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パフォーマンス舞闘会 2

 放送本部では、クラーウィスがノリノリでマイクを掲げ、司会を務めていた。



『さぁて白組からは──かつては騎士今は剣術科教師! 戦場こそ我が居場所! 我が剣を(おそ)れよ! 我が強さに震えろ! 眼前の死だけが我の敵! カメリア・リコレッティィィ!』



 このパフォーマンスまでは聞いてきなかった。

 カメリアは耳を赤くして顔を隠している。サモンも「今から自分もこんな紹介されるんだ」と思うと、やる気が削げてくる。


 せめてシュリュッセルが止めてくれたなら、と目線を向けてみたが、双子の片割れがアレならシュリュッセルとて同じこと。

 満面の笑みで拍手して楽しみにしていた。


『対する赤組からは──』

「え、うっそ、ほんとにやる気?」


 サモンは口から本音が漏れる。シュリュッセルが「黙りな」と言わんばかりにサモンを睨んだ。

 サモンは(ひる)んで口を結ぶ。



『精霊の森より現れた妖精魔法の使い手! 自然は我! 我は自然! 大地の咆哮を聞け! 水の怒りを知れ! 精霊は我が友なり! サモン・ストレンジィィィ!』



(──思ってたより恥ずかしいなぁ、コレ)



 サモンは顔が熱を帯びていく感覚に、つい手のひらを押し当てしまう。少し冷えた手で何とかならないかと、頬を叩いてみるも、赤くなった顔はなかなか元に戻らない。


『あらぁ、二人とも恥ずかしがってるわ。気にすること無いのにねぇ。クラーウィス?』

『本当の事だしなぁ。アタシは割と気に入ってんのに』


 こてん、と首を傾げる双子の横で、エリスが頭を抱えている。

 カメリアは咳払いをしてサモンに握手を求める。


「ま、まぁ、ギャラリーが気にしている様子もないし、双子の趣味に付き合っただけだ。そういう事にしよう」


 カメリアの言う通り、赤組も白組も、この競技を気にしている様子はない。

 本当に生徒の休憩時間のための競技と言った感じだ。

 教師陣すら視線の向きがバラバラで、剣術学科に至っては、お互い談笑してフィールドに見向きもしない。


「反吐が出るね。女が競技に出るから? それとも弱小教師のお遊戯だからと思ってる? どちらにせよ性格の悪さはピカイチで結構。武力以外に能の無い人間の惰性がよぉく現れた良い例だねぇ」

「ストレンジ、全部口に出てるぞ」


 カメリアに指摘されるが、サモンはそれの何がいけないか、やっぱり分からなかった。

 カメリアは「羨ましいよ」と言って手の位置を少し高くした。


 サモンはそこでようやく握手を交わす。


「アンタだって、出来るだろう? 出来るのにしないのは、舐められたくないから?」

「私のようなタイプが出しゃばると、周りは全力で潰しに来る。······少し疲れた」

「気にする必要なんかないよ。周りは何をしたって口を出す。それに合わせて立ち回ってちゃ、自分が何者かすら忘れてしまうだろう」


 カメリアは悩ましげに目を伏せた。

「そうだな」と言って、お互いに距離を取る。


 クラーウィスが競技ルールの説明をした。


『ルールは簡単だ。相手から一本取りゃあいい。喉に杖とか剣とか突きつけてもいいし、【降参】の合図を出してもいい。ただ競技で使える範囲は、生徒の安全を考慮し、トラック内のみとするぜ。アタシとシュリュッセルお手製のプロテクト装置が発動してっから、それが目安な』

『サモンの精霊魔法──『不可侵の茨』をモチーフ且つベースに、ボクたちの技術と遊び心を詰め込んで作ってあるわ。かなり頑丈だから、安心してちょうだい♡』


 シュリュッセルがウインクをすると、カメリアは何を思ったか、剣を抜いて自分の真上に放り投げた。

 まっすぐ飛んでいった剣は、双子の言うプロテクト装置の障壁に当たるとクルクル回って落ちてくる。

 カメリアはそれを、じっと見て、剣の腹を器用にも足で蹴り上げて、剣を手に戻す。


「約二十五〜六メートルか? 随分と上に広いな。あの双子の遊び心とは」


 彼女は双子の技術に感心しているが、カメリアの技術にサモンはあんぐりと口を開けた。

 カメリアは相当な手練だ。今の技だって、彼女はペン回し感覚でやっていたが、これが並大抵の剣士なら当たり前のように、足と地面を縫い合わせる大怪我をする。


(実は、かなり騎士団の中でもかなり偉かったのでは?)


