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聖 絶 大 戦【第4章開幕】  作者: 木村太郎
One Day: Point of No Return

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000 ジェリコの戦い -Joshua Fit The Battle Of Jericho-

 わたしは歩いている。

 城壁を見つめながら、歩いている。


 わたしのまえには、天人ヒューマンどもの都がある。

 汚穢と腐敗の都だ。

 冒涜と背徳の都だ。


 わたしのうしろには、洞人ドワーフたちの軍がある。

 正義と憤怒の軍だ。

 復讐と栄光の軍だ。


 すべての士師ジャッジたちが、集まってきている。

 大陸全土を駆け抜け、燎原に炎を燃やし、それぞれの集団を率いて、ついにこの場所へとたどり着いている。地平線をみはるかすと、大地が、一面に黒く塗りつぶされている。すべてが、洞人ドワーフだ。この大陸でしいたげられてきた、我がうつくしき黒き民族だ。

 数にして、およそ一二〇万の怒りが、この場所へ集結してきている。

 ここに至るまでに、一二〇万を超える死を、天人ヒューマンどもにもたらしてきていた。


 わたしたちは、()()()()()()()()()

 もう、後戻りはできない。


 後悔などはない。

 あるはずがない。

 いま、この瞬間をわたしは目指してきたのだ。

 この大陸を支配した天人ヒューマンどもに、目にものを見せてやること――あの第一次南北戦争において、のうのうと逃げおおせてみせた天人至上主義者ヒューマン・スプレマシストどもに、われらの怒りを叩き付けてやる日を、夢見てきたのだ。


 すでに包囲は、七日に達している。


 さいしょから、この七日間は織り込んでいた。

 だんだんと増えていく軍勢を、都の天人ヒューマンどもに見せてやりたかった。膨れ上がっていく絶望を、ぞんぶんに、味わわせてやりたかった。じぶんたちの罪がどれほど重いものなのか、思い知らせてやりたかった。

 わが地下帝国軍は、ゆっくりと、城壁の周りを行進した。一日に、一周。あの病みたぶれた都に住むすべての天人ヒューマンに、威容を見せつけるように。

 もはや、天人ヒューマンどもに救いはない。

 助けはこない。

 できるのは、わたしたちを呪うことだけだろう。


 そして――。

 いま。最後の一周が、終わった。


「止まれ」


 わたしがつぶやくと、傍らに立っていた腹心が、おなじことばを叫ぶ。止まれ、という命令は何度もくりかえされ、一二〇万の兵は巨獣がゆっくりと足を止めるように、静止した。しわぶきひとつない軍を振り向くと、わたしはノモを用いた。


   さあ、はじめよう。


 一二〇万の視線が、わたしを振り向く。

 わたしのノモは、その頭のひとつひとつに響く。耳元で語られているかのように、明確に、明瞭に、届く。それがノモだ。わたしのノモを耳にしたことのない洞人ドワーフはこの場には存在しない――しかし、黒の魔術師、マザー・”驚嘆すべき(アメイジング)”・グレイスのすがたを直に見ながら聞くのは、おおくのものにとってはじめてのことだろう。

 わたしは語る。

 ひとりひとりの目を、見つめるようにして、語りかける。


   さあ、いま。


   戦争を始めよう。

   聖戦を始めよう。


   すべてを殺しつくし、

   大地を真っ黒に塗りつぶそう。

   われわれの色だ。


   大地に血を流すことをおそれるな。

   大地はわれらの母であり、

   ふるさとであるからだ。


   大義などのために戦うな。

   そんなものは犬にでも食わせておけ。

   おまえたちの怒りのために、

   おまえたちの絶望に報いるために、

   おまえたちが奪われたものすべてを

   取り戻すために、

   戦うのだ。


   わたしはかつて、おまえたちに語った。

   弱さを纏え。

   女々しさを装え。

   そうして、わたしの声を待て――と。


   いまこそ、時が来た。

   弱さを打ちすてるときがきた。

   女々しさを振り払うときがきた。

   すべての屈辱を、虐待を、差別を、別離を、

   失望を、蔑視を、哀哭を、憤怒を、

   思い出すべきときがきたのだ。


   いまこそ、わたしは命ずる。

   カナンの地を与えるものとして、

   ヨルダン川を越えるものとして、

   おまえたちに、命ずる。


   ()()()()

   ()()()()()()


 文字通り大地を揺るがす大轟音が、響き渡った。

 すべての洞人ドワーフが、吠えているのだ。おのれの獣性を解き放ち、おのおのの戦斧をかかげ、腹に溜った怒りを、天に向かって吐き出している。吠え声は巨大な炎となり、青空をつらぬくように、吹き上がっていく。


   奪うな。燃やし尽くせ。

   おまえたちのうつくしい黒い手に、

   白くけがれたものを乗せてはならぬ。

   同様に、白くけがれたものどもを、

   ひとりたりとも、生かしておいてはならぬ。


 重ねて、わたしは語った。

 猛り狂った洞人ドワーフが、わたしが指さすのを、いまかいまかと待ち構えている。わたしは天に向かって右腕を掲げた。天を指した人さし指を、ゆっくりと倒し、城壁へと向けていく。


 ――いっしゅん、あの顔を思い出した。


 すぐに、かき消した。

 思い出してはならない顔だったから。

 あんな笑顔を思い出したまま、死を命じることはできなかったから。


 そして――


聖絶せよ(ヘーレム)


 わたしの虐殺が、始まった。


 *


 わたしは指さし続けるだろう。

 さいごのひとりが聖絶されるまで。

 

 止められるものならば、止めてみるがいい。

 守れるものならば、守ってみるがいい。


 なあ──


「──トム・ソーヤー」


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