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桃の缶詰太郎

むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがおったそうな。


この二人は、汗水垂らして働くことを何よりも嫌い、SNSの懸賞企画に人生のすべてを賭けておきながら、結局は業者に騙される圧倒的な情報弱者の老夫婦じゃった。


毎日毎日、怪しいインフルエンサーの「現金100万円配り」や「最新iPhoneプレゼント企画」に群がり、リプ欄で「本当に困っています」「子供のために必要です」と、息を吐くように嘘の不幸自慢を書き込んでは、楽をして人生を変えたいという「究極の他力本願」で生きておったそうな。


ある日のこと。おばあさんは川へ洗濯に、おじいさんは盗んだバイクで走り出し、行き先もわからぬまま暗い夜の帳の中へ出かけていったそうな。


おばあさんが川でスマホをいじりながらゴシゴシと洗濯をしておると、川上から、プラァ~、プラァ~と、いかにも怪しい桃の缶詰めが流れてきたそうな。


「こりゃあ、ええもんを拾ったわい! タダ最高無料無料! 家に持って帰って、おじいさんに見せてあげよう」


物事の本質が全く見えない情弱のおばあさんは大喜びで缶詰めを拾い上げ、お家に持ち帰ったそうな。


◇


夜になって、おじいさんとおばあさんは、さっそくその桃の缶詰めをパカッとあけてみたそうな。すると、どうじゃ。中から、まるまると太った可愛い男の赤ちゃんが、ニュッと出てきたではないか。


「ひぇぇぇーーーっ!」


二人は腰を抜かすほど驚いてしもうた。あまりのショックに、おじいさんもおばあさんも両足が同時につってしまい、よろめいてつまずいた拍子に、ぐつぐつと煮え滾る灼熱の鍋へ、頭からボチャーンと突っ込んでしもうたそうな。


「熱いぃぃ! 助けてくれぇぇ!」


二人は大火傷を負いながらも、「待てよ…この赤ん坊の成長記録をYouTubeにアップしてクラファンを募れば、働かずに大金が手に入るんじゃねえか?」と浅ましい計算を巡らせ、とりあえずその桃の缶詰めから生まれた赤ん坊を、「桃の缶詰め太郎」と名付けたそうな。


◇


缶詰め太郎は、落書きの教科書と、外ばかり見つつ、超高層ビルを見上げ届かない夢を見ながら、それはそれはすくすくと育ったそうな。


親はとんでもない情弱のクズじゃったが、不思議なことに太郎自身は、非常に真っ直ぐで真面目な少年へと成長したそうな。


そんなある日のこと、真面目な太郎は、近所の河川敷で誰も頼んでいないのに自主的にボランティアの草むしりをしておった。


しかし、あまりにも生真面目に草をむしりすぎた結果、それが国から栽培を禁止されている大麻であることには全く気づかず、「よし、綺麗に乾燥させて、おじいさまとおばあさまに『肩叩き券』をプレゼントするときに、お部屋でリラックスできるお香としてたいてあげよう」と、純粋な親孝行のために実家の物置で大切に乾燥させていたのじゃ。


◇


やがて大きくなった桃の缶詰め太郎は、たいそう勇ましくなり、「よし、なんか調子いいし鬼ヶ島へ行くぞ」と旅に出ることにしたそうな。


お香として持って行った乾燥大麻をぶら下げてトボトボと道を歩いていると、近所のブタが片手にストロングゼロを持ち、だらしない格好で千鳥足でトコトコとやってきてこう言ったそうな。


「うぇーい、缶詰め太郎じゃん! ガチで鬼退治行くの? ウケるんだけど! ってかさ、お腰につけてるその草、マジで本物の大麻じゃん! やばっ!


俺さ、最近マッチングアプリで全然女の子とワンチャンなくてさー。プロフに『裏ルートの極上のくさあります、一緒にキマりません?』って書いてギャル釣りたいわけよ! シーシャバーで女の子に『いいもんあるよ』って誘ったらこれ絶対イケるっしょ!


ひとつ回してくれたら、俺も鬼ヶ島ウェーイってついてってやらぁ! ギャハハ!」


このブタは、深く考えずにノリと目先のエロい快楽だけで生きている、絵に描いたようなまぬけのチャラ男じゃった。


「おぉ、これをあげたら、一緒に鬼ヶ島へ来てくれるのかい?」


「いいよー! テンション上がってきたわー、これで今夜は神引き確定だし、鬼ヶ島マジ最高!」


こうして、ただギャルを釣るためのくさが欲しいだけのアホなチャラ男のブタが最初の仲間になったそうな。


◇


それから二人が並んで歩いておると、今度は仕立ての良い趣味の悪いスーツを着ているハトがバサバサと気取った態度で上空から降り立ってこう言ったそうな。


「なるほど、桃の缶詰め太郎くん。鬼ヶ島への進行ですね。ですが、君のその旧態依然としたスキーム、正直リソースの無駄遣いだし、スケールする未来が見えません。


今必要なのは、鬼ヶ島攻略に特化した僕の『鳩・アセット・ファンド』へのフルインベストです。元本保証で月利30%のシナジー効果を生み出し、君のバリューを最大化させてあげますよ。さあ、スマートに未来へ投資しましょう」


