サモン式のやり方で 3
ロゼッタ&ロンデールペアは、不知落コナラを持って森の外へ向かう。
けれど、来た道に向かって進んでいるはずなのに、どういう訳か、同じところに戻ってきてしまう。
「······全然、外に出られないわ」
「そんな奥にいたわけじゃないよな?」
「さっき木に傷跡をつけたけど、同じ所に傷のある木に戻ってくる。これが、妨害魔法?」
「魔法なら、いつまで経っても外に出られないぞ?」
ロゼッタとロンデールはどんぐりを間に挟んで考える。
「太陽の位置から外に向かう方向とか、分かったりしないの?」
「それは三学年でやる内容だ。二学年には出来ない。それより、外に案内する魔法とかは」
「出来ないわよ。外に出るにしても、きちんと目的と場所が分からないと、魔法なんて役に立たない」
例外があるとしたら、サモンの魔法だ。
本来ならば、使えるはずのない魔法を、妖精魔法と称して堂々と使ってみせる。
彼の魔法は、原理も使い方も全てがめちゃくちゃで、何一つ理解出来ない。
法則も理論も、ロゼッタが学んだ知識では到底解読出来そうにない。
ロンデールはため息をつくと、「学年の首席がこんなもんかよ」なんて悪態をつく。
ロゼッタは「あんたに言われたくないわ!」と、つい言い返してしまった。
「剣士志望のくせに、周りへの警戒心は足りないし、剣に手をかける様子も無かったじゃない! あんたがした事は木に登ってどんぐりを落としただけ! そんなの猿でも出来るわよ! 私に嫌味を言う暇があるなら、自力で外に出る方法くらい考えたらどう!? 偉大な剣士は皆知恵と策略に富んでいるの。体力だけで剣士になれると思わない事ね!」
モヤモヤする言い方をされていた分、ロゼッタは怒涛の勢いで捲し立てた。
ロンデールは言葉を無くし、ロゼッタは頬を膨らませて杖を構える。
(こんな事なら、ロベルトとペアの方が良かったわ!)
ロゼッタは苦手ながら、妖精魔法を試そうとする。
思い描くはサモンの『ハイド・アンド・シーク』。物を隠す魔法を、物を探す魔法に変えてしまった異端なやり方。
サモンを探す体で使えば、きっと出来る!
「『妖精の』────」
呪文を唱えている途中で、目の前に敵が現れた。
下半身が蛇、上半身が女の、木彫りの仮想敵だ。
ロゼッタは呪文を変えようとした。けれど、得意な雷魔法も、他の戦闘魔法も、今は使えない。
首を締めようとする、冷たくて、滑らかで細い指を、ただじっと見つめていた。
「危ない!」
「きゃっ······!?」
ロンデールがロゼッタの肩を引いて前に立つ。
剣の柄で蛇女のみぞおちを突く。
カァンッ! と良い音がして、女は仰向けに倒れた。
ロゼッタは不知落コナラを持ち、ロンデールに手を引かれて女の上を飛び越える。
「い、今の」
「ラミアの人形っぽかった! とにかくこの場を離れるぞ! それちゃんと守れよ!」
「うん。きっとあれも妨害魔法ね!」
ロゼッタとロンデールはその場を離れようと、とにかく走った。
二人とも焦っていたせいで、気づかなかった。
「きゃあっ!?」
「ロゼッタ!?」
ロゼッタが足を滑らせる。
急な斜面は、ロゼッタの体をぐいと引っ張った。
ロゼッタは不知落コナラをロンデールに押しやる。
「ストレンジ先生に持ってって!」
ロゼッタはそう言い残して、斜面の下へと転がり落ちていった。
「ロゼッタ!」
ロンデールはロゼッタを追いかけようとした。
けれど、後ろからラミアの足音がした。一人で不知落コナラを持っていかなくてはいけない。
こんな大きなどんぐりを持ってラミアを倒すなんて、一人では絶対に出来ない。
「······くそ!」
ロンデールは辿り着けるかも分からない森の外へと急いだ。