 なんて考えているのも束の間、クラーウィスが開始の挨拶をした。



『さぁ、試合開始!』



 その瞬間、遠く離れていたはずのカメリアが消える。

 サモンはハッとした。イヤリングを引き抜いて、即座に盾の形に変えた。



 ガキィンッ!



 盾にはカメリアの剣がくい込んでいる。

 一瞬でも遅れたら、彼女の剣はサモンの心臓を貫いていた。

 そのくらい、本気で襲ってきたのだ。


「······残念」


 カメリアは剣を抜くと回し蹴りでサモンの頭を狙ってきた。

 サモンは上体を逸らしてそれを避け、杖を抜く。だが魔法を使うよりも先に、カメリアが回し蹴りした勢いのまま、追撃で脇腹を狙ってきた。


 盾で受け止めたが、サモンは遠く飛ばされた。

 地面を転がり、立ち上がろうとすると、カメリアの剣先が目と鼻の先に迫る。


 速い。速すぎる!


 カメリアの猛攻は、まさに大地を駆ける獣の如く。狙った獲物に隙を与えず、的確に急所を狙い、すぐにでも仕留めて喰らう。

 狩りを知り尽くした者だけが出来る攻撃に、サモンは盾で防ぐしか出来ない。


『カメリアの攻撃にサモン防戦一方! ちょっとぉ! サモンしっかりしてくれよぉ! 魔法使え!』

『無理よ、クラーウィス。カメリアの騎士時代の呼び名は【死風の剣】。戦場では誰よりも早く飛び出し、魔物の命を屠ってきた。彼女は風のような速さで、敵を殲滅(せんめつ)する凄腕さんなのよ』


 シュリュッセルの面白がった解説に、サモンは「なるほど」と呟く。

 縦に振られた剣を、横に転がり避ければ追いかけるように剣が横に振られる。

 ローブの端が豆腐のように切れた時、サモンも流石に血の気が引いた。


「ストレンジ! 避けてばかりでは戦いにならん! 杖を振るえ! 魔法で私を抑えてみろ! そんな弱腰で、私に勝てると思うなよ!」

「あのねぇ、忘れてるかもしれないけど、私は別に出たくて出たわけじゃないんだよ!」


 サモンしゃがんだまま、カメリアの剣撃を時に受け止め、時に受け流して逃れる。

 白組はカメリアの優勢に、ようやく興味が湧いてきたようだ。「やっちまえー」だの「どさくさに紛れて殺せー」だの、あまり上品ではない歓声が聞こえてきた。


 カメリアは小声で「お前に勝てば······」と呟く。

 剣撃の音にかき消されたそれに、サモンは少し苛立った。

 杖先を地面につけると、カメリアの方に向けて地面を引っかく。


 杖で引っかいた先から、ボコボコボコッ! と音を立てて地面が槍のように鋭く尖り、カメリアに迫っていく。

 カメリアは驚いて、一度距離を取った。


「っ! なんの······」




動くな(レッドライト)




 サモンが呪文を唱えると、カメリアは剣を高く構えたまま動きを止めた。

 サモンは盾をイヤリングに戻し、ため息をついて耳に戻した。


「──下らない。本当に下らない」


 そう呟いたサモンの目は、冷たく、怒りに満ちていた。

 杖で手を軽く叩きながら、カメリアの元に歩いていく。


「アンタ、自分の目的のために、私を利用しようとしているね?」


 サモンの問いに、カメリアは「何のことだ」と返す。

 サモンはちらとカメリアを観察すると「とぼけるな」と冷たく言い放った。


「汗の分泌量の増加。体温上昇、声の上ずり。視線が動かない。嘘をついたな。あとアンタの()()()()()。これ以上に証拠は必要かな?」

「水が淀む······?」


 二人の会話を聞いて、ロゼッタとレーガは目を見合せた。


「水が淀んだ? 魔力のことかな?」

「いいえ、リコレッティ先生に魔力は無いわ。何の事かしら?」


 場外ですら気になる言葉を放ち、サモンは杖を振るった。



動け(グリーンライト)



 サモンは杖を回す。

 サモンの周りで風が吹き荒れた。

 服を吹き上げる風に、カメリアは顔を庇う。サモンは杖を低く構え、腰を落とした。


「相手してあげよう。その代わり、無事に帰れると思わないことだね」


 サモンが本気を見せると、カメリアは瞳孔を開き、口角をあげる。

 戦場通いの血が騒ぐのか、久しぶりの戦いに興奮しているのか。

 彼女も剣を掲げ、お互いに出る隙を狙う。




「そう来なくては。楽しませてくれ、ストレンジ」

「心底後悔させてあげよう。お覚悟なさい」




 思った以上の本気具合に、会場全体が息を呑んだ。

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