいでしょうし…昔、某アニメの美少女戦士に憧れて、いくら呪文を唱えてもうんともすんとも無く、涙を流したそんな幼き頃の恥ずかしさを思い出させてくれるなっ!!


 [全てが綺麗に赤く染まっている]

 「……はい?」

 [覚醒の影響で他の力よりイグニスの力が体内で働いているのであろう。綺麗な赤い…]

 

 あたしは鹿の言葉を最後まで聞かずに慌てて側にあった鞄の中を探り、化粧ポーチから鏡を取り出した。


 「…え?」


 …もちろんそこに写し出されていたのは私の姿に間違いない。間違いないのに……その瞳は寝不足の赤目などほど遠い、瞳の虹彩部分が赤く染まった真性のウサギアイになっていた。


 「なっなっなっ!!」


 しかも瞳だけじゃない。あたしの…あたしの気に入っていたナチュラルブラウンの髪も見事な朱色に染まっちゃってるしぃぃぃ!!!


 「なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」


 ありえないっ!!何の怪奇現象!?もしかしてさっきの目の爆発?であたしの視神経がおかしくなって色盲になっちゃった現象ですか!?


 鹿の角に触っただけでどうしてこんな事になっちゃうのよ!?


 もしかして…ど、毒だったりしたの?


 「あ、あ、あの…これって身体に何か害がある現象なのでしょうか…」

 [害とは面白い…自分の力の巡りがわからぬか?]


 魔力の巡り?何それ?


 [試しに身体の奥に巡るイグニスの力を使ってみよ。そなたの力なら簡単に火が起こせるであろう]


 …いやいや、火が起こせるなんて簡単に言いますけどね。あたしがさっきどんなに苦労して貴方達があったまってるその火を起こしたか知ってて言います?

 鞄にある材料を駆使して…貴重な水と石灰から熱を発生させて、化学式上みたいに簡単にまぁるく酸素を燃焼させちゃえ!なんて出来な…


 ボッ!!


 突然目の前に現れたサッカーボールぐらいの火の塊…


 「…はぃ?」


 何の特殊効果映像ですかコレ?

 …もしかしてもしかしなくてもこれは世に言う人魂ですか?

 

 目の前に理解出来ないものが現れると確かめて見たくなるのが科学者の常でして…あたしは思わずその火の塊に手を伸ばしていて


 「ぁぁあっっつっ!!!」


 本体に接触する前に普通に熱かったです。

 人魂とかって手がすり抜けちゃったりするんじゃないの!?


 […何をしているのだ?]


 呆れた鹿の声は特殊効果でも幻聴でも無く…


 「いや…火に見えるんですけど…」

 [そうであろうな]

 「ですから…何故に空中に火の塊が?物理的に変なんですけど…」

 [ブツリテキ?そなたの言葉はよくわからんが…]

 

 落ち着けあたし…確かに、ラットが火を吹く世界なのだからこういった現象も起こってもおかしくはない…


 [あっもしかして!これ鹿さんの力ですか?…出来ればその現象を説明して頂けると嬉しいんで…」


 ははっ!そうだそうに違いないっ!さっきから魔がどうのとか言ってたからあたしの目の前で実証して貰ったんですね!


 […何を言っている。これはそなたの力であろう我にはそのような人間の奇術のような力の使い方は出来ぬ]


 コレがあたしの力?鹿の目を見ても…嘘を言ってるようには見えない。っていうか鹿の視線で感情とか読み取った事無いですけど…


 「…奇術って、そんな…馬鹿な話」


 あたし奇術師でもなければ、マジシャンでもないですけど…しかも定言じゃないですけどこんな技が出来る「タネも仕掛けも持ってません」よ?


 「………」

 [………]


 何だか[自分が納得するまでやってみろ]的な鹿の視線が痛い。以外と語りますね…鹿の瞳って…


 じゃあ百歩譲って鹿の言葉を信じるとして、あたし今、何した?

 火の塊が出来た時、喋ってはいなかった。じゃあ…頭の中で何を考えてた?


 「…鞄にある材料を駆使して…貴重な水と石灰から熱を発生させて?」


 そんな事を考えてた気がする…

 

 だけど、待ってみても目の前の火の塊も変化なければ、新たな現象も無い。


 「あと…何考えたっけ?…えぇっと…化学式上みたいに簡単にまぁるく酸素を燃焼させちゃえ?……あ」

 [……出たな]


 地味な現象だけど…度肝を抜かれたあたしは言葉が出ない


 目の前に浮かぶサッカーボールの火の塊が……2つ。


 「…何コレ?」

 [そなたの魔式は他では聞いたことがないが…随分と精度は高いようだな]

 「…ま、しき?」


 …これは魔式と呼ばれる現象で、理解出来てはいないけど、あたしが起した物だって事は実証されてしまった。


 「…燃焼反応停止」


 ぼそりと呟いてみたら火の塊が消えた。


 それを見て思わず頭を抱えてしまう…

 はは…鹿曰く「魔式」を扱うって事はあたしは「魔女」にでもなっちゃった?



 お兄ちゃん。世界を越えたら、とうとう人間の領域も超えてしまいました。

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