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泣き女の宿

 月が高く登る頃に、隣街に着いたサモン一行。

 スマホ指導でヘトヘトな三人を連れて、サモンは賑わう夜の街を突き進む。


「よぉ嬢ちゃん! 一緒に呑まない?」

「うっ、お酒臭い······」

「ロゼッタ、こっちに」

「ありがとうレーガ」


「よう兄ちゃん! いい剣持ってんじゃねぇか。この宝石と取り替えようぜ」

「悪いが、剣を交換するのは騎士の精神に反する」

「がははは! 騎士の精神だとよ! ガキンチョのくせにいっちょ前に言うじゃねえか!」

「何だと······っ!」



「お止めなさい」



 街に来て早々絡まれる生徒に、サモンはため息をつく。

 絡んできた男たちを人睨みすれば、男たちは途端に大人しくなって、そそくさと逃げ出した。

 サモンはまた、ため息をついた。


「アンタたち、トラブル起こさないと死ぬ病気にでも掛かってんのかい」

「今のはあっちが悪いんじゃないですか!」


 噛み付くロゼッタを「はいはい」とあしらって、サモンはパブに向かう。

 ロゼッタは「未成年居るんですよ!」とサモンを止めるが、サモンは「はいはい」と言いながら、三人をパブに押し込んだ。


 酔っ払いたちで賑わうパブに入ると、女がサモンたちに向かってくる。


「悪いねぇ。今満席なんだ。十分くらい待ってくんな」

「おや、二階も埋まってるのかい?」


 サモンがそう言うと、女は表情を明るくしサモンに抱きついた。


「サーモーンー! なんだよ、あんたならそう言っとくれ!」

「リエル。久しぶり。三部屋借りれるかい?」

「もちろんさ! 準備しとくからゆっくりしてくんな。夕飯食ってきた?」

「食べてない。何か軽いものある?」

「軽いのも重いのもあるとも!」


 リエルと呼ばれた女は、チラとサモンの後ろで不安そうに固まる三人を見る。そして、サモンに「アンタ珍しいモン連れてんね?」と言った。サモンは不本意ながら、と頷いた。


「学園の生徒サンは、アレルギーとか苦手なものはあんのかい?」

「ありません」

「私も無いです」

「ぼ、ボクも」

「あっそう。じゃあ、特大ソーセージと、牛肉のミートパイにしよう。サモンはあんまりお肉食べないんだっけ」

「そうだねぇ。私はフィッシュアンドチップスとサラダで」

「はいはい。あ、今奥の席空いたわ。そこ座ってくんな。すぐに持っていくからさ!」


 リエルはくい、と奥の席を示す。

 サモンは酔っ払いを避けてその席に向かった。

 レーガ達もサモンの後ろをピッタリとくっついていく。


 席に着くと、レーガはソワソワしながらカウンターに立つリエルを見る。


「知り合いですか?」

「あぁ。昔からのね」

「ストレンジ先生に人間の旧友がいるんですね。しかもあんなに綺麗な」

「ロゼッタ、失礼なことを言うんじゃないよ。あと彼女はバンシーだ。人間じゃない」


 ロゼッタとレーガはびっくりしてリエルを見る。

 ロベルトは人型の妖精なんているのか信じられないようだった。


「バンシーって、あの死を教える妖精ですよね?」

「あぁ。ロベルトの死を教えに来たバンシーの知り合いさ」

「えっ、ロベルト死んだの!?」

「今生きてんのが見えないのか、レーガ君よぉ」


 リエルの言う通り、夕飯はすぐに運ばれてきた。

 だが、思っていたよりも量が多く、ミートパイは一人分で三人前くらいある。それが三人分きちんと運ばれてきたのだから、到底食べ切れる量では無い。

 ソーセージだって、ロゼッタの首と同じ太さで、肉汁だけで胃もたれしそうだ。


「サービスだよ〜」

「い、いえ。サービスしなくて結構です」

「あんらぁ、そう遠慮なさんな。はい、サモンの分」

「ありがとう」


 サモンの前に並ぶ料理は、三人の量よりとても少ない。いや、三人前分と正しい一人前の量だから、そう見えるのだろう。

 けれど、リエルは「ちゃんと食べな?」とサモンの肩を叩く。

 サモンはリエルを軽くあしらって追い払った。

 料理に手をつけると、サモンは軽く咳払いをした。


「······食べ切れなかったら、残したっていいんだからね。ここは肉体労働をする男たちの通うパブだから、量も通常より多い。食べ切れないのが普通だよ」

「でも、出された食事を残すのは······」

「吐いて皿に戻されるよりいい」


 サモンはロゼッタを止めると、ポテトをかじる。

 レーガもミートパイにフォークを突き立てた。


 サクサクのパイ生地に、肉のしっとりとした食感が心地よい。しっかりと下味をつけた牛肉のほのかな甘みと、旨味が喉を伝っていく。

 噛む度に頬が落ちそうな美味しさに、レーガは「ん〜〜〜!」と感嘆を漏らした。


 ソーセージも、切ると肉汁が断面を流れ、芳しい香りが鼻孔を突く。

 プリプリとした歯ごたえと、口の中で溢れる肉汁が体に染み渡っていく。黒胡椒が良いアクセントとなって、重すぎない味となっていた。


「うっま!」

「結構イけるわ。かなり重いかと思ってた」

「ロベルト、ロゼッタ! この大葉とソーセージ、一緒に食べるとすごくサッパリして良いよ!」

「マジか! やってみる」

「あ、ホントだ。かなりスッキリする」


 三人が食事に夢中になっていると、サモンの肩にリエルの手が置かれた。


「いい子たちだね」

「······さぁね」


 サモンは知らん振りをするが、リエルはクスッと笑う。

 サモンは食事を三分の一残すと、「ノックスは」と席を立った。

 リエルは店の奥を指さすと、サモンはその方向に進んでいく。


 リエルは残った料理に目を落とした。



「······前より減ったか?」



 前まで残さなかった魚のフライが、二切れ残っていた。

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