このハトは、流暢なビジネス用語で合理的な提案を装っているが、よく聞くと中身はゼロで、実体のない詐欺ファンドへの投資を執拗に勧めてくる、クッソ怪しい投資詐欺の偽コンサルじゃった。


「なんとまぁ、とんだハト野郎だね、君は。……しかし、僕がそのファンドに投資する約束をしたら、一緒に来てくれるのかい?」


ハトは投資家っぽい態度でコクリとうなずいたので、真面目な太郎はファンドへの投資を約束し、お腰のものを担保としてすべて差し出し、ハトも仲間になったそうな。


◇


お腰のものをすべてむしり取られ、衣服を失いつつある缶詰め太郎と、さっそく「やべえ、マジでにおいからして最高だわこれ」と袋をクンクンかいでいるチャラ男のブタ、太郎にファンドの契約書を握らせて「これで君もグローバルな勝ち組だ」と不敵に笑うコンサルハト野郎。


三匹が歩いておると、今度は川からスッポンがニョキッと顔を出して、うるんだ瞳で太郎をじっと見つめ、優しく包み込むような声でこう言ったそうな。


「……ああ、太郎さん。分かります、分かりますよ。あなたの魂が、どれほど深く傷つき、孤独な戦いを強いられてきたか。あなたのその美しい『純真さ』が、私の胸に痛いほど響いてくるんです、うっうっ。


でもね、太郎さん。あなたの守護霊も言っています。あなたが身に着けている武器や衣服、親切心ゆえに実家に隠している土地の権利書や預金通帳……それら全ての『現世の資産』は、あなたの魂のステージを下げ、悪霊を呼び寄せる『汚れ』となっています。


これらをすべて私にゆだねて名義を変更し、キャッシュカードの暗証番号を教えることで、素直な自分を解放してください。そうすれば、あなたの守護霊たちがあなたを大いに祝福してくれます。さあ、私を信じて、すべてを脱ぎ捨て、すべてを私に振り込むのです……!」


このスッポンは、息を吸うように嘘をつく圧倒的な演技力と共感力でターゲットの心を丸裸にし、そのじつ、頭の中はひたすら金銭欲だけで埋め尽くされた、太郎の身ぐるみから実家の全財産までをも合法的にむしり取る霊感商法スピ系詐欺師じゃった。


「……それを全部あげたら、わしは素っ裸で、しかも一文無しじゃないか。そんな素っ裸で破産した奴がどこにおるんじゃ。……でも、本当に全部あげたら、一緒に来てくれるのかい?」


スッポンは聖母のような微笑みを浮かべ、慈愛に満ちた仕草でコクリとうなずいたので、すっかりマインドコントロールされた真面目な太郎は、ついにすべての衣服を脱ぎ捨て、暗証番号を教え、実家の権利書まで手渡してスッポンを仲間に加えたそうな。


◇


こうして、すっぽんぽんかつ無一文の太郎と、おかしな動物たちが歩いておると、どこからか、何やら大きな音が聞こえてきたそうな。


「ウゥー! ウゥー!」


それは、なんとも不気味で嫌なサイレンの音じゃった。この音を聞いた途端、ハト野郎は、


「おっと、この状況はマイルストーンにありませんね。これ以上のリターンが見込めないため、僕はアライアンスを解消し、一時的にドロンします。あ、投資してもらった分は違約金として相殺しておきますね。では、お疲れ様です!」


と、都合のいい横文字を早口でまくし立てながら、我先にとバタバタ羽ばたいて逃げ出してしもうた。太郎は怒ってハトの背中に向かって怒鳴り散らしたそうな。


「ハト、テメエこの野郎! 逃げるなハト野郎! 話が違うじゃねぇかクソスーツ野郎!ばかやろうこのやろう!」


すると、物陰から誰かがどこかへ連絡している声が、静かな街に響き渡ったそうな。


「こちら〇〇、鬼ヶ島通り付近……。スッポンと、ええ~……豚を引き連れた全裸の男性、1名、街を闊歩しているもよう……」


連絡が聞こえ終わるやいなや、何人かの男たちが缶詰め太郎にジリジリと近づいてきたそうな。


その瞬間、それまで聖母のようだったスッポンは、光の速さで冷酷な真顔に戻り、「ゲッ、警察!? 最悪。全裸の破産者に付き合ってる暇はないのよ。あ、権利書と暗証番号は返さないから」と冷たく吐き捨て、すっぽんとは思えないレベルの猛スピードで財産を持って這い逃げてしもうた。


