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ドッペルゲンガー?悪戯騒動 3

 サモンが塔に戻ると、案の定レーガ、ロゼッタ、ロベルトの三人が中で待っていた。


 本とお茶しかないような塔の中で、本棚の掃除と床磨き、階段掃除を済ませて各々好きなように過ごしていた。


 サモンが帰ってくると、「先生おかえり!」なんて挨拶する。本当、いつから自分の家になった。

 サモンは三人に、「学園の中で」と、いきなり尋ねた。


「鏡を見た。というか、鏡の前に立ったことは?」


 サモンの質問の意味がいまいちわかっていない三人は。キョトンとして顔を見合わせる。


「ストレンジ先生、トイレに行けば鏡見るぞ?」

「そうだね。あと寮の中とか」

「女子寮は廊下に全身鏡があるわ」

「間抜けども、学園内って言ったろう。できれば全身鏡。全員が気付くような、使うようなものじゃない、一部の生徒が気付くような、あったりなかったりする――」



「え、それって『中央棟の赤ドレスの鏡』みたい!」



 ――ほらな。出てきた。


 レーガがくすくす笑う横で、ロベルトは「そんな噂話……」呆れ笑いする。

 けれど、ロゼッタは信じているようで、割と真剣な表情だ。


 サモンがその噂を尋ねると、二十年前に起きた話が出てくる。


「えっとね、中央棟の二階に悪戯好きの魔女が居座ってたんだって。それをよく思わなかった学園長が、すぐ退散するように言ったんだけど、魔女は学園長に悪戯をしたんだって」

「学園長に悪戯? 随分と命知らずな」

「で、怒った学園長が、当時階段の途中の踊り場にあった鏡に魔女を封じ込めたんだ。生徒が魔女に惑わされて封印を解かないように、鏡を壁の向こうに隠したって話だよ」


 学園長が出てくるような話に、ロベルトは鼻で笑った。


「絶対嘘だろ。だって二十年前だろ。学園長じゃ話が合わない」

「いや、学園長はエルフよ。悠久の時を生きる種族なら、つじつまが合う」

「ロゼッタまで信じるのかよ!」


 噂話に盛り上がる三人に、サモンは少し考える。



「……その鏡を見たことは?」



 そう聞くと、誰も「見てない」と答える。

 では鏡ではないのか? いや、あの姿の取り方は鏡のそれだ。


(他の場所に似たような鏡があるとか? そうなれば、探すのは面倒だな。レーガとロゼッタは魔法が使えるが、ロベルトは魔法が使えない。でも、魔法の対処法は教えてあるし…………)



「そういえば、中央棟に知らない鏡出来てたよね」

「あぁ。踊り場のところよね。職員室行くときに、ちょっと制服直してるわ」

「結構上等な鏡だよな。でもそれ寮とかで話すと変な顔されんだよ」



 サモンは辞書の角で頭を叩くか、お茶の葉を鼻に詰めるかで真剣に悩んだ。

 散々悩んだ結果、大声で怒鳴ることに落ち着いた。




「それが例の鏡だ間抜けぇぇぇぇぇぇぇ!!」




 サモンに怒られ、ようやく合点がいく三人。

 レーガやロベルトはともかく、魔法科主席のロゼッタは何だ。この二人に頭が慣れすぎたのか?


 サモンが中央棟に向かうと、三人はぞろぞろついてくる。


「寮にいなさい! ついてくるな!」

「そう言われたらついて行きたくなる!」

「邪魔しないわ」

「うるさい! 大人しくお帰りなさい!」


 サモンが寮の方を指さすと、ロゼッタとレーガは渋々寮の方に体を向ける。

 今日はサモンが勝つか? いつもなら食い下がる二人が珍しい。


 サモンは内心ガッツポーズをとるが、少し考えていたロベルトがいきなり頭を下げる。

 真摯にお願いするつもりだろうか。けれどサモンに真摯なお願いは通用しない。

 サモンは人間相手のお願いには一歩も動かないのだ――……




「勉強させていただきます! ストレンジ先生!」




(…………なんだと!?)


