双子の金平糖
課題を出された三人は、早速地下室に送り込まれた。
杖を持たされ、剣を提げさせられて。金平糖を取りに行くのにどうも仰々しい。
食堂でパンをもらい、地上に戻れるようにパンをちぎって撒き、道しるべを作って歩く。
レーガは地下室の通路を歩きながらパンをちぎった。
「何で双子から金平糖を? 先生の意図が分からないよ」
「あら、レーガなら分かってそうだと思ったのだけど」
「全部分かるわけじゃないよ。今回は本当に不明だし」
しかも、金平糖をただ貰うのではない。奪ってくるのだ。
シュリュッセルとクラーウィスはたくさんのお菓子を囲んで仕事をしている。
その中に金平糖があるかもしれないが、双子なら言えばくれそうなものだ。
奪う必要があるのか?
それが三人の疑問なのだ。
ロゼッタは角を曲がると、あごに指を添える。
「金平糖に何かあるとか? それとも双子に会うことに鍵が?」
考え過ぎだろうか。
それぞれ思考に没頭していると、地下室に着いた。
ロベルトが扉に三回のノックと咳払いを一回。二回ノックをして返事を待つ。
「いつも茶会に遅れるお菓子はなぁに?」
クラーウィスが尋ねた。
茶会に遅れる……『お菓子』? 普通遅れるのは人間だ。まるでお菓子が歩くような言い方をする。
クラーウィスのトンチンカンな質問に、ロベルトが回答に詰まる。
扉の向こうから、くすくすと笑う声がした。
「あらやだクラーウィス。サモンじゃないのに」
「いいだろシュリュッセル。どうせ答えられる」
双子の笑い声に、ロベルトはさらに焦る。
レーガも「遅れるお菓子?」と頭を悩ませる。
双子は三人の誰かが答えるのを笑って待つ。
「悩んでるわね」
「悩んでんなぁ」
「ヒントあげたら?」
「いいや、あいつらに必要ねぇよ」
「サモンのお気に入りよ。優しくしなくちゃ」
「サモンのお気に入りなら、サモンのへんてこに巻き込まれ慣れてる」
ヒントをあげる気のない双子に、ロゼッタが答えた。
「チョコレート」
ロゼッタが答えると、クラーウィスが「ほらな」と言って扉を開けた。
レーガは「すごいね!」と目を輝かせる。
「ロゼッタ、どうやって分かったんだ? 俺には分からなかった」
「異国綴りよ。ロベルト」
異国の文字で、チョコレートの綴りは『chocolate』。
綴りの中にある『late』は、翻訳すると『遅い』なる。
つまり、茶会に遅れるお菓子は『late』が入ったチョコレートになるのだ。
ロゼッタの説明にレーガは納得すると、「頭いいね」とロゼッタの賢さを再確認する。
ロベルトも同意するようにうんうんと頷いた。
ロゼッタは恥ずかしくなって「早く」と二人を急かした。
扉の向こうに行くと、薄暗い部屋の中で双子がお菓子を囲んでいる。
いつもお菓子を食べているから、いつ休憩しているのかも仕事しているのかも分からない。
「いらっしゃい。サモンのヒヨコちゃん」
「何しに来たんだ? アプリの隠しアイテム? それとも『ナヴィガクエスト』の新ジョブコード?」
「『ナヴィガ農園』の裏ワザを知りに来たのかしら?」
ゲームの誘惑を耐え、ロベルトが「金平糖を」と言う。
てっきりゲームのことで来たと思っていた双子は面を喰らう。
「金平糖?」
「そんな物のために来たのか?」
「は、はい。サモン先生の課題で。もし、良かったら金平糖ください」
レーガが意を決して頼むと、双子は相談を始めた。
「金平糖? どうして金平糖を欲しがるの?」
「金平糖なんて隠語あったか?」
「いいえ、知らないわ」
双子がサモンの課題の意味を不思議に思う。
自分たちの方が頭がおかしいのに、サモンの頭を心配する。
三人は双子の相談が終わるまで、近くの『ご自由に』のお菓子を食べて待つ。
「金平糖ならいっぱいあるし、あげてもいいんじゃね?」
「そうよね。別に困ることはないわ。味も色も種類豊富にあるし」
双子が、三人に金平糖を譲り渡す方向で話を進めている。
レーガたちはほっとして「良かったね」と笑う。
けれど、思い通りにいかないのがこの双子なわけで。
「でもタダで渡すのはつまらなくねぇか、シュリュッセル?」
「そうよね、クラーウィス。ボクも同じことを考えてた」
「どうせなら運動しようぜ。この間の件、サモンのせいでつまらなくなったろ?」
「そうよね。せっかくのオモチャ、学園長に取られちゃったもの」
「久しぶりに派手にやろう。アタシの頭が暴れたくて悲鳴上げてるぜ! あぁ、なんだかゾクゾクしちまうよ」
「うふふ、ボクもよ。お腹の奥が熱くなるわ。あぁ、おかしくなりそう!」
双子の不穏な空気に、ロゼッタは杖を抜き、ロベルトは剣を抜く。
シュリュッセルはキーボードを叩いた。
モニターが赤くなり、けたたましく警報が鳴る。
その緊張感と恐怖で三人の表情が強張った。
モニターに『戦闘訓練』の文字が浮かぶ。
『これより、管理室における戦闘訓練を開始します』
『管理室拡張まであと三分』
『管理システムオートモード起動』
『魔法耐久壁、起動。物理攻撃無効化システム、100%』
『拡張終了。戦闘訓練に入るには、管理者の許可が必要です』
三人が警戒している間に、管理室は勝手に広がり、体育館の半分くらいの広さになる。
暗かった部屋も真っ白な照明に変わり、シュリュッセルとクラーウィスが三人の前に立ちはだかる。
「金平糖が欲しいなら、アタシらを倒してみな」
「ボクたち手加減しないわよ」
「くっ、たかが金平糖にこんな手間をかけるなんて!」
ロベルトの意見なんて通用しない。
相手は面白い物が好きな、狂った双子なのだから。
シュリュッセルは錠前のような形の杖を持ち、クラーウィスは鍵の形をした杖を持つ。
「ボクの名前はシュリュッセル。ナヴィガトリア学園の門番よ」
「アタシの名前はクラーウィス。ナヴィガトリア学園の門番だ」
双子は自己紹介をすると、杖を構える。
「ボクは表の鍵守」
「アタシは裏の鍵守」
「「侵入者を確認。速やかに排除する」」
双子の声が重なると、管理システムが動き出す。
『管理者の許可が承認されました。これより訓練に入ります』