太郎はまたしても大声を張り上げたそうな。


「おい! テメエスッポンこの野郎! テメエもか悪徳スピバカすっぽんやろう! 話が違うじゃねぇか!」


◇


逃げ遅れた太郎とブタの前に、お巡りさんが立ちはだかったそうな。


「はい、警察です。止まりなさい」


「……え、僕ですか?」


「君、何をしてるの?」


「……いや、あの、鬼ヶ島にですね、ただ行きたいから行こうと思いまして……」


「そんで、なんで今から鬼ヶ島に行くってのに、全裸なのよ。おかしいよね。……あとね、この豚、何か持ってないか確認させてもらうよ」


お巡りさんたちが、お供のブタの所持品をガサゴソと調べ始めると、中からジップロックに入った怪しげな植物の乾燥葉が出てきたそうな。


「何これ? 君、これ大麻じゃないの? ちょっと署で詳しく検査するから待ってて」


するとブタは、サイレンの音と『逮捕』の二文字に完全にパニックになり、顔面蒼白で涙目になりながら、手のひらを返して叫んだそうな。


「えっ、ちょ、マジ勘弁して! 知らない知らない! これ、その全裸の一文無しのヤバい奴に『持ってないとぶっ飛ばすぞ』って無理やり押し付けられたんすよぉぉ! 俺、ただの一般人でーす! 超被害者でーす! マジぴえん!ちーーーす!」


信じていた仲間の、あまりにダサくて身勝手な裏切りに、太郎の怒りは頂点に達したそうな。


「裏切りやがったなこの豚! テメエ豚この野郎! チンコロ野郎!話が違うじゃねぇか!」


しかしブタは、必死に自分を無罪にしようとお巡りさんにすがりついたそうな。


「マジでこの全裸大麻男、話通じなくてキモいんで! 速攻で逮捕しちゃってください! ほんと無理!わっさー!」


お巡りさんは冷たい手錠を取り出すと、太郎の手首にガチャンとかかけたそうな。


「十四時三十五分、桃の缶詰め太郎、公然わいせつ罪および大麻取締法違反の罪で逮捕します。話は署で聞くからね」


こうして、哀れな缶詰め太郎は、財産も衣服も失い、ただ鬼ヶ島へ行きたかっただけなのに警察にガチで捕まってしもうたそうな。


*


後日、缶詰め太郎の裁判が開かれ、下された判決は「鬼の住む鬼ヶ島への島流しの刑」じゃった。


その頃、実家の土地も貯金もすべてスッポンに騙し取られた情弱のおじいさんとおばあさんは、家を追い出され、相変わらず河川敷のテントで「#本当に困っています #家がなくなりました #現金配りお願いします」と必死に不幸アピールツイートを繰り返していましたが、最終的に迷惑系暴走型配信者になってしまいました。


◇


一方、命からがら誰もいない寂しい鬼ヶ島へと流された缶詰め太郎。


すべての財産を奪われ、親からも見捨てられて完全に前科者となった太郎は、浜辺でぽつんと座り込み、シクシクと悔し涙を流しておったそうな。


すると、その姿を岩の隅からじっと見ていた、鬼ヶ島の鬼たちがゾロゾロと現れたそうな。


鬼たちは、衣服だけでなく実家の資産まですべてを騙し取られ、大麻の所持も全部押し付けられて島流しにされた太郎の、あまりに哀れでエグい身の上話を聞いて、深く同情し、ポロポロと涙を流したそうな。


まさに「鬼の目にも涙」じゃ。


鬼の一人が、そっと優しい手つきで、太郎に一枚のハンケチを差し出したそうな。太郎は涙を拭いながら、ぽつりと言ったそうな。


「ありがとう……」


鬼たちは何も言わず、ただ優しくコクリとうなずいたそうな。


「楽して人生変えたい」とネットの闇に溺れた情弱の育ての親、そして「大麻目当てのチャラ男」「投資詐欺ハト」「全財産泥棒スピスッポン」という、人間の醜い欲望を煮詰めたような動物たちに裏切られ続けた太郎の五臓六腑に、鬼たちの温かい優しさがジーンと染み渡っていったそうな。


それからというもの、桃の缶詰め太郎は、外見は恐ろしくとも心は清らかな鬼という「本当の仲間」を見つけ、鬼ヶ島で末永く、仲良く楽しく暮らしたそうな。


めでたし、めでたし。

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― 新着の感想 ―
現代の日常に潜むピリリとした嫌~なスパイスを煮詰めた結果、やたらと美味しいジンジャーエールが出来てしまったような面白い作品でした。最高。
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