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ピアノの音色に誘われて  作者: 朝顔
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ピアノの音色に誘われて

 何処からかピアノの音が聞こえてくる。

 “いいな〜、ピアノ……”

 篠原あすかは学校から自宅への帰り道の途中で聞こえてくるピアノの音色が好きだった。

 あすかはピアノが習いたかったが、何故か親が習わせてくれなかったのだ。

 小学生の頃、周りのお友達が皆ピアノを習い始め、大きなバッグを肩に掛けて教室に通う姿が羨ましくて羨ましくて仕方無かった。

 あすかは自分もピアノを習いたい、と何度両親にお願いしても許して貰えなかった。

 家は特に裕福という訳では無いけれど、貧しいという程でも無かった。現にあすかの姉はピアノだけでなく色々な習い事をさせて貰っていたのだし。

 それでも諦めきれずにお友達に弾き方を教えて、と頼んでもニヤニヤ笑って「教えられな〜い」「ピアノ弾きたいならあんたも習ったらいいじゃない」と言われるだけだった。

 そんなこんなで学校の“友達”とは疎遠となり、1人で過ごす事が多くなった。



 いきおい1人で出来る、特に習う必要の無い事に関心を持つようになったあすかはひとまず勉強と読書に精を出すようになった。 

 すると当然成績も上がり、テストも満点を取るのが当たり前になって来た時、それまで遠巻きにしてニヤニヤ嗤っていたクラスの子達があすかにまとわりつき出した。

 “あ〜、もう! 鬱陶しいな〜!!”

 しかし、あすかにはそんな連中の魂胆など手に取るように分かっていたので適当にあしらっていると、今度はお高く止まっているだの人でなしだの、散々陰口を叩かれた。

 齢10歳にして人間の汚さ・醜さを思い知ったあすかは、それからどんどん人嫌いになっていった。



 そんな事を思い出しながらピアノの音を聞いていると

 不意に演奏が途切れた。

 “あれ? どうしたんだろう?”

 まだ曲は途中だった。特に間違えた訳でもない。

 “誰か来たのかな?”

 ピアノを演奏している部屋に誰かが入って来て演奏が中断されてしまったのだろう。

 ちょっぴり残念に思ったがクレームをつける筋合いでも無いので、そのまま家路についた。

 ピアノの音色はそれきり聞くことは無かった。



「あの曲、何の曲なんだろう?」

 あすかは自室でそんな事をぼんやりと考えていた。

 あの曲は、あすかの知らない曲だった。

 クラシックのピアノ曲なら大体分かる。ピアノ曲は好きなのでよく聴いているからだ。

 もしかしたらジャズとかなのかも知れないが……ジャズとはまた違うように感じる。

「自分で作った曲とかかなぁ?」

 ふとそう思った。

「自分で思うままの曲を作って弾く……カッコいいなぁ」

 そういうのって憧れるよね……と、その時あすかはぼんやりと思った。



 そして時は流れ、あすかは成人して就職。そこからひたすら仕事に励み、趣味の一つも碌に持たずただひたすら出勤し遅くまで仕事する生活を何年も続けていた。

 そしてある日、珍しく仕事が早く終わりクタクタな身体に鞭を打ち自宅であるワンルームマンションに帰る途中何処からかピアノの音が聞こえてきた。

 “え? 何処から聞こえてくるの?”

 思わずキョロキョロと周囲を見回すが……当然、何処から聞こえてきているのか分からない。

 “やっぱりいいな……ピアノ……”

 そう思いながら自宅のワンルームへと急ぐ。



 休日の午後、あすかは気晴らしに街へショッピングに出掛けた。

「ふう〜」

 一通りお馴染みの店を見て回り、休憩する為に近くのカフェへと入っていった。

 あすかはお気に入りのカプチーノを注文し、席に座る。

「はぁ〜、美味し〜!」

 一口飲んでほ〜っと息をつく。

 店内にはしっとりした曲調のピアノ曲が流れている。

 “ここ、ピアノ曲を流してくれるから好きなんだよね……” 

