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街に行こう 3

 地下には、ベルリオンの作業場がある。

 杖を加工する機材、ガラスを溶かすための坩堝(るつぼ)など、広い空間に所狭しと並ぶ、職人の相棒たち。あらゆる材料が置かれた棚や、この暗い地下室を照らすのは、一つの裸電球だけ。


 サモンは地下室の奥にある、小さなテーブルに近づいた。

 鍛冶場まであるこの地下室、一体どんな職人に造らせたのか。

 ──どうせ、仲間のドワーフだろうけれど。


 テーブルの上には、サバの缶詰の空き缶があり、その中には真新しい油が入っている。

 濁りもなく、透明で綺麗な油に、サモンはテーブルの上に一緒に置かれていたマッチに火をつける。


 それを、空き缶につけた。


 缶の表面をゆらゆらと火が踊る。

 サモンは缶に手をかざして彼を呼んだ。



「話があるんだ。来てくれるね? ──ホムラ」



 サモンがそう言うと、火は揺らめき、小さな火柱を立てる。

 踊る火の中に、小さな男が立っていた。

 赤い短髪に、露出の高い服を着た、茶色のアイシャドウが良く似合う男だ。


『よぉ、サモン。久しぶりだな』

「ホムラ、君に聞きたいことがあるんだ」

『おっと、久々にあった兄弟と世間話もしないのか! 兄ちゃん悲しいぞ!』

「······君、今まで私に『兄ちゃんと呼べ』なんて言ったことないよね」

『無いな!』


 ホムラはニカッと笑う。サモンは反対に、呆れていた。


「今日はゆっくり話せない。手短に聞くよ。王都の方で何か見てないかい?」

『何で俺が王都の事を知ってるんだよ』

「先々週、王都では『星燈祭(せいとうさい)』があった」


 ナヴィガトリア学園の遥か東に王都がある。

 あらゆる国からの貿易品、特産品が集い、人々の憧れと羨望を意のままにする。流行の最先端にして、この国の頂点。

 その王都で先々週、祭りがあった。


 王都全体を松明と提灯で飾り、燈籠を川に流す。夜のクライマックスには広場で大きな火柱をあげる。

 人々の繁栄を願い、厄を祓う盛大な(ほむら)の祭り。その伝統ある行事を、火の精霊である彼が知らないはずがない。


 ホムラは口をへの字にし、『そういえばそうだな』と星燈祭に行ったことを認めた。


『何でそんな事を』

「学園に、ウンディエゴが現れた」


 サモンがそう言うと、ホムラは目を丸くする。

『馬鹿な』と言われたところで、事実は変わらない。


『あれは氷の妖精だ。雪山にいる奴が、なんでこんな遠足の休憩場みたいな所にいるんだよ』

「私もそれを知りたい。ありえないんだよ。ウンディエゴが迷うような距離じゃないから」


 ホムラは腕を組み、何か悩んでいる様だった。サモンもつられて同じポーズを取る。


『悪いが、俺はあまり情報通じゃない。聞くならアズマだろ』

「本当はアズマの所に行くつもりだったんだよ。生徒に予定をかき回されなけりゃ」

『人間?』

「······不本意だけど」


 ホムラはニヤリとイタズラっ子のような笑みを浮かべた。

 質問責めをされそうな雰囲気を、サモンはいち早く察知すると「何も変わってないよ」と先手を打つ。


「生徒が私を好いたところで、私が嫌いであれば、進展もクソも無いからね。君たちが思うような変化は無いよ」

『全てが見た通りとは限らねぇよ。······なぁ、サモン。もう一度だけ』

「チャンスタイムはもう終わり。これ、アズマに渡しておいてくれないか。君がやってくれても、構わないけどね」

『······気が向いたらな』


 ホムラはこれ以上何も言わないでくれた。

 サモンはポケットに押し込んだ巻き手紙を、ホムラに渡す。ホムラはそれを受け取ると、ポタと足元に落として焼いてしまった。


『帰り道気をつけろよ。最近その街の辺りで、人攫(ひとさら)いが頻発してる。獣人属、魔族、妖精族、人間──魔法が使える奴が特にな』

「ん、まだ聞いてない話だね」

『アズマが怪しい二人組を見てる。注意するに越したことはないだろ?』


 ──怪しい二人組に、人攫い事件。

 サモンは顎に手を添え、「そうだね」と相槌を打つ。ホムラは足踏みをし、宙返りして火ごと消えた。


 サモンはまだ少し考え事をする。


(二人組か。もしも学園の近くに妖精を放ったのなら、二人で事足りるかも。人攫いの方かも?)


「まっ、生徒が捕まるような事は無いだろうけど」


 ──なんて、呟いた直後だ。

 店の外からレーガとロゼッタの悲鳴が聞こえた。ベルリオンの慌てた声も聞こえる。



「······あの間抜け共!」



 サモンは頬を引っ掻き、苛立ちを吐き出す。

 杖を引き抜くと、階段を勢いよく駆け上がった。





 店の外で尻もちをつくベルリオンが、「すまない」とサモンに謝った。

 サモンは杖を軽く振ってベルリオンを助け起こす。


「ケンカを止めに行った男の子が、最初に捕まって······助けようとした女の子も。すまない。ワシがついていながら」

「悪いのは言いつけを破ったあの二人だ」


 サモンが追いかけようとすると、店の前にいた座敷わらしが、サモンに花の入った小袋を渡す。サモンは女の子の頭を撫でて「ありがとう」と笑う。

 サモンそれを腰に括りつけて路地を駆けた。




「さて、お仕置きしてやろう!」




 今のサモンは、面倒くさい気持ちよりも、怒りが勝っていた。

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