表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/185

サモンに降りかかる危機

 サモンは苛立ちながら、自身の塔の掃除をしていた。


 別に災難が続いたわけでも、面倒事に巻き込まれたわけでもない。

 ただ、レーガたちが課題をすぐにクリアしてしまうのが、彼にとって面白くないのだ。


 レーガたちに課した課題は、サモンがクリアできないであろう内容を考えて出している。

 クリアできなかった時に、対処法や使える魔法をヒントとして与えようという、ちょっとばかり意地の悪い課題を出していたのに、あの三人ときたら、それぞれの知恵を絞って攻略してしまう。


 自力で課題をクリアするという、自主性や応用力が鍛えられるのは思わぬ産物としてよし。だがこのままでは、肝心な新技術や知識の育成がおろそかになる。


「いっそ、私が昔やられた訓練をそのまま……いや、ちょっとばかし優しくして出してやろうかねぇ。一歩も動かずに薪を百本集めるとか、杖を使わずに魔法で火おこしとか。うぅん、それだと後々うるさそうだ。森の生活を根掘り葉掘り聞かれるのはお断りだよ」


 サモンははたきを杖で叩いて、本棚の掃除をさせる。

 バケツを足で小突くと水が満たされて、ぞうきんを水に浸せば勝手に絞られて、そのまま床掃除まで始まる。


 サモンは頬を膨らませて、近くの本を手に取った。

 妖精言語の本をページを捲る。人には到底読め無さそうな本をサモンはすらすらと読んだ。

 サモンは時々、目を細めては読みづらそうに瞬きをする。


 サモンは本を途中で置くと、ポケットから目薬を取り出す。それを両目にして、軽く息をついた。




「ダメだ。精霊の力が強くなってる」




 サモンは約束した通り、精霊の魔力を抑える努力をしていた。けれど、今まで使っていた抑制剤が効きづらくなってる。前よりも魔力が強くなっているのだろうか。それとも、一度リミットを外したから、抑えづらくなっている?


 どちらにせよ、このままでは仲間に申し訳ない。

 四散した自分の体を拾わせた日には、ゴーストになることも許されないだろう。


「はぁ、仕方ないな。妖精の瞳と、人魚の涙を混ぜて……魔法薬学と錬金術を応用すれば、封印に近しい効果が出せそうだったなぁ。一度試して――」


 サモンが本棚に手を伸ばしたところで、いきなりドアが開く。

 乱暴に押し開けられたドアに、サモンはため息をついた。


「ったく、何回言えばそのマナーの悪さは治るんだい? いっそついでに体に叩き込んでやろうかねぇ」


 サモンはロベルトだと思って振り返った。でもそこにいるのは、いつもの彼らの姿ではない。

 見覚えのない鎧の屈強な男たち。

 サモンは目を見開いた。


「居たぞ! 桃色の目の男だ!」


 桃色の目? そう言えば、王都の王様が居なくなった王子を探してたんだっけ?

 ならば、彼らは応急の兵士といったところか。


(人違い甚だしい)


 サモンはずかずかと入ってくる男たちに、大きなため息をついた。


「ここに入ってこられたってことは、シュリュッセルとクラーウィスの警備を抜けたんだろう。ならきちんと自己紹介と用件を伝えないか。私も暇じゃないんだよ」


 サモンが杖をしまったところで、男たちは床に何かを転がした。

 ボール……?


 サモンは慌てて口と鼻を塞ぐ。

 その途端、ボールのようなものから煙が出て、部屋を一瞬で覆いつくした。


 花と、少しばかりの果実の匂い。

『深眠花草』と『毒性キイチゴモドキ』の眠り薬か。

 サモンは左手を爪を立てるように指を曲げ、それで前の空間を引っかいた。


 突然吹き荒れた風に、男たちが顔を覆って目を塞ぐ。サモンはその隙に塔を抜け出し、森の中に飛び込んだ。


 とにかく奴らに捕まらないように、サモンは森の奥を目指す。イチヨウの木に着けば、サモンの勝ちだ。

 けれど、どうして奴らはサモンを捕まえに来た?

 双子の警備を抜けたなら、合法的に学園に入っているわけだ。襲う必要性は無い。


 サモンは考えながら、とにかく森を走る。

 イチヨウの木に着けば、精霊の森に逃げ込める。

 精霊の森は、その森の住人しか入れないから、サモンの完全なる安全地帯だ。


 サモンは振り向かずに逃げた。

 話し合っても意味のない相手だ。サモンを王子だと思っている以上、捕まる方が面倒なことになる。


(あと少しだ!)



 ――――ドスッ!



 足を兵士の矢が射抜いた。

 サモンはすぐさま矢を引き抜いたが、矢じりに同じ眠り薬が使われていたのか、その場に倒れた。


 体が重く、意識ももうろうとする。

 なんとか抵抗したが、努力空しく、サモンは回収された。


 サモンは男に担がれたまま、ぼんやりとする視界で学園を見つめる。

 頭に浮かぶのは、育ててくれた精霊の姿ではない。

 どうしたことだろう、サモンはいつも塔に集まるあの三人の事を思い浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