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21話 無一文、必死になる

いつまでも布団の中にいるわけにもいかず、あたしはメルフォスさんを探すため部屋を出た。その時に自分の鞄もきちんとテーブルに置いてあって、特に何かいじられた形跡もなかった……元の世界とつながる唯一の道具である携帯も入ってる事だし…部屋に置いておくのも不安なので持って移動する事にした。


「さっきの受付に行ったらいいかな?」


むやみやたらと歩き回るのも良くないので、唯一知ってる受付に向かう。


「あっ!さっきの!ちょっと待っててお父さん呼んでくるから」


すぐに受付の娘さんが気づいてくれて、メルフォスさんを呼びに行ってくれた。それにしてもさっきは閑散としていた受付が今はローブや映画で見た事がある皮の鎧なんかを来た人でごった返している。


…ビキニアーマーってほんとに存在してるんだね。


「……まずった」


どう見ても忙しい時間帯っぽく、こんな時に落ち着いて話が出来るわけない……下りる時間を間違えた…というか大人しく部屋で待っとけば良かったかも…


「アサ!目が覚めたかい?」


部屋がある階段側とは逆側の扉からメルフォスさんが大きく手を振って声をかけてくれる。……メルフォスさんが出てきた時に場がざわつきました……特に女性陣が。


「メルフォスさん……すみません寝てしまって……」

「そんな畏まらなくてもいいよ、色々疲れてたんだろう?ただ今昼の続きが出来る状況じゃなくてね。もうすぐ夕食の時間だから…アサも食べてくといいよ」

「え?いや……お昼たくさん頂きましたし、あの……私お金も持ってないので……」


最後の方の声が小さくなるのは仕方ないよね…だって日本で無一文なんてなったことない。もちろんこの世界の通貨なんて知らないし持ってない。せめて昼に食べたご飯代だけでもどうにかして返さないと……


「あんたぁっ!とうとうオーブンがいかれちまった!!」


メルフォスさんが出てきた扉の方からライザさんの怒鳴り声が響いてくる。


「えぇっ!?今から魔道具屋なんて手配出来ないよっ!!」

「どうすんだいっ!!あんた魔式使えるだろう!」

「冷やしてよければいくらでも出来るけどねっ!!」


オーブンが壊れたという情報が夕食が出ないのではという情報に変わって一気に受付にいたお客さんがざわつき始める。


……メルフォスさんの焦りようから今日の夕食がまだ確保出来てないうちにオーブンが壊れたようだというのは推測出来るけど………オーブン、つまり火力なわけで……あたしのイグニスの力とか……使えないのかな?もし使えるなら……これを食事代に変えてもらうわけにはいかないだろうか?


「あの……メルフォスさん」

「アサ……今ちょっと困った状況なんだ。部屋で待っててもらえるかな?ミレーヌ!まだ到着してないお客様に夕食の時間が大幅に遅れそうだと説明してくれ。ここにいるお客様には僕が説明するからっ」


メルフォスさんは受付に居るお客さんの元に向かってしまい…受付の娘さんであるミレーヌちゃんも慌しく客室のある階段へと向かってしまった……。


…ポツンと残されたあたし。


「ふむ……」


オーブンが直るかどうかはわからないけど……きっとシャボン玉で使った方法でオーブンは出来る気がするんだよね……。あたしはメルフォスさんが出てきた扉に向かった。


◇◆◇


ダイニングルームは少なくとも20畳はありそうな部屋に色々な人数に対応したテーブルが用意されてた。まだ開場してないのかお客さんは一人も居なかったけどカードみたいな物がテーブルに置かれているから予約制なのかもしれない。


「キッチンは…と…」


そのダイニングルームに対面する形でキッチンが配置されていた。中の様子がこちらからも見えており、ライザさんを含めた2人の女性と2人の男性がコックコートを着て忙しそうに動いている。


「ふむ……」

「まだ空いてない…よっ!……ってアサかい?」

「あ、勝手にお邪魔してすみません」

「いいんだけど…今トラブルでね……ちょっと手が離せないから相手出来ないんだ。部屋に戻っててくれるかい?後で……遅くなりそうだけど…食事を届けるよ」


あたしに対応してくれてる間もライザさんの手は止まっていない……きっとオーブンが使えなくなったから予定外の料理を今作っているんだろう。


「あの……オーブン見せてもらってもいいですか?」

「え?……どうしたんだい?」

「あの…」


エルフの椅子を鑑定した事はバレてるんだし、お客さんが居ないこの場なら何をするか伝えても大丈夫かな?とは言ってもライザさんの他の従業員がいるんだよね……


「オーブン……みてみます」

「何だってっ!あぁ!!そうかっ!」


全部言わなくてもライザさんが察してくれたようで「こっちだよ」とキッチンの扉を開けてくれる。


「アサちょっとそこで止まってくれるかい?」


扉から入ろうとしたらライザさんに止められた。そして手に棒のような物を持つと空港の金属チェックのようにあたしの体を上から下までなぞっていく。


…特に危険物は持ってない。


「あの……これは?」

「あぁ!これはクリーンの魔式が組み込まれた魔道具さ。食事を作る場だからね…衛生的問題が出ると困るんだよ」

「あ、なるほど」


…たしかに大腸菌とか中毒が出たら大変だ。


「さ、いいよ。オーブンはこっちだ」


部外者が入って他のコックさん達が気分を悪くするかと思ったけど……忙しくてそれどころじゃないらしい……


案内されたのはキッチンの一番奥まった場所で大型のオーブンが6基設置されていた。


「え?これ全部壊れたんですか?」

「あぁ……突然全部火力が上がらなくなっちまったんだよ」


……この中の一基が壊れるとかならわかるけど、全部が一緒に壊れるって……そんな事がありえるのかな?


「最近変えたばっかりなのに……とんだジャンク品を掴まされたもんだよ」


うーん。ますます故障というのが考えずらい環境だ。


「ライザさんっ!!仕上げお願いしますっ!!」


切羽詰ったような声がキッチンに響きわたる。


「わかったよっ!!!アサ……悪いんだけど……」

「あ、ここなら邪魔になりそうにないですし…一人で大丈夫です」

「そうかい…悪いね」


そういうとライザさんは元居た場所に戻っていった。


「さて……とりあえず診てみましょうかね」


あたしの……ご飯代……稼げますように……

昨日の昼に短い20話をUPしましたが、ちょいちょい日和は現状把握をします…(という名の桜馬の思い出しとも言う)

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