三章 アイサリスの近衛騎士団
「――ウルフ、報告してくれないか」
ウルフの様子を見に来たティラフェルトが尋ねた。その彼の後ろには寄り添うように騎士の服装の橙色の髪、左目を眼帯で隠した金色の目の男、上質な布で作られた平服の姿の水色の右目、銀色の左目、赤い髪にところどころ金の色が混ざった青年が立っている。二人共、剣を腰に佩いている。
「はい。国境付近にルシザーク帝国の騎馬隊が近付いていると報告があったと思います」
「うん、聞いてる。どうだった?」
「二百と報告があったと思いますが、違います。騎馬隊の先行の部隊と戦ってきましたが、後方にいた兵の数は二百以上いました。ざっと見て二千くらいでした」
ウルフの報告を聞いて、ティラフェルトが顔を顰める。ウルフの手当てをしているアイシェルドも厳しい表情を浮かべる。
「……二千、か。国境付近なら、部隊編成の時間もあまりないな。ウルフ、部隊は騎馬隊だけだったか?」
「はい。騎馬隊でした。先行の部隊を牽制したら本隊ごと少し後退しましたから。前回、追い返した時のことを思い出したんだと思いますよ」
「そうか。騎馬隊となると前と同じ手は使えないな。二週間前の時も騎馬隊だったからな」
小さく息を吐き、ティラフェルトは腕を組み、右手を顎に触れる。
「なぁ、アイス兄さん。どうして何度も国境付近に他国に人達が来るんだ? 何度も追い返されてるんなら普通諦めると思うんだけどさ」
「そりゃあ、簡単さ。あちらさんはもっと領土が欲しいのさ。帝国は今でも国力、影響力など他国と対抗出来るけど、まだ余裕じゃない。国と国が組めばいくらでも帝国の力を覆すことが出来る。だから余裕で他国に勝てるように領土を吸収して、兵力、経済力を増やしたい。その為の侵攻さ」
手当てをしているアイシェルドの代わりに、手当てをしてもらっているウルフが癒し手の彼の弟に答える。
「……それ以外にもあるんじゃないのか?」
腕を組んで、眉を寄せてサラティータは問う。
隔絶された島育ちの彼にとって、国のことはよく分からないが周囲の話や雰囲気を見ると他にも理由がある気がしてならない。
「――他にもあるとしたら、我が国の民達を戦力にする為、だろうな」
思案する表情のまま、ティラフェルトがアイシェルドの弟に答える。