惚れたら負け
息抜きに
対戦、よろしくお願いします!
某大手食品メーカー・法人営業部
ここには2大エースがいる
1人は篠宮要、28歳。
営業マンらしい理路整然とした頭の回転と、軽妙なトークスキルを持つ、高身長で端正な顔立ちの持ち主。仕立ての良いスーツを完璧に着こなし、周囲を惹きつける爽やかな笑顔が武器。その容姿から社内外問わずファンが多い。
そしてもう1人、彼と同期の成瀬紗希、28歳。
営業職らしい鋭い判断力と、相手の懐に自然と入り込む巧みな話術を持つ、才色兼備の女性。洗練された身だしなみと凛とした美貌を備え、仕事では隙のない姿を見せる一方、親しみやすい笑顔で周囲を惹きつける。その人柄と仕事ぶりから、社内外問わず彼女に憧れる者も多い。
「今日も頑張ってるね、成瀬さん。この前のコンペ、最高だった」
「あら、篠宮くんこそ。女子社員が騒いでいたわ」
にっこりと仲良さそうに会話している2人は、社内でも噂のカップルだ。
だが内心は
ーーー絶対落とす!
ーーー本気になったら負け!
仕事だけじゃなく、恋愛面でもライバルだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
本日の第一試合
先に動いたのは要だった。
「ねえ、成瀬さん。俺、今日大口の契約が取れたんだ」
「あら、おめでとう!」
満面の笑顔で紗希。
「だからさ、祝ってくれない?飲みに行こうよ」
おっとぉ!ここで要が仕掛けた!
オフィスの女子社員が固唾を飲んで見守る中、
「あー、ごめんなさい」紗希は断った。
「何か用でも?」と要は諦めない。
紗希は手の甲を見せた。小さい手のひらに折れそうな細くて長い指。
「ネイル、直しに行こうと思って」
「なら待ってるよ、その後行かない?」
明日は休みだし、ちょうどいいよね?と彼は引かない。
「あら篠宮くん、そんなに私とデートしたいの?」
くすりと笑って紗希の反撃。
「ああ、どうせ酒を飲むなら美人とうまい酒を飲みたいからな」
「もう…」
要のカウンターをくらい、
仕方ないわね、と紗希は頬を僅かに赤く染めた。
「じゃあ、定時になったら迎えに来るよ」
判定:要!有効!
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第二試合
定時になり、「お疲れ様ー」と紗希はオフィスを後にした。
「まてよ、一緒に行く約束だろ」
と要が呼び止め、急いで荷物をまとめる。
「それじゃあ、お先に」
2人は肩を並べてオフィスを後にした.
近所のショッピングモールの片隅に、紗希のお気に入りのネイルサロンがある。
「退屈だと思うわよ?」と心配する紗希に
「綺麗になった君を一番にみることができるのが俺で嬉しいから、苦にならないよ」と要は笑顔で返す。
「素敵な彼氏さんですねー」
とスタッフ。
「「そんなんじゃないです」」と2人は否定するが、どこからどう見てもカップルだ。
判定:引き分け!
