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レプラコーンの宝物

 冬休みももうすぐ終わる。

 せっかくの安穏の日々は、事件に消えてしまった。

 残る四日は、せめて穏やかに暮らしたい。


 サモンは熱いハーブティーを淹れる。

 窓を開けて、塔の中の空気をかき混ぜる。

 ゆっくりと冷えていく温度に息を吐いて、ハーブティーに口をつける。


 今日は何をしようか、久しぶりに掃除でもしよう。そう思い立って、サモンは本棚の掃除をする。

 いつもなら、魔法でささっと済ませてしまうが、たまには自分の手で掃除しようと、気まぐれを起こす。


 はたきで一番上の棚から順番に、ホコリを落としていく。

 ついでに、最近読んでいない本を手に取りながら、小休止を挟んだ。


(どうせ載っていないと分かってるけど・・・・・・)


 魔力を抑える、もしくは封じる方法なんかないだろうかと、探してしまう。

 載っていたとしても、対処療法が関の山だ。それでも、諦めきれないのが、人間の汚いところだろう。



「そういえば、精霊の魔法」



 精霊との戦闘時、サモンの魔法が凍らされた。

 それに、妖精魔法『妖精の悪戯ハイド・アンド・シーク』は応用次第で相手の魔法を奪い取れる。


(使いすぎて忘れてた)


 薬で抑えられない。コントロールも出来ない。

 目には目を。歯には歯を。


 魔法には、魔法だ。


「氷の精霊の魔法は、魔力を直接凍らせることによって、魔法を封じることが出来る。問題は、魔力の取り出し方で──」


 サモンが考え事をしていると、ドアの方で何かが落ちる音がした。

 その方向を見ると、いつのも三人組、レーガ、ロゼッタ、ロベルトが立っている。


 差し入れだろうか。バスケットが床に落ちて、サンドイッチや果物が床に散乱している。


 サモンはため息を着くと、杖を振って、床に落ちたそれらを拾い集める。


「まったく、手元がお留守になってるよ。届け物があるなら気をつけないと」


 サモンはいつも通りを装った。

 独り言を聞かれていたかも、なんて、いつもなら気にしないことに冷や汗をかく。


 彼らが持ってきたバスケットをテーブルに置き、サモンは椅子を人数分用意する。


 お茶の準備をしながら、ドアの前で動かない三人に、サモンはため息をついた。


「・・・・・・聞きたいことは?」


 サモンが質問を促す。

 ロベルトが真っ先に手を挙げた。


「俺は、剣術学科だから、魔法のことは分からない。でも、二人の顔を見てたら、事の大きさは何となく分かる。ストレンジ先生、魔力を凍らせるとか、封じるとか、危ないことをしようとしてるのか?」


 ロベルトの真っ直ぐな言葉を、サモンは「そうだよ」とケロリと返す。

 次に発言するのはロゼッタだ。青ざめた表情で、サモンの前に突き進んでくる。


「魔力を凍らせたら、魔力の流れが止まって、体に影響が出るのよ! 自分の魔力を抑えて死んだ例が、一体いくつあるのか知ってる!?」

「歴史上有名なのは十二人、現代では年間一人から二人」

「そういう知識的な方じゃないわ!」


 ロゼッタの剣幕は普段と違い、サモンは思わず耳をふさいだ。

 レーガは目尻に涙を浮かばせて、唇を震わせる。

 聞かなくても想像出来る言葉に、サモンは腕を組む。


「死ぬだろうけど、そっちの方は対策済み。手足が爆散しても、詠唱無しで即座に治癒できる魔法を見つけた」


「それよりやることあんだろ!」

「自分が爆散することを想定出来るなら、爆散しない方向で話進めてよ!」

「先生死んじゃやだ! 先生死んじゃやだ!」


 聞きなれた声がビービーと騒ぐ。

 サモンは「うるさい」と静止するが、この三人がサモンの言うことを聞いた試しがない。


 ため息をつく他ない。


「それより、話があるんだろう? ただ差し入れを持ってきたわけじゃない。この話をしに来たわけでもない。そうだろう?」


 無理やり話題を変えて、サモンは三人の関心を逸らす。

 不満げな顔こそしているが、レーガがスマホの画面をサモンに見せた。


「これ、先生も知ってるでしょ」

「ん? あぁ、もちろん」


 レーガのスマホに写っているのは、カンカン帽を被った、茶色い髭の小人だ。

 小人系の妖精は、似通った見た目をしているが、ニコニコと機嫌が良さそうで、緑色の服で全身を統一している妖精は一種類だけだ。



「レプラコーンだねぇ」



 サモンがそう言うと、レーガは頷く。

 それがどうしたというのか。

 その後の話は、ロベルトが引き継いだ。


「昨日虹が出ただろ? それで今日そいつを見た。レーガが言うには、レプラコーンは虹の端にお宝を隠すらしい」

「『レプラコーンの宝』が見たいって?」

「そういうこと。ロゼッタも本当かどうか見たいって言ってたし、先生も探そうぜ!」

「放っておきなさいな。どうせ見たらガッカリする」


 宝探しに乗り気なロベルトを、サモンは冷たくあしらう。

 レプラコーンの宝なんて、彼らが口を滑らせなければ探せるはずがない。

 伝承では『金銀財宝』なんてかっこよく書かれてはいるが、所詮は()()()()()()()お宝だ。


 ()()()()()()()お宝じゃない。


「探してみようよ、サモン先生」

「お断りしよう。この寒い時期にわざわざ外に出て遊ぶなんて、正気の沙汰じゃない」

「めっちゃボロくそ言うな、ストレンジ先生」

「そりゃ言うよ。私をその辺の大人と一緒にしないでくれ」


 サモンは三人を追い出そうとするが、レーガが「あ、そっか」と何かに気がつく。


「レプラコーンの宝が見つかるのって、彼らがケット・シーに、在り処を喋っちゃったことが理由だったよね」

「そうだよ」

「それ以降に見つかったのも、レプラコーンがうっかり口を滑らせたことで見つかってる」

「そうだよ、二学期の範囲でやった。よく覚えているね」


「じゃあ、サモン先生じゃ見つけられないね。いくら詳しくても意味ないし」

「探せるけどぉ~~~!?」


 悪意のない煽りに、反射的に答えてしまう。

 むしろどうして役に立たないと思われているのやら。

 妖精に詳しく、あらゆる知識を蓄え、魔法の応用もお手の物なのに。


『出来ない』と思われる方が、よっぽど悔しい。


 サモンはこめかみをピクピクさせて、上着を羽織る。

 誰よりも先に塔を出ると、三人に振り返った。


「ほら、早くおいでなさい。レプラコーンの宝を見たことがない可哀想な生徒に、本物を見せてあげよう」


 乗り気になったサモンに、三人は笑顔でついて行く。

 サモンは欠伸をして空を見上げた。


 冬の空には、もったいないくらいの快晴だった。

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