 と、のんびり寛いでいた。

 そしてその帰り道。ふとあるものが目に入った。

 それは

【モリハ・大人の体験音楽レッスン】

 街角のモリハ楽器店に、そう張り出されていた。

 あすかは誘われるように、フラフラと楽器店に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ!」

 店に入ると愛想の良いお姉さんが声を掛けてきた。

「あ……あの……」   

 何故か緊張して言葉が上手く出て来ない。

「はい」

 お姉さんはニコニコと笑いかけてくる。

「あの、大人の体験教レッスン……」

 やっとの事で絞り出した声は情けなく[[rb:吶 > ども]]ってしまった。

「大人の体験音楽レッスンのお申し込みでよろしいですか?」

 ニコニコとそう尋ねてくるお姉さん。

「は、はい!」

「畏まりました。では、こちらにご記入をお願い致します」

 と、お姉さんは申込み用紙を出してきた。

 あすかは言われた通り、必要事項を記入していく。

「ありがとうございます。では、体験レッスンは合計4回、予約制となります……」  

 お姉さんに色々と説明を受けながら、あすかは嬉しさと緊張で今から胸がドキドキしてきた。



 そして体験教室の1回目、あすかは楽器店に足を運びお姉さんにレッスン室に案内して貰う。

 “ゔ〜、ドキドキしてきた〜”

 レッスン室に通され、先生を紹介される。

「篠原あすかさんですね? 私は松井香奈実といいます。今日から4回、体験レッスンの講師をさせて頂きます」

 優しそうなお姉さんがニッコリと迎えてくれた。

「よ……よろしくお願いします!!」

  


「では。まずは……」

 松井先生が取り出したのはバイエルでは無く、あすかも聞き馴染みがあるピアノ曲だった。

「?」

 あすかが戸惑っていると

「今は体験ですからね。耳に馴染んだ曲を易しくアレンジしたものを弾いていきましょう」

 そう言って先生が出してきた曲は、あすかもよく知る曲だった。

 “あ、この曲好き”

 易しくアレンジしたものとはいえ、自分が好きな曲が演奏出来るなんて俄然やる気が湧いてくるというものである。



 そして体験レッスンが始まった。

 最初は指使いや楽譜も上手く読めずに四苦八苦していたが、やはり“両手”でピアノが弾けている、という事が嬉しくて嬉しくてやる気はどんどん湧いてくる。

 松井先生は優しくて教え方も丁寧で分かり易く、あすかの演奏も少しずつ様になってきた。

 そして体験レッスン最終日には、その曲が間違えずに弾けるようになっていた。

「はい。よく頑張りましたね、篠原さん。凄く上手でしたよ」

 パチパチと拍手して褒めてくれる松井先生。あすかはジワジワと嬉しさが胸に込み上げてきた。

「ありがとうございました」

 レッスン室を後にして自宅に戻ろうと思ったら

「お疲れ様でした」

 受付のお姉さんがニコニコと声を掛けてくれた。

「ありがとうございました」

 お姉さんにもお礼を述べると

「篠原さん。レッスン、正式に申し込まれますか?」

 にこやかに尋ねられた。

「あ、そうですね……」

 一瞬迷ったが、あすかは

「お願いします」

 と答えた。

 そこからレッスンは何曜日にするか、レッスン代は幾らか、などの説明を受け申込用紙に記入していく。

「はい。これで申込は完了です。先生は引き続き松井先生にお願いする事になりますが、よろしいですか?」

「はい! お願いします!」

 あすかははっきりと返事をした。

「では、○曜日の××時にお待ちしております」



 音楽教室を出たあすかの心は浮き立っていた。

 “やっと! 念願のピアノが弾ける!”

 正式にピアノを習うとなると、楽器も用意しなければならないが、昨今は結構お手軽価格の電子ピアノなどもあるからどうにかなるだろう。

 “楽器店のお姉さんも相談に乗ってくれるって言ってたし”

 あすかはこれから始まるピアノとの生活に胸を躍らせ家路についた。




 



 

 

 




本作をお読み頂きありがとうございました。

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勇気を出して憧れのものに一歩近付いたあすかさん。かつての私を思い出し、あすかさんとともにドキドキしてしまいました。 あすかさんが、大好きな曲たちをたくさん弾けるようになりますよう、お祈りしています。 …
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