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遅刻厳禁!! 現地集合プラネットソウルズ!!

 


 いよいよやって来た同盟会議当日、時刻は十時を過ぎて少し小腹の空いて来た時間帯。

 僕達クリスタルハーシェルと、同盟会議に参加する多数のソウルギア使い達は、舞車町の中央小学校の校門前広場で他のチームの到着を待っていた。


 他のチームとは即ち、クリスタルハーシェル以外の主要4チーム、惑星の一族の同盟プラネットソウルズにおいて、各ソウルギアを最も使いこなせていると判断された子ども達が集められたチームを指す。


 ソウルシューターを担当し、水星ミズキが率いるシューターチーム“タラリアズッピ“。


 ソウルスピナーを担当し、海王リエルが率いるスピナーチーム“トライデントルヴァリエ“。


 ソウルストリンガーを担当し、土星ホシワ率いる“リングカッシーニ“。


 この3つのチーム、一応資料を渡されたからリーダーとチーム名はギリギリ覚えられたけど、他のメンバー全員はとてもじゃないが覚えられない。

 まあ、所詮はAランクの頂点を奪われたチーム。ソラ君、ホムラ君、ユキテル君に負けた敗北者じゃけぇ。だから覚えきれなくても……あっ、ヨリイトストリンガーズはまだ1位じゃなかったっけ? そのうちユキテル君がボコボコにするだろうから一緒だ一緒。


 そして、同盟の長でもあり、ソウルカードを担当するのが天照タイヨウが率いる“サンライズコペルニクス“だ。


 流石の僕もこれだけはメンバーを覚えて……ない。覚え切れてたまるか。確か副リーダーが蒼星アオイだったよね? 天照タイヨウの許嫁の。

 会った事もない奴らを何十人も覚えられねえよ、雰囲気と流れでなんとなく乗り切れば大丈夫だよね?


 それにしても遅い。4つのチームのメンバーは誰一人として到着していない。


 今日は珍しく曇り空で日差しも弱く、八月にしてはそこまで暑くはない。

 だが、いい加減待つのは辛くなってきた。ソウル体なので肉体的にではなく精神的にだ。トウカさんに言われて、クーラーの利いた室内で待機しているユピテル君が羨ましい。

 ツララさん達お手製の力作、イラストたっぷりの同盟会議のしおりには十時集合って書いてあるぞ? ちゃんと読んだか? この僕を待たせるとはけしからん。


「このエンジン音、軟弱野郎がようやくお出ましみたいだな」

「ああ、タラリアズッピが到着だな!」


 レイキ君とヒムロ君の言葉に耳を澄ませると、確かに車のエンジン音が聞こえて来た。

 やがて、校門に黒塗りの車が入って来る……な、長ぇぞ? 車体がクソ長い。

 こんなアホみたいな車が実在するのか……長過ぎて道を曲がり切れないだろ。


 車の中から続々と人が降りて来る。全員女の子だ。

 そう言えば資料で読んだタラリアズッピはリーダーを除いて全員女の子のチームだったな。

 そして、最後にゆったりとした動作で降りて来た少年が居た。

 水色の長髪をキザったらしくかきあげ、ため息をつきながらこちらへと歩いて来る。コイツが水星ミズキか。


「ふぅ、相変わらず狭苦しい町だねトウカ。高貴なる僕は息が詰まってしまうよ」


「星乃町と比べればな。でも私は舞車町を気に入っている。正月以来だなミズキ。相変わらずで安心したよ」


 う、うぜぇぞコイツ、まずは遅刻を謝れよ。そんな車に乗ってるから遅れるんだよ。

 自分達の町をディスられ、トウカさん以外のみんなは不満気に水星ミズキを睨んでいる。

 でも、コイツも水星姓なんだよな……カイ君とミナト君の兄弟の可能性が高い。顔も似ている様な気がする。母親は違うのかもしれないけどね。


 そんな風に思っていたら、水星ミズキは僕の事を品定めでもするようにジロジロと見ていた……下卑た視線だな、セクハラで訴えるぞ?


