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クラスの嫌われ者

誰にでも好かれる人間というのが、存在する。

顔立ちが端正で、始終爽やかな笑みを浮かべて友達と関わる男子生徒や、活発で誰にでも分け隔てなく接し同性への気配りも忘れないクラスのアイドル。

どこにでもいるものではないかもしれないが、水谷高校の二年三組には確かに両方存在する。



一方、誰にでも嫌われてしまう人間も、このクラスには存在する。


名を馬庭篤哉(まにわあつや)という少年は、常に睨めつけるような目つきと陰気な言動から他人に疎まれていた。


クラスのみならず、その性格の悪さは学年中で噂されている。


風聞曰く、失恋して泣いている女子生徒に対し暴言を吐いた

風聞曰く、一年の学園祭の際に真剣に作業している生徒の邪魔をした

風聞曰く、クラスのアイドルが話しかけてあげているのに無視をする

風聞曰く、裏であくどい金貸しをやっている


噂は尾ひれがついて今に翼が生えてきそうな勢いで誇張されていくが、篤哉の言動がひねくれているのは事実である。


虐められることはないが、誰もが彼を嫌い疎んじている。

今日も、彼の席の周りだけは誰も寄り付かない。

嫌う生徒の中には、実際に嫌味を言われた者から噂を信じて義憤を抱いた者、雰囲気で何となく避けている者など様々いる。


教室の厭悪感情を一身に集めている篤哉自身は特に思うこともなく、周囲の好感度よりも読んでいる推理小説のトリックの方が気になった。


(ああ、物理的と見せかけて心理的トリックか。いや、でもそうなると密室の矛盾が……)


探偵の推理が佳境を迎えたところで昼休憩終了のチャイムが鳴り五限目の生物が始まる。


篤哉は気づかなかったが、既に教科担当であり学級担任でもある鍋島法蔵(なべしまほうぞう)が教壇に立っていた。

古めかしい名前だがまだ三十路前の若い教諭で、顔立ちは凡だが清潔感があるためそこそこ人気の先生だ。


「出席をとるぞー。青山ー」


ごく普通に、尋常に、平凡に、授業が開始した。そのままいつも通りの講義へと移行し、つつがなく終わるものだと皆が疑うことはなかった。

男子生徒の中には、今テロリストに襲われたら、どうやって撃退してやろうと考えていた者はいるかもしれない。思春期のそれを咎めるのは酷だろう。




では、もし、万が一。


脊髄反射の話が、ソ連軍の拷問について授業が脱線しているその時に。


教室の床が極光を放ち始めたら。


幾何学的な、ヘキサグラムと無数の図形と未知の文字が複合した、いわゆる「魔法陣」らしきものが出現したら。


誰一人悲鳴を上げる暇もなく、光に飲み込まれて視界を失うような出来事が、起こったとしたら。




残念ながら、現実で起こったその非現実に対応できる者はいなかった。

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