***
ロゼッタたちがラミアから逃げている間、レーガ&シェリのペアは、保存魔法をかける所だった。
「えーと、妖精のお手伝い『壊れないおまじない』」
レーガが不知落コナラに保存魔法をかける。
無事に魔法がかかると、レーガはそれを持って「外に出よっか」とシェリに声をかけた。
けれど、ロゼッタたち同様にどんなに歩いても森の外に出る様子がない。
「レーガ、これ魔法?」
「分からない。凄く魔力が薄くて、あちこちに流れてる感じがする。これが、不知落コナラの木の魔力なのか、先生の魔力なのか······。森の外に出られないなら、先生の妨害魔法かも」
「それじゃ、いつまでも出られないじゃない!」
シェリは慌てた。けれど、レーガは「落ち着いてよ」と笑う。
「多分そんなに慌てる必要無いと思う。だって、絶対に外に出られないなんてことは無いし」
「でも今、魔法で妨害されてるかもしれないのに!」
「空で太陽の位置を確認しながら、道を曲がればいいんだよ! 占星術で星の読み方は習うし、それと似たような感じじゃない?」
「······確かに。三学年は太陽の位置で現在地や時間を測る方法を学ぶわ。でもあたしは出来ないから、今の太陽の位置で進もう」
森に入る時、太陽は西に傾いていた。なら、体の右側に太陽があれば正解だろう。
シェリとレーガは二人で太陽の位置を確認しながら、森の外へと進んでいく。
──ガサ、ガサガサ。
近くの草陰から音がする。
シェリは剣に手をかけたまま、レーガに「走れる?」と聞く。
レーガが「大丈夫だよ」と答えると、近づいてくる音が速くなるタイミングで駆け出した。
「ギャアッ!」
「ふん!」
草陰から飛び出したオークを、シェリは斬り捨てる。
木で出来たオークは真っ二つになると、地面に落ちて小さな枝木に変わる。
「まだいるかもしれない! そのまま走ってて!」
「分かった!」
シェリはレーガの護衛をしながら、辺りの警戒を続ける。
ふと、目の前でロゼッタが急斜面を落ちていくのが見えた。レーガにもそれが見えたようで、小さく悲鳴を上げる。
「ロゼッタ、助けないと!」
「バカ! ロンデールが助けるでしょ! 何のためのペアよ!」
二人はじっと見守っていたが、ロンデールは迷った末に、森の外へ向かう。シェリは「あの男!」と舌打ちをした。
レーガは課題のクリアと、落ちていったロゼッタの事で悩んだ。
どうすれば両方叶えられるかなんて、レーガには思いつかない。
「······ごめん! これサモン先生に届けて!」
「はぁっ!? ちょっと、何するつもり!?」
「ロゼッタを助けに行く!」
「バカでしょ! そんな事しなくても、戻ってない生徒がいたら、ストレンジ先生が探しに来る! あたし達は課題をクリアして、先生にその事伝えたらいい!」
シェリの言うことは最もだ。けれど、レーガにロゼッタを見放す事は出来ない。
レーガは「ぶつけたりしない限り平気だから!」と、不知落コナラを押し付けた。
「ロゼッタは妖精魔法が苦手なんだ。それに、今この森は先生の妨害魔法がかかってる。おもちゃとはいえ、魔物が襲ってきたら、ロゼッタは抵抗する力がない。······僕は妖精魔法得意なんだ。一緒にいた方が、安全でしょ?」
レーガはそう言って、シェリの言葉を待たずに斜面を滑り降りていく。
シェリはレーガに文句の一つでも言おうとしたが、レーガはすぐに見えなくなってしまった。
「······見捨てたロンデールもそうだけど、ほっとけないレーガもレーガよ。ったく、ほんとに男ってのは!」
シェリは不知落コナラを脇に抱えて、森を駆けていく。
***
ロゼッタとレーガが斜面を落ちた頃、ロベルトとタリアムはわけも分からず、森の中を走っていた。
