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消えた王子

 ありえない。その一言に尽きる。


 サモンは結果に呆然とする。

 そっとゴブレットを手に取ると、「ごめんよ……」とか細い声で謝った。


 王子が本当に生きていた?


 しかも、この王都にいる?



「本当にありえないよ」


 サモンはそれしか言えなかった。

 本当にそう言うしかないのだ。


 サモンがぶつぶつと呟く後ろで、アイザックがそわそわしていた。

 サモンに質問したいが、聞いていいものか悩んでいる。


「サモン様、その、いかがなさいましたか」


 アイザックが意を決して尋ねると、サモンは「どうしたものかね」と、アイザックの方を振り返った。


「調査の行方が、あまりよろしくないのですか?」

「いいや、王子の生死は割り出した。どこにいるかもわかった」

「いい知らせじゃありませんか。それがどうして神妙なお顔を」


 サモンは杖で壁を示してアイザックに説明する。


「今王都に、精霊の魔法で探した結果が集まっている。四つの精霊魔法が使われた。それらが全て同じ場所を示した」

「それは、あなた様がその王子という事ではないのですか?」

「違うね。私には今、『追跡不可』の魔法をかけてある。自分という、あらゆる存在を。匂い、見た目、名前も気配もだ」


 サモンの今の状態は、簡潔に言えば()()()()()()()()()()()()()


 サモンを育てた精霊すら探せない、隠匿の最強魔法なのだ。


「『神隠し』はほぼ精霊の力。というか、イチヨウの魔法を、私が勝手に人間の技として覚えただけなのだけれど。それを使って、無理やり私を検索対象から除外した。それでここを示しているのだから」

「王子は生きていて、しかも王都のどこかにいる?」


 アイザックがようやく合点がいく。サモンは「花丸をあげよう」と、軽く拍手をする。

 けれど、問題はここから。



 どうやって、その王子を見つけるか。



 学園とは範囲が違う。王都は学園よりも広いし、治安が悪い。

妖精のお手伝いハイド・アンド・シーク』は隠すのにも探すのにも適している。が、それは使う側が『魔法をかける対象を知っている』ことが大前提になる。



 その王子にはあったこともないし、どんな見た目かも想像がつかない。



「唯一の手掛かりが『桃色の瞳』ねぇ。それ以外の確定要素がないんじゃあ、探しにくいなぁ」

「王宮の兵士を総動員して……」

「あんなへっぽこ達に探せると思うかい」


 サモンは懐中時計を開いた。

 まだ五十分ある。というか、まだ十分しか経っていなかったのか。


 サモンは大きくため息をつくと、王と王妃の髪の毛を天秤にかけた。

 器の双方に髪を乗せた天秤は、ゆらゆらと揺れて、やがて王妃の髪を乗せた器を下に提げた。


「へぇ、多少なりとも関心はあると」


 サモンは結果を鼻で笑うと、方位磁石に杖を振る。



迷子を捜して(エッグ・ハント)



 方位磁石に王妃の髪をかざすと、方位磁石はものすごい速さで回り、南東の方角を示した。

 サモンは方位磁石をアイザックに渡すと、「あとは任せるよ」と言って、部屋から追い出す。


 サモンは、ようやく一人きりになると、ゴブレットを置いて、杖でふちを叩いた。

 水はごうごうと呻って広がると、ツユクサが不満げな顔で飛び出してくる。


「やぁ、私たちの子」

「やぁ、ツユクサ」


 ツユクサは心底傷ついた、と言わんばかりに胸を押さえた。


「あぁ、サモンがま~~~た面倒事に巻き込まれたと思って、せっかく手を貸したのに、どうして信じてくれなかったのか。あぁ、胸が痛い。私は傷ついてしまった」

「あーもう、ごめんってば。本当にいるとは思っていなかったんだよ」


 サモンが頭をガシガシと掻くと、ツユクサは薄く笑って、「嘘だよ」と言う。

 嘘を嫌う精霊が、そんなこと出来たのか。サモンはため息をつくと、「学園に返して」とツユクサに手を伸ばす。


「おや、見届けなくてもいいのか?」

「どうして私がそこまでするのさ。必要ないよ。君たちが探したんだ。私の役目はもう終わり」

「私たちが探したのは、君の代わりとは思わないのか?」


 ツユクサの意味深な発言に、サモンは苛立った。

 サモンのゴブレットとツユクサの泉は繋がっている。さっきの話は筒抜けだっただろう。だとしても、からかい目的で不名誉なことは言われたくない。



「思わないね。私の出自に興味ないけれど、少なくとも腐った人間の長ではないよ」



 サモンの堂々とした言い方に、ツユクサは安心したように微笑んだ。

 サモンは「早く」とツユクサを急かす。

 ツユクサは「ついでに用事を済ませたら」と、サモンに進言した。


「それどころじゃないよ。私は今教育をほったらかしにしてるんだ。そっちが優先でね」

「サモンがついに人間を優先したか!」

「違う。契約を優先してるんだ。間違っても人間じゃない」

「うんうん、そういう事にしておこう」


 ツユクサはサモンの話を聞いていない。サモンは言い返すのが馬鹿らしくなった。

 ツユクサはサモンに、「両方できたら問題ないだろう」と、意味ありげに言った。


 サモンは嫌な予感がした。

 天秤の髪を払い落とし、器に同量の土を入れる。

 片方には手持ちの鳥の羽を、もう片方には植木の葉っぱを一枚置いた。


天秤よ(スケール)真実を語れ(デ・ラ・ヴィリタ)


 魔法をかけて、サモンは問う。




「ここに、あの三人が来ているのか」




 曖昧な聞き方だが、天秤はしっかりと理解しているようだ。

 サモンは嘘であってくれと祈りながら、天秤の示す結果を待つ。

 ツユクサは意地の悪い笑みで、サモンの様子を眺めている。


 天秤は羽の方の器を下に提げた。それが指し示す答えは『イエス』。

 その結果に、サモンは愕然とする。


 自分に王子疑惑がかけられたよりも、ショックを受けていた。



「残念だが、本当に来ているんだ。……アズマが連れて来たからね」



 サモンはうなり声をあげる。道具を片付け、準備を済ませると、サモンは窓から外に飛び出した。

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