「ふーん、田中マモコなんてダサい名前だから期待していなかったけど……」


 アァン? やんのかゴルァ!?


「いいね、美しいじゃないか。どうだい田中マモコ、僕の十番目の婚約者になるつもりはないか?」


 う、美しい?

 ……なんだよ水星ミズキ、良いやつじゃん。僕の美しさが分かるなんて善人だよ。


 フヒヒ、しかも初対面で求婚されちゃった。

 でも、私を一番に想ってくれる人じゃないとなーどうしようかなー?

 いやぁ、モテる女は辛いね。取り巻きのチームメイトの女の子達の視線がこわ~い♡ 

 特にあの小さい子の殺意がこもった目が怖い。そんなに怒らなくても……物凄い目力だ。


「フフッ、残念だけど……」

「勝手にマモコに求婚しないでくれ、私の大事なチームメイトだ」

「ミズキさん、初対面でそれは不躾過ぎるんじゃないですか?」


 トウカさんとトウヤ君が僕を庇う様に前に出た。

 なんだなんだ? 僕が取られてしまうと焦ったのか? いやー愛され過ぎて困っちゃうな。


「おやおやトウヤ? トウカはともかく君が僕に意見するなんて随分と調子に乗っているじゃないか。少し強くなったからって増長しているのかい?」

「増長なんかしていません。言うべき事を言っただけです」


 トウヤ君、すっかり逞しくなって……感慨深いねえ、ヒカリちゃんもうっとりとした顔で君を見ているよ?


「ヘッ、ミタマシューターズに一番を奪われたリーダーは余裕だな? ナンパする程暇があるなんてよォ」


 はは、痛い所をつくなレイキ君。口撃は基本、それでこそランナーだぜ。どんどん言ったれ。


「ぐぬっ!? が、ガーディアンズの分際で水星家の正統後継者であるこの僕になんて無礼な口を利くんだ!」


「正統後継者? 最近の噂じゃ、裏切り者の二人の方が後継者に相応しいって評判らしいぜ?」


 ほーん、カイ君とミナト君がねえ。


「こ、この僕がカイとミナトに劣っているだと!? 馬鹿を言え! 奴等は僕がわざわざリベンジに御玉町へ向かったのにもぬけの殻だ! きっとこの僕に恐れを成して逃げ出したんだ! 一度だけ偶然勝利したからって勝ち逃げしている卑怯者さ!」


 そりゃあ、中国に行ってるからね。御玉町にはいないっスよ?


「はん、相手にされて無いだけだろ? 噂じゃ随分とボロ負けしたらしいじゃねーか、ミズキ様よォ?」


「れ、レイキ! キサマよくも――」


 おいおいレイキ君? そこまで言ったら可哀想じゃない? 惨めな負け犬でも一応同じ同盟の仲間なんだしさ。


「そこまでだ! 今日は諍いの為に集まった訳ではない! プラネットソウルズの一員として見苦しい姿を見せるな! レイキも口が過ぎるぞ!」


「へいへい、了解だよ」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 トウカさんの一喝で二人は不満気に黙り込む。

 ありゃりゃ、空気悪いなぁ……仲良くしようぜ?