 サモンがロベルトの言葉に固待っていると、ロゼッタがロベルトの意図に気が付いたようで「あっ」と声を出す。


「そういうことね。勉強させていただきまぁす」

「えっ、どういうこと?」

「レーガ、考えてみて。ストレンジ先生は授業以外のことはしないのよ。それに、妖精学の先生でしょ」

「あっ、そうか! 僕も勉強させていただきます!」


 サモンは今までも妖精魔法で対処してきた。

 サモン自身、妖精学の担当で、妖精魔法ばかり多用する。

 そしてサモンがエリスと交わしている契約は『妖精学を担当し、良質な知識を与える』こと。



 つまり、サモンが妖精魔法で対処する以上、これは『時間外の授業』になるのだ。



 そして、生徒に勉強の意思がある。サモンがこれを無視することはできない。

 サモンが断れるとすれば、妖精魔法以外で対処するか、自分の担当科目を今この場で変えるかだ。……どちらも不可能な相談だ。


 サモンはしばらく葛藤した。したが、三人はサモンに「勉強させていただきます」ともう一度畳みかける。


「授業なら仕方ないよね、先生」

「妖精学の授業、受けられるなんてラッキーだわ」

「魔法学科の授業が受けられて光栄です!」



「……………………わかったよ。もう」

「「「やったぁ!」」」



 マリアレッタに変身術を教えてもらうんだったと、サモンは後悔した。

 二度とこの手を使わせまいと意気込むも、今のところ最強の一手に対策はない。サモンはあからさまに肩を落とした。


 ***


 中央棟――二階の踊り場。


 階段途中の少し開けた所にそれはあるらしい。

 だが、サモンたちが来ても、それらしい鏡は無い。

 真っ白な壁があるだけだった。


「このあたりにあったんだけどなぁ」

「そうそう、ここに大きな鏡があって……」


 ロゼッタは壁を指さして大体の大きさを示す。

 サモンは目を閉じて、耳を澄ませる。


 ――ケタケタ。



 ――ケタケタケタ。



 愉快な笑い声が、微かに聞こえた。


「レーガ、ロゼッタ。『見えないものを現す』魔法を述べよ」

「え?」

「妖精学の授業なんだろう? 当てるくらいするよ」

「『探して(ファインド)』?」

「不正解」


 ロゼッタは悩んだ顔で、自信なさげに言った。



「――『秘密は暴かれたりトーカティブ・ツインズ』?」



 サモンが正解、というと、ロゼッタはサモンの前に立つ。


「この呪文は三年生で習う呪文よ。それを下級生にさせるの?」

「嫌かい? アンタの性格なら、喜んで習得すると思ったけど」

「学年はともかく、身の丈に合わない魔法を覚えると、とんでもないことになる。一学期にグラウンドが石化したことがあったじゃない!」

「正直、この魔法は学年的な難易度はない」


 ロゼッタが焦っている理由が分からないロベルトのために、サモンは丁寧に説明した。


「『秘密は(トーカティブ)暴かれたり(・ツインズ)』は、二種類の使い方があって、一つは、『隠す魔法を解除する』、もう一つは――」



「『他人に秘密を無理やり喋らせる』」



 それを聞くと、ロベルトも背筋が伸びる。


 二つ目の使い方をする魔法使いはほとんどいない。使うとしたら、()()()()()()か、加虐性のある魔法使いかのどちらかだ。


 この魔法の難しい所は、二つある使い方を、正しく使い分けること。


 毎年三年生が使い方を間違えて、友達の秘密を知り、落ち込んだり魔法薬学の授業で記憶を消す薬を作ったりと忙しない。


 ロゼッタはその危険性をしっかり理解しているのに、サモンは「平気だ」なんて、のんきに欠伸をする。


「自分が使いたい方をしっかりイメージすればいい。想像力が足りない生徒が失敗するんだよ」

「それでも、失敗したら」


 サモンは不安げなロゼッタの頭を軽くなでて、大きなため息をついた。


「じゃあ、違う魔法にしよう。あらゆる魔法を解除できる、強力な魔法だ。簡単だが、実を言うと精霊の魔法。かなり魔法に長けた者でないと扱えない、危険な魔法だ」


 サモンが言うと、ロゼッタもレーガも息を呑む。

 そんなすごい魔法を教えてもらえるのだ。


 それも、『秘密は暴かれたりトーカティブ・ツインズ』よりすごいともなれば、見せてもらえるだけでもありがたい。

 ロベルトも食い入るように見つめた。


 サモンが杖を抜く。

 三人の緊張は最高潮に達する。


 サモンは壁に杖を当てた。

 そして、呪文を唱える。




「もうお終い」




 ――サモンが普段唱えている呪文だ。

 精霊魔法を解くときに使っている魔法だ。


 三人は気が抜けたのか、その場に座り込んだ。


「なんだぁ、脅かされただけかぁ……」

「びっくりしたわ。まさか、その呪文なんて」

「なんか……がっかりだな」



 気が抜けて言いたい放題の三人にサモンは乾いた笑いをかける。


「はは、そんなものだ。強力な魔法なんて、呪文が簡単で杖の振り方も楽ちん。ややこしい魔法なんてかわいいもんさ。でもこの魔法は、『あらゆる魔法を解除する』もの」



「使い方を間違えたら相手の魔法も自分にかけた魔法も、何もかも解除される」



 その言葉を理解できるとしたら、そういう場面になったときだろう。今は知らないままでいい。


 壁から何かが浮き上がり、鏡の形になっていく。

 サモンたちの前に現れた鏡は、異様な光を放っていた。

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