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聖 絶 大 戦【第4章開幕】  作者: 木村太郎
Vol.1 The Exodus of Grace/恩寵

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024 けものと死神

 いつのまにか、教会に来ていた。


 深夜だ。

 周囲には人影もない。曜日感覚なんてとっくの昔にうしなっていたが、この時間なら、礼拝におとずれるものはいないだろう。


 重い扉に、手をかけた。

 ひんやりとした金属の感覚が、手のひらに貼りつくようだ。おまえは観音開きの片方をそっと開け、すきまからからだをすべり込ませるように、なかへと入っていった。


 豪奢な十字架が、中央に掲げられている。

 はりつけとなっているのは、見慣れた天人ヒューマンの若者だ。けっして、洞人ドワーフのすがたで描かれることはない。

 両脇には蝋燭が連なっている。

 昼のような明るさ、とはいかないが、歩くのに支障はなかった。


 おまえは、十字架へ向かって歩いていく。


 告解室を見つけた。

 精緻せいちな彫刻がたんねんにほどこされた、木製の小部屋。その片方、緞帳カーテンが掛かっているほうには、神父さまの影が映っていた。おまえは反対がわの小部屋へと、座る。

 格子の向こうのくらがりに、こちらを眺める白い顔が見えた。


「……主の声に、心を開きなさい」


 おごそかな声が、おまえに告げる。


「主は、あなたの改心を呼びかけておられます。そのいつくしみを信じ、あなたの罪を告白なさい」

「神父さま。わたしは罪を犯しました」


 おまえは語った。


 さいしょからさいごに至るまでの、おのれの来し方と、罪とを、語った。


 主人を殺そうとしたこと、

 野菜を盗んだこと、

 真実を告白しなかったこと、

 メアリーに愛されようと願ってしまったこと、

 メアリーを見殺しにしたこと、


 そして――

 天人ヒューマンの農夫を、殺したこと。

 

 告解が終わった。

 おまえはことばをとめ、教会の壁のなかに反響したじぶんの声の余韻を聞きながら、神父からつぐないを命じられるのを、ただ待った。


「こうべを垂れなさい」


 神父が命じた。


「そして、罰を待つのです。

 全能の主、あわれみ深い父は、罪のゆるしのために聖霊を注がれましたが、洞人ドワーフに与えられるゆるしは限られています。

 けがらわしい洞人ドワーフの身でありながら、

 主に祝福された天人ヒューマンを手に掛けたことの罰を、ただ噛み締めなさい」


 おまえは、告解室の外へと目をやる。


 天人ヒューマンたちが、揃っている。

 みな一様に筆杖ペンを構え、瞳をかがやかせながら、じりじりと、おまえに近づいてきている。礼拝堂を埋め尽くすほどの男たちが、おまえを追い詰めている。


 告解室から歩み出でてきた神父に目をやる。

 胸元に、KKKの三角紋章が、かがやいていた。彼もまた、筆杖ペンを手にしていた。


 なんの感慨もなく、

 なんの恐怖もなく。


 おまえは、手斧を取り出した。


 ――神さま。

 ――わたしはもう、ためらいません。


 おまえは姿勢を低くして、

 弾かれたように、飛び出した。


 *


 おどろくことは、なにもなかった。


 けものが、殺したのだ。

 けものが、暴れまわったのだ。


 弱者を痛めつけようとしてやってきただけで、野生のけだものと戦う覚悟もない連中が、勝てるわけがなかったのだ。かつて、暗黒大陸と呼ばれていたあの場所で最強の民族と呼ばれたゆえんを、洞人ドワーフ洞人ドワーフたるゆえんを、おまえはぞんぶんに発揮した。

 授文スペルをつづるよりも早く、

 筆杖ペンを振るうよりも速く、

 おまえは、蹂躙した。

 

 あとには、血みどろだけが、残った。

 戦意をうしない、筆杖ペンを取り落とし、立襟たてえり祭服さいふくの股間を濡らし、腰を抜かして、ただ怯え震えつづける、神父だけが残されていた。


 おまえは、死体を踏み越えながら、教会を後にした。


 そこにいたのは、

 百人を超える、KKKの一団だ。


 教会にいた、賞金目当ての雑魚連中とは違う。

 内戦ザ・シヴィル・ウォーを経験し、練り上げられた戦闘真述バトルロジックを得た、ほんものの真述師ロジシャンたちが、おまえの周囲をかんぜんに取り囲んでいる。


 おまえは、顔の血をぬぐった。

 空を、見上げた。


 ――北極星が、とてもきれい。


 その場に、おまえは倒れ込む。

 手斧が、右手からすべり落ちるのが、分かった。


「倒れたぞ――」

「油断するな、縛り上げろ――」


 きれぎれに、声が聞こえる。

 その声たちも、もう遠い。


 ただ、北極星をながめていた。

 煌々《こうこう》とかがやく星が、おまえを、見下ろしていた。逆さまになった視界の隅を、白衣の連中が動きまわっている。なにかを騒いでいるのだけは分かったが、もはや、興味はなかった。

 一度――見つめていた北極星が、人影によってさえぎられた。


 騎士、に見えた。


 いにしえの物語に出てくるのと同じように、鎧と兜をすきまなく身につけている。面頬めんぽおで、その顔はかくれて見えない。銀色に光る甲冑が、月光をさえざえと照らしていた。


「――――」


 騎士が、なにかを言った。

 声は明瞭なことばをかたちづくらないまま、おまえの耳をすべり抜けていった。


 騎士は、視界から消えていった。


 遠くで、剣戟が聞こえる。

 肉を斬る音、ひとが地面に倒れる音が断続的にひびく。真述ロジックの炎が緑色にひらめくが、その間隔はだんだん間遠まどおになっていき、やがて途絶えた。


 しずかになった。


 おまえの視界に、騎士がまた戻ってくる。


 そうか、とおまえは思う。

 これは、死神だ。


「わたしを、むかえにきたの?」

「そうだ」

「地獄に、いくのね」


「いいや、」

 死神は、首を振る。面頬の内側で、死神は笑ったように思えた。

()()に、行くのさ」


 おまえは、意識を手放した。


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