表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖 絶 大 戦【第4章開幕】  作者: 木村太郎
Vol.2 The Fall of the Tower/崩壊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/110

042 巨人の睥睨

 グレイスの身のさばきは、天性のものだ。


 セイラの目から見ても、しゅうに秀でたものが見受けられた。

 正式の武術など習っていないはずなのに、勘がいい。身を低くして懐に飛び込み、真述ロジックの射程をうまくかいくぐっている。判断が早く、迷いがない。からだの隅々まで意識がゆきわたり、どう動くのがもっとも効率的かを瞬時に見さだめられている。

 対する真述師ロジシャンは両名とも、そうとうの訓練を積んでいるはずなのに、詠書スペリングの速度がまるで追いついていない。グレイスの手斧を向けられれば避けるのが精いっぱいとなり、もうひとりが攻撃されている隙に筆杖ペンを走らせることで、かろうじて反撃の糸口をつかんでいる、というありさまだ。


 押している。

 おそるべきことに。


 これが、『驚嘆すべき少女(アメイジング・ガール)』か。

 セイラの脳裏に、KKKによってつけられた異名がよみがえった。トムが語っていたのだ――この少女を救出したとき、教会のただなかにいた十数人の男たちは、みな手斧で斃されていたのだと。筆杖ペンで武装し、奴隷追跡人スレイヴハンターをみずから任ずる成人した男たちが、十数人である。それを、たったひとりで打倒してみせたのだという。

 いま、このように闘っているさまを眺めてみれば、疑問は雲散霧消する。

 まちがいなく、この少女がやってのけたのだ。たった一振りの手斧で。


「――ちっ」


 赤髪のほう、スカーが舌打ちを漏らして、ふたたび髪を編んで引き抜いた。振りかぶられたグレイスの斧を避けつつ、空中浮遊した髪箒フデへと飛び乗った。銀髪のアナベルも、おなじように中空へと逃げる。

 こうなると、戦況は一変する。

 手斧の短いリーチでは、空中一〇フィートの位置に陣取る真述師ロジシャンには、攻撃が届かない。対する真述師ロジシャンのほうは、攻撃をふせぐことに気も取られず、ゆうゆうと筆杖ペンを振るえるのだ。小銃がなければ、この圧倒的優位をひっくり返すことはむずかしい。


「くっ」


 グレイスが、身を投げるようにして、かろうじて炎と氷とを避けた。


 この真述師ロジシャンたちは、おそらく契約真述師コヴェナントだ。

 そうでなければ、かくも巨大な炎や氷を生み出せるはずがない。

 

 契約真述師コヴェナントとは、六属性――ムーンテュールウォドントールフレイヤサトゥルヌスのいずれかの聖霊に、誓いをささげている真述師ロジシャンを指す。

 ほんらい、真述ロジックによって歪められた法則は、世界の矯正力によっておおよそ六秒後には自浄される。生み出された炎は消え、氷は溶け、水は蒸発する。そのため、たとえば真述ロジックで起こした炎を保ちたければ、もともと燃焼しうるものに火を移しておかねばならない。

 しかし、聖霊と契約を行なった真述師ロジシャンの場合は、ことなる。矯正力によってかき消されるまでの猶予時間が、おおよそ六〇秒へと飛躍的に延びるのだ。かつ、生み出される現象も強化される……炎はよりたかく燃え上がり、氷はより冷たく凍てつくのだ。その代わり、契約を行なったものは、きびしい戒律を守らねばならなくなるのだというが、それがどういったものであるのかまでは、セイラは知らない。


 ――重要なのは、契約を行なった真述師ロジシャンは手ごわいということだけだ。


 セイラのまえに、グレイスのからだが転がってくる。

 擦り傷と火傷が、皮膚のいたるところにできていた。お構いなしに、グレイスは跳ね起き、すぐに真述師ロジシャンたちをにらみつける。セイラはとっさに、抱えていたフレデリックのからだをヘスへと押しつけ、グレイスを庇うようにまえに立ちはだかった。


 炎が、セイラの頭にかぶさった。


「セイラ!」

「黙っていたことが、三つあるんだ。グレイス。

 一つ、ぼくは女の子じゃない」


 ()()()()()()()()、グレイスへ向き直った。

 グレイスが目を剥くが、セイラが手にしているのがほんものの髪ではなく、つくりものだと気づいたようだ。燃えさかるウィッグを放り捨て、セイラは短く刈られた頭を撫でた。


「二つ、ぼくは洞人ドワーフじゃない」


 顔をつるりと撫でた。

 皮膚の色が、洞人ドワーフらしい褐色から、そばかすの散った黄色へと変わる。母が持っていたらしい極東の、凹凸のすくない顔立ちが、露わになる。決して気に入ってはいないが――セイラの生まれ持った顔だ。


「三つ、()()()()()()()()()()


 広げた両手のひらから、影が湧き出した。じわじわと浸食するように肌を這いのぼってきた影が、セイラの痩せたからだを骨格とし、まわりに筋肉をかたちづくっていく。手足がともに長さを増し、幾重にも塗り固めるように、影が隆々たる筋骨をつくりあげていく――数秒後、セイラの肉体は一〇フィートを超え、巨人ゴリアテのような堂々たる偉丈夫へと、化けた。


 セイラが瞑目する。


「頼んだよ、()()


 意識を、手放した。

 瞑目めいもくしたセイラの顔を、影が覆う。狼を戯画化ぎがかしたような獰猛な表情の仮面が、すきまなくセイラの顔を覆った。全身が真っ黒の、巨人が完成する。

 見上げるような背丈の巨人は、グレイスのはるか頭上で、舌を出して笑う。


「おうともさ、()()()


 巨人が咆哮する。

 ふたりの女真述師(ロジシャン)へと向き直ると、髪箒フデに乗ったまま驚愕の表情を浮かべる彼女らを、丸太のような腕で薙ぎはらった。地表へ倒れ込んだ真述師ロジシャンたちが、すぐに筆杖ペンを走らせ、炎と氷とを呼びだす。

 両腕を盾に、巨人が真述ロジックの攻撃を受け止めた。

 へいぜんとしている。


「ここはぼくとおれとが引き受ける。先へゆけ」


 我にかえったらしきグレイスが、ヘスとともにフレデリックのからだを抱え上げ、龍の頭を目指して走り出した。追撃をしようとするスカーを、拳を飛ばして防いだ。

 セイラ――()()()が、ジムの頭のなかに声をひびかせる。


 ――トムがくるまで、ぼくたちで保たせるよ。


 ――あの野郎が来るもんかよ。ここを上空何フィートだと思っていやがる。


 ――くるよ。トムだもの。


 ――ああそうかい。好きに信仰してやがれ。


 ジムは応え、ふたたび固めた拳を地面へと叩きつけた。

 氷の真述ロジック詠書スペリングの途中で防がれ、緑色のかがやきが雲散霧消した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