戦闘魔法大会の対策
ひな鳥のようについて回るレーガとロゼッタ。
それをうっとおしそうにして、校内を逃げ回るサモン。
「先生~~~! 何で逃げるのぉぉぉぉ!」
「逃げるわ間抜けっ! どうせ忘れてるだろうけどね、私は人間と面倒事が大嫌いなんだ!」
サモンはなんとか二人を撒こうとした。
だが、普段からサモンにくっついて回る二人が、サモンを見失うわけがない。
サモンもそれを知っているので、撒くのに手間取っていた。
「はぁ~しつこい」
サモンは杖を掴むと曲がり角で壁を叩く。
「あべこべ小径」
サモンが小声で呪文を唱えた。
すると、レーガたちはサモンと逆方向の道に曲がる。
サモンはとっさに階段を下り、二人の視界から消える。
「あれっ!? 先生消えた!」
「きっと魔法を使ったのね! すぐ近くにいるはずよ!」
サモンは階段の隅で息を潜めて、二人の足音が遠ざかるのを待つ。
パタパタと音が消えていくのに安堵していると、目の前にロベルトが現れる。
「うわぁ!?」
「ストレンジ先生! お疲れ様ですっ!!」
「うわちょっと大声出したら……」
「今ストレンジって言った!?」
「ロベルトでかしたわ! そのまま捕まえて!!」
「ほらもぉ~~~……くそ間抜けめ」
サモンは逃げようとしたが、ロベルトが困惑したままサモンを拘束する。
この拘束はカメリアが仕込んだのだろうか。腕が全く動かない。身じろぎすら出来ないまま、レーガとロゼッタが到着する。
サモンは観念した。
***
サモンの塔に移り、ハーブティーを淹れて話を聞く。
「だいたいねぇ、私を捕まえるにしても、ピクシーじゃないんだから。あんなに追いかけまわすんじゃないよ」
「先生に普通にお願いしても、『お断りだよ』って言うじゃんか」
「そりゃそうだろうよ」
「だから全力で断れないようにアプローチしようって、ロゼッタと話したんだ」
「面倒事を持ってこないっていう選択肢をお増やしなさい。まったく、今度は何だい?」
サモンがハーブティーのお代わりを注ぐと、ロゼッタが「大会のことで」と話し出した。
「特訓つけてほしいのよ。大会で良い成績を修めれば、単位がもらえるの」
「それはレーガにも聞いたよ」
「それだけじゃないわ。優勝すると賞金が出るの。一年分の学費になるわ」
「へぇ、ロゼッタは主席だし、奨学金で学費は払っているだろう? 賞金が必要なもんか」
「嫌だ。先生、私たち来年三年生よ? 大学なら受験費用とか、就職なら交通費とかかかるでしょ。奨学金じゃそこまで賄えないわ」
レーガだったか、ロベルトだったかがいつか言っていたな。ロゼッタは家からの援助が少ないと。
ロゼッタは賞金をそういう事に使う気なのだ。
レーガは単位の確保を優先。
ロベルトは学科が違うため、この大会には参加しない。
相手するのは二人だけか。なら、まぁまぁ手を貸してもいいだろう。
「先生練習に付き合って?」
「はぁ、どうせ嫌だと言っても付きまとうんだろう? ただ一つ、他の生徒は自力で練習してるんじゃないのかい? 私を捕まえたからって、教員に特訓付き合わせるのは、ちょっとずるいんじゃない?」
サモンはわざとそう聞いた。
少しくらい罪悪感が芽生えるかと思ったが、二人は「そうでもないよ?」と答える。
「戦闘魔法の授業は実践ばかりだし、アガレット先生が直接相手してくれる」
「得意な魔法によって練習相手になる先生決まってるし、申請すれば付き合ってくれるわ」
「でも僕らアガレット先生に相手してもらえないし、授業中は体育館の端っこでみんなの記録係で魔法使ってない」
「むしろ私たち遅れてるわ」
「本当、アガレットってなんで教員続けられてるんだろうねぇ」
それなら頼っても仕方ないのか?
レーガは妖精魔法しか使えない。ロゼッタは雷魔法の使い手だが、練習に付き合える教師はいない。
サモンは呆れたため息をついた。
練習くらいなら付き合ってもいいか。魔法で手を抜きながら、二人同時に相手するくらい造作もない。
「いいよ、不本意だが付き合ってあげよう」
「「「ありがとうございます!!」」」
「ちょっと待っておくれ。声が一人分多かったんだけれど?」
レーガ、ロゼッタと一緒に頭を下げるロベルトのつむじを、サモンはぐりぐりと押した。
どうやら剣術学科にも似たような大会があるらしく、魔法学科に来たのも、サモンに大会の練習に付き合ってもらおうという魂胆だった。
サモンは今日一番の大きなため息をついた。
「アンタは剣術学科の先生にお願いなさい! カメリア先生好きでしょ!」
「尊敬してるけど、申請倍率高いんスよ! 体育祭でリコレッティ先生押してたストレンジ先生なら、俺も強くなれると思ったんだもん!」
「他の先生にお頼みなさい!」
「ヤダ!!」
「この駄々っ子!」
サモンは強めにロベルトのつむじを押す。ロベルトは一歩も引かなかった。
この忍耐強さはどの先生に教わったのか。もしくはこの二人のどちらから教わったのか。
ロベルトは最終奥義を繰り出す。
「勉強させていただきます! ストレンジ先生!」
「嬉しいお知らせをしよう。私の担当外だ!」
自分の教科の担当ではないから、その言葉は効果なし。
サモンは「出口はあっちだ」と、嬉しそうにドアを示した。
それでも引かないロベルトは、ため息をついて頭の後ろで手を組んだ。
「あーあ。ストレンジ先生に練習してもらったら、俺、先生の事嫌いになるかもしれねぇのになぁ」
「はぁ?」
ロベルトの新たな一手に、サモンはつい威嚇した。
ロベルトはニヤリと笑った。自分とよく似た笑い方が、腹立たしい。
「絶対優しい練習なんてしないだろ? きつぅい練習課題出して、もう吐くまで練習させて、夜遅くまで特訓するんだろうなぁ。あーぁ。そんなことされたら、俺もうストレンジ先生についていけねぇよ。先生に二度と会いたくなくなるだろうなぁ」
「言ったね? 本当にそんな目に遭わせてやるからね。お覚悟なさい。妖精は舐めると痛い目に遭わせる危険な種族だからねぇ」
「やった! 手加減なしの練習確約!」
「……あ。げぇアンタ、私を嵌めたな!? なんて悪ガキ!」
ロベルトも参加することになり、また忌まわしい三人が揃った。
サモンは腐れ縁とも呼べる三人に頭を抱える。
騙されたショックでサモンは椅子に座りこむ。面倒な日々が、またサモンにとりついて離れない。