「あっ、この音はリエル様達だね」

「ああ! トライデントルヴァリエ達が来たぜ!」


 ヒカリちゃんとヒムロ君の声に、その場の視線が校門へと向かう。


 おっ? ようやく到着……ん、なんだこの音? パカパカって聞こえる。

 そして、校門の向こうから見えて来た影……あれは馬? 人が乗った馬が集団で校門に向かって来ていた。


「ヒヒィーン!!」

「いい子……いい子ねアリオン。暑いから……あそこの屋根のある駐車場に止まろうね」


 先頭を歩き、嘶く黒い毛並みの馬を宥めつつ校内の敷地へと侵入して来る女の子……あれが海王リエルか。

 ピンク色をした非常識な髪をふわふわと伸ばし、どこか眠たげでダウナーな雰囲気を醸し出している。

 そして、校門から次々と乗馬した集団が駐車場に行儀良く収まって行く。実にシュールな光景だ。全員女の子なのがひと目で分かる。

 しかし、学校まで馬で来るとは……いや、馬はともかくとして……


「ゴメン、トウカ……遅れた……」


「構わんさリエル、君達が二番目だ。タイヨウとホシワはまだ到着していない。廻転町に遠征していたと聞いたが成果はあったのか?」


 廻転町に遠征? そうか、カイテンスピナーズにリベンジに行ったのか。


「ううん……ホムラは留守だったから……会いたかった……色んな所を探したけど……見つからなかった……そのままアリオン達に乗せて貰って舞車町まで来た」


 ああ、そいつらなら今は中国っスよ? 違法なルートだから足取りが掴めなかったのかもね。


 海王リエルとトウカさんは親しげに会話を続けている。その横では水星ミズキがムスッとした顔で黙り込む。

 だが、僕としてはそれよりも気になって仕方がない事がある。


「ねえ、ヒカリ? なんであの人達チーム全員がスク水を着ているの? もしかしてアレがユニフォームだったりするのかしら……」


 絶対に異常だ。なのにみんな突っ込まずに、当たり前の様にスク水集団を受け入れている。

 あの格好で各地を乗馬してホムラ君達を探し回ったのか……凄え度胸だ。イカれてやがる。


「海王星の意思が喜ぶからだってリエル様は言ってたよ。ふふ、最初は驚くよね。私達はもう慣れちゃったけど」


 海王星ェ……碌でもねえ惑星の意思も居るんだなぁ……絶対おかしいだろあの格好、慣れちゃいけないよ。


「アナタが……田中マモコ?」

「ひゃッ!?」


 いつの間にか僕の目の前にスク水ガールが居た。

 くっ、気取れなかったぞ? 変態だけど油断ならねえな。


「夏なのに黒いドレス……変な格好……暑そう……」

「そ、そうかしら?」


 お、お前に服装でどうこう言われたくねえ! 僕の黒ゴスルックは夏だろうが完璧だ!


「でも……似合ってる。カワイイ」


 か、カワイイ? 

 ……なんだよ海王リエル、良いやつじゃん。僕のカワイイが分かるなんて善人だよ。


「ありがとう、アナタの格好も素敵よ」


 へへっ、人の服装にケチ付けるなんて心の狭い奴がやる事でヤンス。


「うん……そのまま泳げるから私も気に入ってる……」


 機能性重視なのか?


「あっ……ホシワ達も来た……」


 海王リエルが振り向いて呟き、僕もそちらに釣られて目を向ける。


 校門の先に見えて来たのはチャリンコの集団……海王リエル達とは真逆であれは全員男の子だな。極端な奴等だ。非常にむさ苦しい集団だ。

 しかし、随分とガタイの良い奴等だ。この距離からでもガッチリとした体格の良さが伺える。本当に小学生かよ? 


 だけど、チャリでやって来るのは非常に小学生らしくて好感が持てる。長い車とか馬よりは百倍マシだ。

 僕だって遠出するならチャリだぞ? ギアが12段階まで変えられる自慢の愛車だぜ。


 自転車の集団は校門を抜け、そのまま敷地内の駐輪場へと向かう。

 場所を取りすぎない様に間隔を詰めて駐輪し、チェーンを二重にロックしている。見かけに依らずマメな奴等だ。


 駐輪が終わると、浅黒く日焼けし、短く髪を刈り上げた巨漢の小学生を中心に彼等は一列に並んだ。中心の筋肉男が土星ホシワか?


