第十二章 横顔の約束
「始めるのか」
背後から声がした。
振り返るまでもない。
鷹宮である。
若い。だが目は、年齢相応ではない。
「遅い再出発だな」
軽口のようでいて、責める響きはない。
「必要な時間だった」
「だろうな」
短いやりとりである。それで十分だった。
◇◆◇◆
表向き、鷹宮は研究員の一人という肩書きを持つ。
だが実質的にここを束ねるのは彼だ。
予算の調整。
出資者との交渉。
政府との折衝。
研究そのものを前に進めるのは私だが、それを世に通すには別の力がいる。
私はその力を持たない。
彼は持っている。
「報告は俺に上げろ」
「了解している」
形式上、私は彼の指揮系統に入る。若い指揮官のもとで動くことになる。
しかし、炉の設計と改良を担う立場は変わらない。研究の中枢にいるという事実も動かない。
役割が違う。それだけのことだ。
◇◆◇◆
「例の炉、どこまで行けそうだ」
「制御は可能だ。間に制御弁のような役割を果たすものを挟めば、暴走は抑えられる」
感情をそのまま燃やせば、すす――影が出る。幾度となく失敗してきた。
直接炉心に流し込むのが問題だ。
ならば一度、受け止める仕組みを作ればいい。
整え、濾過し、揺らぎを均す。
まだ名前はない。だが、方向性は見えている。
「爆発的な出力は出ないぞ」
「構わない」
即答だった。
「安定していることが重要だ」
そこは一致している。
私たちの目的は、世界を焼くことではない。世界を支えることだ。
◇◆◇◆
既存のエネルギーは枯渇しつつある。
環境を削り、資源を掘り尽くし、それでも足りない。
感情は尽きない。人がいる限り生まれ続ける。
それを利用する。革新的であり、同時に危うい。
「利権は動くぞ」
当然だ。
爆発的な出力を求める者もいる。
一気に市場を握りたい者もいる。
「だから、お前が必要なんだ」
政治は彼の領域だ。研究は私の領域だ。
目指す場所は同じである。
炉を完成させ、安定したエネルギーを世に供給する。
理屈の上では、多くの生活は救われる。
◇◆◇◆
私は鷹宮を見る。彼は前を見ている。
野心もあるだろう。計算もあるだろう。
だがその奥にあるものは、私と同じだ。
「やるぞ」
「やろう」
並び立つ。
若い指揮官と、戻ってきた研究者。
ここから先は、二人で進める。
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