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終わりは楽しく

 体育祭が終わり、最後に双方の獲得点数が発表される。

 競技としては、どちらも練習を重ねていたため、甲乙つけ難い点数だったはず。

 だが二分待っても点数が発表されない。

 放送本部からクラーウィスが困った様子でマイクの電源を入れる。


『え〜っと、今計算したんだけど、何回計算しても同点なんだわ』


 クラーウィスの言葉に、会場がザワつく。まさかの同点優勝だろうか? いや、まだ計算していないものがある。

 シュリュッセルがマイクを取って、補足を入れた。


『正確には、パフォーマンス舞闘会を計算しないでの点数よ。今その競技に関して、審議してるところ』


 競技中のアクシデントにより、結果がうやむやになったまま体育祭を続けたため、点数が付けられていないのだ。

 両学科とエリスが合わさって話をしていると、白組からカメリアが声を上げた。



「ストレンジが優勢のまま、競技は終了した。ならば赤組が優勝だろう」



 カメリアは自ら「私の負けだ」と宣言する。


「間抜け」

「いいんだ。ストレンジは強かった。魔法を相手に戦う良い機会をありがとう」


 クラーウィスはカメリアの宣言に、頭を掻く。

 カメリアが言うなら、と引き下がろうとするが、それはサモンが面白くない。


「あのさぁ、誰も競技ルール覚えていないのかい? あれだけ大声で放送したんだから、一人くらい覚えていてもいいだろうに。特に、放送してた側」

『あら、異議の申し立て? 可愛いお口で教えてちょうだい? それはどういう意味かしら?』


 サモンはため息をついた。まさかこの双子すら覚えていないと思っていなかった。



「ルールは一つ、【相手から一本取る】ことだ。つまり、一撃食らわせたら勝ちなんだよ」



 あの試合の中でいえば、杖を突きつける、降参させる、剣を突き立てる──だろうか。

 皆、すっぽ抜けた剣とグレムリンに気を取られていて、気がつかなかったのだろうか。


 クラーウィスとシュリュッセルはすぐに気がついた。

 カメリアもハッとする。



「まさか」

「カメリア先生は私の腹に剣を当てた。私が怪我をしたのを、誰も見てない?」



 最後の土壇場、カメリアから離れた剣がサモンの腹を掠る。

 あれは()()()()()剣だ。




 ()()()()()()()()()()だ。




「競技上、私が負けているんだ」

「あの緊急時は判定外だろう!」

「何を言ってるんだか。『競技中に』起きた事とはいえ、アンタの剣の一撃で『一本取った』。そうだろう?」

「でも、あんなの······」


 カメリアが黙ると、双子は審議の間に割って入る。

 少し話をすると、エリスがマイクを握った。


『審議の結果、白組に三点、赤組に二点加点されます。よって、優勝は白組です』


 その話が会場に響くと、白組からは割れんばかりの歓声が聞こえてきた。赤組は泣く子や悔しがる子で溢れかえる。

 レーガは「残念」としょぼくれて、ロベルトに慰められていた。


 だが、エリスの言葉には続きがあった。



『ですが競技の最中、想定外の騒動があったこともあり、ストレンジ先生の功績を讃え、MVP賞を授与します』



「え、いらな──」


 サモンの拒否を遮って、生徒たちから歓声が上がる。

 レーガ、ロゼッタに抱きつかれ、サモンはバランスを崩した。


『ストレンジ先生には食堂の無料券十枚と、ゲーム内で使える五十銀貨······いえ、貴方には現金支給の方が良さそうですね。後ほど手配します』


「先生五十銀貨だって! いいなぁ、新しい服いっぱい買えるよ!」

「食堂の無料券なんて滅多に手に入らないわ! たまには高いの食べたら? 野菜ばっかりじゃないやつ!」

「ストレンジ先生あとで打ち上げしようぜ! お菓子とジュース持ってくんで!」

「打ち上げしないし、無料券もいらないよ。私が食堂でご飯食べたことがあったかい。あーもう重いし邪魔! どいてどいて!」


 サモンは生徒を引き剥がすが中々離れない。

 カメリアはその様子を羨ましそうに見つめていた。


「······あのさ、思うんだがね。居場所って、誰かに与えられるものじゃなくて、自分で作るものじゃない?」


 サモンがそう言うと、カメリアは「どうだろう」と顔を背けた。サモンはカメリアに食堂の無料券を投げた。

 カメリアは反射でそれを掴み取った。


「まずは、動いてから考えたら?」


 サモンは息を吸い込むと、カメリアを指さして大声を出した。


「カメリア先生が食堂の無料券持ってるよ! 欲しい奴はカメリア先生から奪い取ってごらんなさい!」


 カメリアはギョッとした。

 生徒たちは目をランランとさせてカメリアを狙う。


「先生無料券ください!」

「一枚! 一枚でいいんで!」

「後ろから行けっ! 後ろ取れ!」


 生徒たちの襲撃を受けながら、カメリアは笑って相手する。


「よぉし、かかってこい! 取れるものなら取ってみな!」


 生徒たちに揉みくちゃにされて、カメリアは笑っていた。

 固く、強ばっていた笑みではない、解れた表情に、サモンもその場で胡座をかく。

 ふぁ、と欠伸をすると、手の中に一枚だけ、無料券が残っていた。


「······あの三人の誰かにあげよう」


 サモンは群がる生徒と撃退していくカメリアを眺めて、薄く笑った。


 閉会式なんてそっちのけで終わった体育祭は、誰も泣きながら終わることはなかった。

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