「待たせたなトウカ! そして一族の仲間達よ! リングカッシーニ総勢十名がただいま到着した! 遅れてすまない!」


 う、うるせえぞコイツ? 遅刻したのに堂々とし過ぎだろう。もっと卑屈に謝れ。


「フッ、肝心のタイヨウがまだだ。私は気にしていないよホシワ」


 僕は気にしているけどね。


「寛大な心遣いに感謝するトウカ! しかしタイヨウ様が遅刻とは! やはりお忙しい様だな!」

「それはどうだろうな? 騒ぎが少し落ち着いたので学園から直接ここに向かうと言っていたが……」


 学園……確かにソウルカードを使うテイマーならあの学園に通っていて当然か。

 ソウルカードは、星乃町の沖合に浮かぶ日本最大の人工島、そこにある私立蒼星学園でしか生産しておらず、あそこに通った者しかテイマーとなる事が出来ないからだ。


 ソウルカードは、魂魄獣と呼ばれるモンスターをカードから召喚して戦うソウルギアだ。

 生産方法が他の4つに比べて少し特殊で、テイマーの数は他のソウルギア使いと比べると非常に少ない。


 なんでも魂魄獣を操り育てる術を編み出したのは、地球を司る惑星の一族蒼星家であり。それをソウルカードというソウルギアに落とし込む術は蒼星家だけの秘伝らしい。

 そして、ソウルカードは大量に生産する事ができず、扱うにも資質がないと不可能だそうだ。

 マモリの近況を聞いた時に、父さんに見せてもらった学園紹介のパンフで読んだので少しだけ詳しい。


 つまり、No.1テイマーである天照タイヨウがあの学園に通っているのは当然なのだ。妹のマモリも通っているであろうあの学園に……ああ、僕はそんな事にすら気付いていなかった。


 田中マモルが15億の賞金首になった今、マモリは僕の妹として肩身の狭い思いをしているかもしれない。あそこは惑星の一族の子弟が数多く通っている場所だ。

 それに、学園でも強い立場に居るであろう天照タイヨウは、田中マモルに関係している疑いがあるとの理由でマモコにまで異を唱える程のマモルアンチ。

 もしかしたらマモリが天照タイヨウに意地悪されていたり……マモリ、ゴメンよ……母さんのせいで。


「そうか! 俺達のチームは夏休みに入ってすぐに遠征に出発したので星乃町の情勢には疎くてな! 牙を取り戻したユキテルと雌雄を決する為に撚糸町まで向かったのだ! 残念ながらユキテル達は町に居なかったがな! 噂を頼りにそのまま各地を探したが足取りすら掴めん! 一体ヨリイトストリンガーズは何処へ行ってしまったのだろうな!」


 すんません、アイツらも中国へ違法賭博の旅に行ってます。

 いつになったら帰って来るんですかねぇ……もう夏休みっスよ?


 僕の視線を感じたのか、土星ホシワがこちらを見据えた。


「む? 君が噂の田中マモコか!? 夏なのに随分と暑苦しい格好をしているな! 小学生なら半袖短パンがベストだぞ!」


 暑苦しいのはそっちじゃい! 赤神先生みたいな事ほざきやがって。


「だが……いい目をしているな! そして相対しているだけで君の強大なソウルが伝わって来る! 悪い噂など当てにならんな!」


 い、いい目をしている?

 ……なんだよ土星ホシワ、良いやつじゃん。僕の曇りなき眼の良さが分かるなんて善人だよ。


「フフッ、ありがとう土星ホシワさん」


 これで言われてみたいベスト7のセリフをゲットだ! ベスト10コンプリートまで後8つだ!


