12話 強靭なココロが欲しい
シャボン玉が消えて、あたしと自称おじさんとイヌワシの二人と一匹になったところでお互いを微妙な空気が包む。
ぶっちゃけシャボン玉が捕縛用の玉だったとしても…捕獲されてたなんて事は今の今まで気づかなかったし……こう救助された感を出されてもぶっちゃけ困る。
だって快適だったし!
「え~っと……私はアサミズヒヨリと申します」
とりあえず助けてもらったし……いやこれから助けてもらう予定だし、先に名前を名乗って印象を良くする事は大事だよねっ!きちんと45度のお辞儀もつけちゃうぞ!
名刺も出そうと思ったけど、あの寝室で全く意味が通じなかったしここは挨拶だけでも充分だと判断する。
「これはご丁寧に…わたしはアクアの魔式使いのメルフォスと言います」
『ぎゃーっぅ』
「…こちらの鳥は君の使い魔かな?」
「え?違『ぎゃーっす!!!!』痛いっ!」
違うけど…と続けようとしたらイヌワシが肩に飛び乗ってきて思いっきり鳥爪が肩に食い込んだんですけどっ!!
「ふむ…まだ使い魔の契約はしていないようだが、属性獣の方が望んでる感じかな?」
メルフォスさん、一瞬で現状を完璧に把握するって…見解能力のスペック高いんですけどっ!!
「まぁ…それだけ純粋なイグニスの力を持っているのだから属性獣の方からアタックされるのも無理はないね」
「……はぁ、自分ではよくわからないんですけどね」
鹿にも言われたけど、自分のこんな常識はずれの力の強さなんて理解出来ない。というか元の世界の常識で考えて、人体から火が発生して喜ぶのは中学生特有の病んでる子だけだと思う。
だって24年、地球の常識で生きてきたんだ……突然「君は魔法が使えるよっ」って……どんな罰ゲームなのよ…地球でこんな事になったら即研究機関に連れてかれるでしょうよ
「では…君をどこまで送っていけばいいのかな?」
「………」
地球まで……なんて言ってもし頭のおかしい子認定されでもしたら困るから黙っておく。でもぶっちゃけ最初の寝室とあの森以外を知らないあたしの居場所なんてこの世界にはまだ無いわけで……
「あの………帰る場所が無いんです」
「えっと………なんだか込み入った理由がありそうだね」
「そうですね……色々とややこしいですが」
「………」
この世界の常識がわからない以上どこまで話せばいいのか……
うん…メルフォスさん。
ものすごく放置してしまいたいって顔に出てますよ。
「……一つだけ聞いてもいいかな?」
「…どうぞ」
「犯罪行為をして追われてる……とかでは無いね?もしそうだとしたら私は君を警備隊に差し出さなくてはいけない」
「どちらかと言うと被害者です」
地球から意味もわからず拉致されてきたのだから……被害者で間違ってないと思う。
メルフォスさんはそれはそれで困ったというように頭を抱えこんでしまった…でもこの世界の事がほぼわかってないあたしにとって今、唯一の生命線であるメルフォスさんをこのまま解放するなんていう選択肢は無い。
あたしは…どうやっても地球に帰らないとダメだから。その為にはもっと力の知識も必要だし……とにかく生きていく生活基盤が必要だ。
「すみません……ほんとに行く先が無くて……諸事情もろとも助けて頂けないでしょうか?」
しばらく頭を抱えていたメルフォスさんだったけど……一度空を見て大きく息を吐いた後「よしっ」と言うとあたしをまっすぐ見つめてきた。
「諸事情というのは後で話してもらえるのかな?」
「必要とあれば…」
「………きっとこれも何かの縁だね。君みたいな小さな女の子を放り出してきたなんて奥さんに知られたら私の命が危ない」
奥さん最強じゃんか……それから小さな女の子って……激しく誤解されてる気がするけど、その誤解込みで助けてくれそうだから今は黙っておこう。
「じゃっ行こうか」
メルフォスさんがそう言った瞬間、地面に青い図式が広がる。
「っ!?」
そして現れたのはバカデカイ水色の鰈だった……
「さ、乗って」
「な、なぜに宙に魚が浮いてるんでしょうか……」
「あぁ…これは私の使い魔のギューゼルだよ」
ミラクルワンダーランド
……この世界の常識を受け入れる心の強さが欲しいと節に願います。