救済
お腹すいたぁー。見渡す限りこの部屋は相変わらず何もない。鼻をつんざくような臭い。少し歩けば他の奴にぶつかる。元気な頃は威嚇したり、取っ組み合いのケンカになっていたが…。
今ここにいるやつはそんなことには無気力、無頓着だ。
「ここですか?」都心から離れた1階建ての平屋の前で、車を降りメモを片手に助手の氷室 硬は先輩の愛野 花に確認する。「うん、まちがいないわ。もう、ここからでも異臭と鳴き声が聞こえるもの」5mぐらいは離れてはいるだろうが、昼日中この異臭はかなりきつい。
隣近所の通報があってやってきたが、これは近所の人はかなりのストレスだったろう。
動物愛護団体(一粒)のスタッフとして、もう3年がたつ。月日が経つのは早いものだ。
昔から動物好きでそれにたずさわる仕事をしたいと思ってきたが、成長するにつれその夢も所詮現実味に乏しく諦めていた。それから高校を卒業して、進学もせず仕事にもつかず家でしばらくブラブラしていた時…パソコンで一粒のスタッフ募集の欄をみて、即応募をしていた。こんなチャンスはなかなかない。
愛猫のロウが老衰で亡くなって、丁度一年が経っていた時だ。
一粒に電話をすると、早速面接にきてほしいとのこともあり翌日には面接をしていた。早い対応で、慌てて履歴書を書いてカバンに入れる。
一粒はこじんまりとした、古い建付けのドアを開けると正面に2階に上がる階段がある。軋む階段を上がり、事務所内の応接セットに座り面接は始まった。
面接に対応してくれたのは、眼鏡をかけた所長の島田さんだ。50代半ばのやさしい顔持ちをしていた。その印象は3年経つ今も、全く変わらない。
「業務内容としては、動物の保護から始まって食事や健康管理ワクチン接種などや里親を探し引き渡します」テーブルにおかれたこの団体の活動内容がかかれたパンフレットをみながら、ざっくりと説明をしてくれた。
「慣れるまではかなり大変ですが、過酷な環境にいた動物に触れあうことでかなり心動かされますよ。ペットは人のおもちゃではないですからね。我々と一緒にやってみますか?」
「はい、やってみます」考えるまでもなく、一つ返事で決まった。
こんなにあっさり決まっていいのかと思ったが後から、この業界はハードで常に人員不足だということを知った。