「おお! タイヨウ様がお見えだぞ!」


 土星ホシワが上空を見て叫ぶ、僕も釣られて空を見上げる。


 見えて来たのは……ど、ドラゴン? 金色に輝く巨大なドラゴンがこちらへ向かって飛んで来る。


「おお、あれはまさしくタイヨウ様の魂魄獣、アポロニアスドラゴン」

「なんて神々しい姿だ。直接お目にかかるのは初めてだ」

「学園で魂魄獣を召喚して飛んできたのか? 間違いなく一時間以上はかかるぞ?」

「あれ程の魂魄獣の召喚を舞車町まで維持し続けるとは……素晴らしい」

「なんて莫大なソウル、やはり天才か……」


 周囲のソウルギア使い達がざわつき、口々に天照タイヨウを褒め称える。


 ケッ、遅刻した癖に大層な登場しやがって……本当は近くまで車で来てドラゴンに乗り換えたんじゃないの? 遅れたからインパクトで誤魔化そうとしてさぁ、卑劣な奴だね。


 ドラゴンはゆっくりと巨体を校庭へと降ろして行く、校門前の広場に収まる大きさじゃない。

 ソウルギア使い達はドラゴンを追い、次々と校庭へと向かって行った。


「フッ、派手な到着だなタイヨウ、行くぞみんな」


 トウカさんの言葉に僕たちも校庭へと向かう。なんか釈然としないな。




 校庭へ着くと、巨大なドラゴンは光に包まれながら消えて行く所だった。

 行き先はカードだ。校庭の中心で右手を掲げる少年の手に収まるキラキラとしたカードの中にドラゴンは吸い込まれて行く。


 あれが天照タイヨウ……いや、テレビで見たから見た目は知ってるけどね。

 赤い瞳にサラサラとした金髪、小学生6年生にしては高身長でパリッとした学園の制服をスマートに着こなしている。

 くそ、僕とパツキンキャラが被ってるじゃないか! パクリ野郎め!


「おお、流石タイヨウ様。高貴なる到着です」

「タイヨウ様遅い……遅刻……」

「タイヨウ様! ご健勝の様でなによりです!」

「タイヨウ、ようやく到着だな」


 周囲の人集りの中心、天照タイヨウとそのチームメイトにトウカさんを含めた4人のリーダーが歩み寄って行く。


「直前まで父上と話があってな。許せお前達」


 偉そうな謝罪だ。絶対に悪いと思ってないだろ。


「そして一族の同胞達よ! 出迎えに感謝する!」


 周囲に向かってよく通る声で労う天照タイヨウ。同胞って……流石のキャラの濃さだ。

 そして、後に控えるサンライズコペルニクスのチームメイト達も強いソウルを感じる。見た目で既にキャラが濃い。


 特にあの仮面を被った奴なんてキャラ作りを徹底し過ぎじゃない? お前そのカクカクした格好いいフルフェイスの仮面で授業を受けてんのか? 給食の時間とかどうすんの?

 でも、チームに一人仮面キャラが居るとバリエーションが豊富に見えるなあ……ちょっと羨ましいぞ? 家のチームもレイキ君辺りに被らせるか?


 まだまだ、話し合いを続けるリーダー4人と天照タイヨウ達。

 なあ、早く校舎に入ろうぜ? 熱中症で倒れちゃうよ?


 ふと、視線を感じる。天照タイヨウの後に控える9人のチームメイト、その中に居る黒髪の少女が僕を射殺さんと言わんばかりに睨んでいた。

 こ、怖え……あの黒い髪に青い瞳。写真で見たから間違いない、天照タイヨウの許嫁の一人で副リーダーの蒼星アオイだ。

 しかし、なんで僕を……そうか! カワイイカワイイ僕を天照タイヨウが目の当たりにしたら、心が奪われると危惧しているんだな!?

 ふぅ、やれやれ。カワイイってやっぱり罪だね。


 すると、天照タイヨウ達がこちらへと歩んで来る。なんか用かな? あれか、求婚か?


「キサマが田中マモコか……」


 何かを見極める様に、険しい顔で僕を見る天照タイヨウ。

 あれ? もしかしなくても好感度低い感じかな……


「ええ、そうよ。そういうアナタは天照タイヨウね、有名人だから私でも知っているわ」


「ふん、白々しい態度を……女狐が」


 め、女狐だと?

 ……なんだよ天照タイヨウ、嫌なやつじゃん。純真無垢で清らかな僕のソウルが分からんとはね。コンコーン!