どこに進んでも、一向に森の外に出る気配がない。
右に進んでいるのに左に行くし、前に走っているのに後ろに行く。
しっちゃかめっちゃかな森の中で、無駄に体力を消費していく。
更に、木で出来た敵が迫ってくるから、いつでも気が抜けない。
ロベルトは「魔法ってすごい!」と思う反面、「魔法とは絶対に戦いたくない」という気持ちが湧いていた。
「こんな、こんなにも······はぁ、面倒な···ものだったか? っはぁ、魔法って」
「いや、もっと······はぁ、はぁ。もっと簡単なはず······。妖精、魔法って、面倒だって言わるけど······。規模も威力も大したことないからぁ」
「森中に魔法かけてるのにか?」
ロベルトはサモンへの尊敬と苛立ちが同時に湧き上がり、複雑な思いで息を整える。
「······魔法、すごいけど嫌い」
「でたぁ〜。剣術科の魔法に対する印象大多数意見」
やっぱりみんなそう思うのか。
ロベルトは空を見上げる。
「······走り回らずに、太陽を右側に置いて進もう。タリアム、このどんぐりを持ってくれ。俺が手を開けた方が、護衛に徹せる」
「いいよぉ」
ロベルトはタリアムに不知落コナラを預けた。
時々空を見上げて、太陽の位置を確認しながら、周りを注意深く見回す。
後方、敵の気配なし。
右方、足音なし。
左方、敵の影なし。
前方、視界クリア。異常なし。
小走りで森の中を進んでいると、上から声がした。
見上げると、急角度の斜面を、ロゼッタとレーガが転がり落ちてくる。
「きゃぁぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁあぁ!」
「ロゼッタ、レーガ!?」
ロベルトは慌てて受け止める体勢を取るが、上からほぼ落ちてくるような二人を、受け止められるはずもない。
二人ガシッと掴んだまではいいが、地面に倒れてしまった。
──ベチッ!
更に運悪く、レーガの手が、タリアムの持つ不知落コナラに当たってしまった。
爆発を恐れたタリアムは、空へと不知落コナラを投げた。
──本来ならば、爆発する不知落コナラを空へ投げるのは正しい対処法だ。けれど近くに斜面があり、その周りは木に囲まれていて、道は狭い。
その時の正しい対処は、人のいない方向に投げることだ。
タリアムは、不知落コナラの状況別の正しい対処法を、覚えていなかったのだ!
──ボォォォンッッ!!
大砲のような音がして、斜面の上で不知落コナラは爆発する。
斜面は抉れて、不知落コナラの欠片がパラパラと落ちた。
ロベルトは動けない二人をギュッと抱きしめて安堵のため息をついた。タリアムは頭をポリポリと掻く。
「······また新しいどんぐり探さなきゃ」
「それよりタリアム、二人を退けてくれ」
「はいは〜······ん?」
僅かに揺れる地面に、タリアムは顔をしかめた。
見上げると、抉れた斜面が崩壊を始めている。
ボロボロと崩れる地面が雪崩のように、四人に押し寄せてきた。
「っ! ロベルト!」
「タリア──」
タリアムが助ける前に、ロベルト達は土に飲み込まれた。
タリアムは、自分が巻き込まれないようにするのに精一杯だった。
土に飲み込まれた仲間達に、タリアムは「ぁ、ぁあ」と声を零す。
「ど、どうしよう······」
タリアムは土の山を手で崩そうと頑張った。
けれど、途方もない作業に「一人では無理だ」と悟る。
早くしないと、三人は窒息死してしまう。けれど、一人で何が出来ようか。
「······先生。············ストレンジ先生!」
縋る思いで、タリアムはサモンを呼びながら森を走った。
泣きたいのも我慢して、必死にサモンを呼び続けた。




