役立たずを追放した勇者、暗殺される。
「レアン。お前はクビだ」
朝起きて、階段を降りてくると妙に静かだった。
いつもならうちのリーダーである勇者ザベルいちゃついてる音が外まで溢れ、迷惑なのだが、今朝はその声で起こされることすらなかった。
不自然に思いながらもリビングへ降りてくるといつもならいちゃついているはずのザベルとそのお相手2人のカーナとリサナの2人がザベルの後ろで嫌な笑みをこぼし、『ほら、早く行ってあげないと』『役立たずは追い出さないと』と言う不穏な会話が届いた。『そうだな』とザベルが呟くと開口一番クビを宣告された。
「は?……なんって言ったんだ、ザベル」
「聴こえなかったか、とうとう耳もおかしくなったのか」
「もうちょっとちゃんと言ってあげないと、わからないわよザベル」
すぐさまカーナが合いの手を入れザベルの首筋を撫でる。
「そうだな。もう一回言ってやるよ、お前はクビだ。」
「なんで……」
「なんで、か、お前、自分の実力わかってるのか?その腰に刺してる無駄にゴツい剣はなんだ?ハリボテか?それとも刃引きでもしてあるのか?お前は一昨日何してた?逃げ回ってただけだろ」
「な、何言ってんだザベル、俺は俺のやるべき事をしていた。」
一昨日は迷宮89階層のボスモンスター相手にこの次の90階層に控えるボス対策をしていたが……こいつらが好き勝手動き回るから…俺は!
「そうかまだ言い訳する気か、一昨日、お前は何をした?カーナは回復魔法で俺たちを助け、リサナは魔法で敵の注意を引き、俺はダメージを的確に与えていった。だがお前は何をした?その剣を抜くことなんてほとんどなくただ走り回ってただげそんな役立たずクビにしないでどうする。」
一昨日の89階層では……回復役のカーナはザベルにベッタリでまともにボスの攻撃を喰らい、自分に回復をかける始末だし、撹乱役のリサナに至っては魔法を放ちボスに見つかる前に隠密に入り行動を阻害するどころか俺たちが攻撃したと勘違いしたボスの攻撃を本来なら中距離メインの俺が防いでいた。
「わかった。出ていけばいいんだろ、いつだってお前はそうだった、人の意見も聞かずに突っ走っるだけの馬鹿だったよ!」
「ザベル様になんてこと言うの!」
「追放して正解よねぇザベル。あんな奴消えても誰も心配なんてしないわ」
俺は力一杯リビングのドアを叩きつけ、ドアは床にゆっくりと倒る、その音が静まるとこの場を後にした。
――――
レアンが出ていった後カーナは「コーヒーでも飲みますか?」と用意していたコーヒーを差し出しザベルはなんの不信感も抱くことなくそのコーヒーを口にする。
「やっと、言ってくれた、ここまで誘導するのは大変だったわ」
「は?カーナなんだって?」
自分の耳を疑う。信用していた仲間の凶変に言葉が続かない。
「私も臭い仕事は嫌だったの。最初はザベルがたくさんくれたけどここ最近じゃ渋り始めたから少しテコ入れしてたけれど……」
ザベルの思考が整理しきれず問い返すとリサナが口を開き言いたいことだけ言い金づるだったザベルを見限りお別れとでも言うように頬にその細い指で触る。
「もうさようならね、勇者さま」
「リサナ?どこに行く!……リサナ」
ザベルは出ていくリサナに手を伸ばすが届くはずもなかった。
レアンが壊していった扉のガラスをジャリジャリ言わせながら去っている。
「か、カーナもなのか。なぁ!教えてくれお前も俺から離れていくのか」
やっと後悔し始めてきたのかザベルの目には光るものが浮かぶがその甲斐虚しく、カーナはザベルのことなど無視してテーブルに置いてあった一昨日の報酬を持っていく。
袋の中から金貨を取り出し見せつける。
「ありがとう。今まで私達の金蔓になってくれて、さようなら」
「うっ……ふぐっ、グハッ!、な、な、んだ……」
突然口から血を吐いたザベルはそのまま床に倒れる最後に見たのは声は出していないが笑っているリサナであった。
その後、勇者パーティメンバー、レアンは意見の違いで脱退し、勇者ザベルは気分を晴らすために2人を連れ強行に迷宮90階層に向かいそこで死亡したとカーナ、リサナ両名が証言したが遺体が発見されることはなかった。
その後2人の動向は不明とされている。
次の短編はその場で皆殺し展開にでもしよう。