「タイヨウ、私のチームメイトを侮辱するのはやめてくれ」

「タイヨウさん、今のはマモコさんに失礼です」


 トウカさんとトウヤ君がすかさず天照タイヨウに抗議する。いいぞいいぞ! もっと言ったれ!


「チームメイトか……そんな得体の知れない奴を庇い立てるとはらしくない浅慮だぞトウカ。そしてトウヤ」


「浅慮ではないさ、私はマモコをチームに入れた事を間違いとは思わない。これで良かったと思っている」

「タイヨウさん、俺達クリスタルハーシェルはマモコさんに救われました。だから自分のソウルに従ってマモコさんを信じています」


 ……ちょっと感動しちゃった。


「それにタイヨウ、お前の方こそ見慣れない仲間を連れているじゃないか。彼の紹介はしてくれないのか?」


 あっ、あのフルフェイス仮面は新顔なのか?

 いや、中身は意外と知ってる奴かもしれんぞ? キャラ立ちを気にして夏に向けてイメチェンしたのかもしれない。


「そうだな、コイツは――」

「マモコキラー」


 ……は?


「ゴメンなさい、聞き取れ無かったからもう一度名前を――」

「マモコキラー、僕の名前はマモコキラーだ」


 そっかぁ、マモコキラー君か……


「ず、随分と変わった名前ね?」


 このフルフェイス仮面、少し高めだけど男の子の声だ。

 一体誰だ? 田中マモコはこの町以外で活動していない、恨まれる所以がないだろ……キラーって……


「少し悪趣味が過ぎるぞ、タイヨウ。名乗らせるにしても他の名前が――」

「マモコキラーはコイツが望んだ名だ。それに、ソウルギア使いは己のソウルネームを自由に決める事が出来る。惑星の意思によって保証されたソウルギア使いの権利だ」


 それにしてもさぁ、特定の個人を誹謗中傷するようなのはアウトじゃないの? 匿名のネトゲじゃあるまいしマナーって物があるだろ。


「マモコキラーの名が気に食わんか? だが田中マモコ、お前の名はどうだ。それは貴様の真の名か?」

「そ、それは……」


 ううっ、別に僕が文句言った訳じゃないのに。


「フン、名乗れんだろうな。人の名に異議を唱えるのならば、まずは自身を偽るのはやめろ。話はそれからだ」


 ぐ、ぐぬぬ……レスバも強いな天照タイヨウ。

 だが、論点をずらして人の痛い所を突くなんてテイマーの風上にもおけねぇ! 恥を知れ恥を!


「タイヨウ様、時間が迫っています。その様な者の相手は終わりにして体育館へ移動しましょう」


 背後で静かに控えていた蒼星アオイが声をかける。相変わらず鋭い目で僕を睨んだままだ。


「そうだな、行くぞ皆のもの! 体育館へと移動して準備を始める!」


 デカイ声で周囲に宣言し、天照タイヨウ達は僕を放ってスタコラと歩いて行った。

 と、思ったらトウヤ君の前で歩みを止めた。


「トウヤ、しばらく会わぬ内に成長した様だな。良い面構えになった。ソウルの波動も力強さに満ちている」


「えっ? あ、ありがとうございますタイヨウさん」


 突然褒められたトウヤ君、困惑しつつも満更でもなさそうな様子だ。


 後から来て仕切り出したあげく、手塩にかけて育てたトウヤ君に粉かけやがって、僕のトウヤ君を奪うつもりか? 

 ほら、ヒカリちゃんも胡乱げな目で天照タイヨウを睨みつけている。僕たちのトウヤ君を甘言で誘惑するなんて許せねえよな?