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
第三試合
「じゃあ、いこうか」
要は紗希を行きつけの隠れ家バーへとエスコートした。
「俺はウイスキーを、彼女には…君は甘いのが好きだったね?」
とチャイナブルーを注文する。
「慣れてるわね、さすがモテるだけあるわ」
「ん?妬いてるの?」
「感心してるだけよ、あなたは凄いわ」
くすりと笑う。
その笑顔に要の胸がどきりとした。
ーーーいや、気のせい、気のせいだ
胸中で呟き、落ち着かせる。
その時だった。
「あれー、かなめんじゃん!おひさー」
1人の女性が声をかけてきた。
歳の頃は20代半ば。明るい髪の笑顔がかわいらしい。
彼女は要に後ろから抱きつくと「なかなか連絡くれないんだもん、寂しかったよー」と笑いながらいう。
紗希は僅かに不機嫌になった。
「知り合い?」
尋ねた声は震えてなかっただろうか…胸が苦しい。
「元カノでーす」と答えたのは女の方だった。
そして紗希を上から下まで見て、
「あなた、かなめんの今カノ?めっちゃ可愛いじゃん!」
と笑う。
「かなめん、いい子捕まえたねー!」
そしてバシバシと要の背中を叩く。
「痛いよ、マリ、それに成瀬はカノジョじゃないよ」
ーーーまだ
心の中で付け足してちらりと紗希をみた。
その少し悲しげな瞳に胸が締め付けられる。
「ふーん」とマリと呼ばれた女は笑った。
おそらくすべてを理解したのだろう。
「かなめん、今はこー言う子が好みなんだー」
「余計なこと言うなよ」
そう言うが要の耳は赤い。
「ふーん、仲良さそうね」
紗希の声は冷たい。
「今もトモダチだからねー?」
要は氷を飲み込んだような感覚がした。
「トモダチねぇ」
紗希の声が低い。
「マリ!お前、いい加減に…っ!」
焦った要がマリを振り払おうとすると、彼女はあははと笑いながら、自ら離れた。
そして紗希の耳元で何やら囁いて去ってゆく。
「かなめん、いいやつだからさ、よろしくね」
その声は紗希には届いていなかった。
判定は……
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
最終試合
それから気まずい雰囲気が漂っていた。
要も紗希もいつもの軽口が出てこない。
そんな空気のまま店を出て、駅に向かう。
要は拳を握り、声を絞り出した。
「あ、あのさ、マリのことだけど、ほんとに今はなんでもないんだ!」
「なにが?」
紗希の冷たい声。不機嫌だ。ものすごく。
妬いてくれているのだろうか?という淡い期待と、嫌われたくないという想いが要の中で渦を巻く。
「だから…」
言葉が出てこない。
紗希はため息をついた。
呆れたのではない。気持ちを切り替えるためだ。
「もういいわよ」
やけになったのではなく、優しい声。
ふいに紗希の柔らかな唇が要の頬に触れた。
要の時間が止まった。
「…それは…ずるいな…」
彼が呟くと、紗希はふふっと笑った。
「これで許してあげる」
そう言って、紗希は何事もなかったように歩き出す。
「…………」
要はその場に立ち尽くした。
頬に残った柔らかな感触が、いつまでも消えてくれない。
何なんだ、今のは。
ただの仲直りだ。
そう、ただの仲直り。
そう思おうとするのに、胸の奥はまるで言うことを聞いてくれなかった。
「……成瀬」
気づけば、要は紗希の後を追っていた。
「なに?」
振り返った紗希の顔を見て、また胸が跳ねる。
いつもなら、ここで軽口の一つでも叩くところだ。
けれど、今はそんな余裕がなかった。
「もう、降参してくれ」
「……え?」
「……お前に負けるのは、嫌だ。でも、もう限界かもしれない……」
「篠宮くん……」
紗希が目を丸くする。
そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「それ、告白じゃない?」
「な、なななななっ!」
真っ赤になる要。
「……うるさい」
言うが耳は赤い。
「……お前、性格悪いな。わかってやってんだろ」
紗希は楽しそうに笑った。
その笑顔を見て、要は悟った。
もう駄目だ。
こんな顔をされたら、勝てるわけがない。
「……お前の勝ちでいいよ。今日のところは」
そして深呼吸。いつもの余裕を取り戻す。
「でもな、次は絶対俺が勝つ。……覚悟しとけよ!」
「私だって負けないわよ」
額を合わせ、2人で笑う。
「なあ、この後俺の家で飲み直さないか?」
「変なこと、しないでよね?」
「さあ、どうだろう?」
君が可愛すぎるのが悪い。
そう思いながら、要は紗希の額に唇を落とした。
試合終了!紗希、一本!
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
休日が終わり新しい1週間が始まる。
「あら、要、今日もイケメンね」
「紗希こそ、今日もいい笑顔だ」
いつも通りの笑顔の攻防。
だがその距離がいつもより近いことを気づかない社員はいなかった。
気づいてないのは当人たちだけ。
今日も2人の戦いはつづく…
苦手なラブコメに挑戦しました。
ありがとうございました!




