第一話:入学式の時点で既に異彩を放つキラキラネームの子が2人いるそうです。
体育館の空気は、春の花の香りと少しだけ緊張を含んだ静けさに包まれていた。
入学式が始まる数分前、新入生たちはぞろぞろと指定の席に座っていく。
その中、ぽつんと目を引く存在があった。
前髪の下からのぞく、黒い眼帯。
ロングスカートに黒いネクタイ。
黒くて大きな目をして、じっと何かを考えているような――けれど何も考えていないような顔。
天羽鈴愛は、列から少し離れた席に静かに座っていた。
周囲の目線にも反応は薄く、まるでその場に「いてもいない」ような雰囲気を纏っている。
一方、彼女の斜め前の席には、制服の袖が手の先までたっぷりと垂れた少女がいた。
ミニスカートの裾が座るたびにずり上がるのも気にせず、脚をだらしなく投げ出すように座っている。
輝焔舞雷。
黒髪に金メッシュ。黒と金と銀のネイルが光を反射してきらりと光る。
ぼんやりと天井を見ながら、口元だけが小さく「だる」と動いた。
そして――少し離れた列、普通の姿で、普通に真面目そうに座っている
天使天使。
黒髪ストレートに清潔な制服、きちんとした姿勢。
だが、その瞳はちらちらと前方の「ヤバそうな二人」を見ては、視線をそらしていた。
(……やば……すごいのいる……)
心の中でそう呟きつつ、天使は優しく息をついた。
(別に悪い子じゃないのかもしれないし……でも巻き込まれたくないなぁ)
周りの生徒もちらちらと鈴愛や舞雷を見ては、目を合わせないようにしていた。
そして、校長が壇上に立ち、入学式が静かに始まった。
校長は壇上でゆっくりと口を開いた。
「新入生の皆さん、本日はご入学おめでとうございます。これからの三年間、勉強や部活動、さまざまなことに挑戦し、充実した中学校生活を送ってください。清風中学校は校則を守り、互いに尊重し合うことを大切にしています。」
鈴愛は黒い眼帯の下で半ばぼんやりと校長の言葉を聞いていた。
(ふうん、そうなんだ)
舞雷は腕を組み、天井の照明を見上げながら小さく舌打ちをした。
(うるせぇな)
一方、のえるは少し前のめりに座り、真剣な表情で話を聞いていた。
校長の話が終わると、生徒たちはざわつきながら席を立ち、体育館の出口へ向かう。
「一年一組の生徒は廊下で待ってください。」
先生たちの声が響く中、鈴愛と舞雷だけは動かなかった。
数秒の沈黙の後、女性教師が近づいてきて静かに声をかける。
「天羽さん、輝焔さん、少し残ってもらえますか?」
ふたりは何も言わずにうなずき、体育館の隅へと歩いていった。
教師たちが待ち構えるその場所で、校則違反についての話が始まる。
「制服の改造や髪の色など、校則は守らなければなりません。皆さんの安全と秩序を守るためです。制服の改造や髪の色について、反省はしていますか?」
鈴愛はふわりと視線を宙に泳がせ、ぼんやりとした声で答えた。
「はい、反省してまーす。」
舞雷も同じく、少しあざとく声を張って、
「うん、反省してまーす。」
教師たちはそれを信じているようには見えなかったが、一応うなずく。
しかし、鈴愛の心の中は全く違った。
(別に反省なんてしてないし、校則なんて変えるつもりもない。だって、あたしはあたしだし。)
舞雷も同様だった。
(うるさいだけ。こっちのやりたいようにやるだけ。)
表面上は態度を取り繕いながら、二人の目はどこか冷めていて、反省の色は微塵も感じられなかった。
一方、離れた場所から、体育館の隅で話す鈴愛と舞雷の姿を見ていた天使は、少し心配そうに眉を寄せた。
(あの二人、表向きは反省してるって言ってるけど、本当はそうじゃないんだろうな……)
「校則を守らなきゃいけないのはわかるし、これからの学校生活はきっと大変だよね。」
天使は自分に言い聞かせるように、小さくため息をついた。
(私も巻き込まれたくないけど、なんだか気になってしまう……)
彼女は視線をそらし、静かにその場を離れた。
初投稿です!これからゆっくりと続きを書いていきます