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歩み寄り

「妖精学のペーパー範囲は二ページ目から、昨日やったところまで。三十六ページかな。まぁ、まだ一学期だし、選択科目だからほとんど基礎がメインになるよ」


 妖精学の試験範囲の説明を済ませ、サモンは時計で時間を確認する。

 まさか授業開始五分で全部終わってしまうなんて。授業配分をかなり間違えたようだ。

 だが、次のテスト範囲を勉強するには早すぎるし、復習しようなんて気にもならない。

 サモンは教科書を教卓の上に置いた。


「この時間は、ペーパーの方の対策時間にしよう。どの教科でも問わない。別教科の勉強がしたいなら、一昨日教えた『引き寄せ(ビエニ・クイ)』で持っておいで。教室の外には出ないようにね。一応私も教員だから、勉強に必要な質問にはきちんと答えよう。ただし、私の担当は妖精学だ。それ以外の授業の質問には答えないよ」


 サモンはそう言って、杖を振って椅子を引き寄せる。

 生徒たちは廊下に向かって、杖を振って教科書を引き寄せる。だが、ほとんどの生徒が不発。引き寄せられた一部生徒は、他人の教科書だったり、自分が欲しいものとは違う教科書を引き寄せて落胆する。

 サモンは「下手くそ」と言って、読書を始めた。


 レーガは黙々と、妖精学の勉強を始める。サモンはレーガの様子に、片眉を上げた。


 授業記録を見る限り、レーガの妖精学の成績は一年の時から優秀で、ペーパーテストはロゼッタをおさえてトップになったこともある。

 今回のテスト範囲はほとんど基礎だ。応用問題はない。

 レーガの知識なら、応用を混ぜたところで八十点より下は取らないだろう。復習するほど面倒な授業をしたことも無いはずだ。


(何故、妖精学の復習を······?)


 他の科目の方が、テスト範囲も広く、応用問題も沢山出るだろうに。

 妖精学より、そちらの方を勉強するのが得策と言える。



「授業さえちゃんと聞いていれば、誰にでも解けるのに」

「先生、質問があります」



 ロゼッタが教卓の前に立っていた。教科書を開き、「ここの浮遊魔法に関して」とサモンに尋ねる。


「この『妖精の浮遊(アバーブ・スカイ)』と『妖精の浮遊(サファイア・スカイ)』の違いは何でしょうか」

「······先週の火曜日にやった気がするけれど」

「マリアレッタ先生の手伝いをして、授業に出られなかったので」


 ──あぁ、そうだったっけ。


 ロゼッタに盛った忘却薬の効果が薄れてないか、確認してもらう為に頼んだんだっけ。

 サモンは「あっそう」と素っ気なく返事をして、本を閉じた。


「ロゼッタはこの二つの魔法を使ったことは?」

「授業で習った呪文は必ず練習するようにしてます」

「で、使った印象は?」


 サモンが尋ねると、ロゼッタは少し悩んだ。


「私はあまり、妖精魔法は得意じゃないので······」

「でも使ったんだろう? どうだった?」

「う〜ん。『妖精の浮遊(アバーブ・スカイ)』は、高く浮かんで、その場で維持しているような感じ、でした。『妖精の浮遊(サファイア・スカイ)』は、高く浮かんで直ぐに落ちます」

「それが違いだよ」


 サモンはイヤリングを外して、目の前で魔法をかける。


「『妖精の浮遊(アバーブ・スカイ)』は簡単に言えば、飛行機だ。空高くまで飛び、その高度を維持できる。主に建設業で使われるような援助魔法。高さの調節が出来たら、いくら高いビルでも杖一つで重い鉄骨を高く持ち上げられる」


 イヤリングは教卓から十数センチほど浮いて、そのまま高さが変わらない。

 ロゼッタは「へぇ」と感心する。


「『妖精の浮遊(サファイア・スカイ)』は、いわば──」




「『高い高い』だ」

「高いたか······」



 サモンのざっくりした説明に、ロゼッタの表情は固まる。

 サモンが『妖精の浮遊(サファイア・スカイ)』と唱えると、イヤリングは天井すれすれまで飛び、教卓に落ちてくる。

 サモンはそれを手で受け止めると、イヤリングを耳に戻した。


「今見たように、『妖精の浮遊(サファイア・スカイ)』はかなり高く飛ばすことが出来るけど、高さの維持が出来ない。すぐに落ちてしまう。けれど、雲より高く飛び上がることが出来るから、絶景を撮りたい写真家に向いてる」

「そんな命がけで絶景写真を撮りたい人はいないと思います。でも説明ありがとうございました」


 ロゼッタはお辞儀をして、席に戻った。

 サモンは息をついて読書に戻る。表紙に指が触れた時、サモンは(あれ?)と眉間にシワを寄せる。



(さっき私、レーガの事を気にしてた?)



 サモンは「そんなわけ」と乾いた笑いをこぼす。

 そんなことは無い。私は、人間嫌いだ。

 何故嫌いな種族のことを気にかける?


「······気の迷いだ。気の迷いなんだ」


 サモンは自己暗示をかけるように、本を開いた。

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