 そして、天照タイヨウ達の後に付き従う様にその場のソウルギア使い達も次々と移動を始めた。

 大勢の人の波が出来て周囲はガヤガヤと騒がしくなる。


「すまんなマモコ、今は時期が悪くてタイヨウも気が立っている。許せとは言わん。だが、本来は人を悪しざまに言う男ではないんだ。それだけは知っておいてくれ」


 トウカさんが僕の肩に手を置き、静かな声で語りかけて来た。

 いやまあ、向こうから見れば怪しいのは間違いないだろうからさ……腹は立つけど納得は出来る。


「気にしていない……とは言わないけど、心に留めておくわ」


「フッ、それで十分さ。マモコ、私はお前をチームに入れた事を後悔などしていない。その選択は正解だったと信じている」


 トウカさん、あったけぇ……


「ユピテルと共に例の件を頼むぞ……気を付けて行けよ、マモコ」


「ええ、任せておいて。トウカさん」


 目立たないように気を付けて、封筒をオッチャンに配達するだけだろ? 

 それに、その後は直帰してもいい楽チンなお仕事だ。楽勝だぜ!




 人の流れに気配を隠して紛れ、ユピテル君の待機している教室に向かって合流する。

 その後、ユピテル君と共にコソコソと人目を気にしながら小学校を出て3丁目のパーツショップへと向かう。


 町中には、そこら中にソウルギア使いや賞金稼ぎが溢れていた。

 先程天照タイヨウが召喚したドラゴンについて興奮しながら話をしている輩も結構いる。そりゃあ黄金のドラゴンは目立つよな。


「同盟会議は本当にお祭りみたいね。ほらユピテル君、かき氷の出店まで出てるわよ」


 今日の決起集会や、会議の一部内容は舞車町内のローカルTVで放映される。それを目当てに集まってる輩も多いらしい。

 そして、明後日から開催される交流戦では一般の挑戦者も募集するそうだ。

 そのバトルで活躍すると、ガーディアンとして取り立てられる事もあるらしく、そちらを狙って集まるソウルギア使いも多いのだろう。

 

 それ故に、同盟会議開催中の舞車町にはソウルギア使いの子ども達が大勢集まる。

 それを狙って出店や移動式の屋台などがそこら中で営業しているのだ。


「ああ、そうだな……」


 おいおい、どうしたユピテル君? いつもの君ならかき氷食べたいって騒ぐ場面だろう? 今日は朝から口数が少ないよね。


「ユピテル君、今日はなんだか元気がないじゃない。具合でも悪いの?」

「いや、トウカから任されたからな。気を引き締めてんだよ」


 はは、気合入れすぎでしょ。封筒を届けるだけだぞ? 

 それに、厳密に言えば君はクリスタルハーシェルのメンバーじゃないから仕事ではないし……まあいいか、やる気があるなら水を差す必要もないだろう。かき氷は届け物が終わってから食べるとしよう。

 

 ガヤガヤと賑やかな大通りの町並みを歩く。中途半端な人の多さではなく、ここまで賑わうと隠形は容易だ。


 オッチャンのパーツショップは3丁目の大通りを少し外れた路地でひっそりと営業している。

 目立たぬ立地に小汚い店構え、最初は違法な店かと警戒したパーツショップだが、目立ちたくない今の僕としては好都合だ。


 田中マモコがいないと天照タイヨウが騒ぎ出した時に、町中で目立っているとすぐに居場所を把握されてしまう。

 なので、トウカさんの頑張りで僕に対するヘイトが収まるまではひっそりと過ごす。

 トウカさんにもそうした方がいいと言われているし、僕も余計なトラブルはゴメンだ。


 上手い事目立たずに、パーツショップに到着する事が出来た。

 中が伺い知れない曇ったガラス戸を開く、相変わらず客を呼ぼうとする努力をしない店だ。


 カランコロンと、入口のベルが鳴る。目当ての店長はすぐに見つかった。

 カウンターの向こうで椅子に座り、棚の上に置かれたテレビを夢中で視聴している。客が来たんだから応対しろよ。


「店長、トウカさんから届け物があって来たの。仕事の依頼書よ」


「ああ……マモコちゃん。話は聞いているでゲス」


 テレビから目を離さずに店長はそう呟く。


 僕も、テレビの画面に視線を向ける。そこには第一体育館の様子、実質スタジアムの様子が映し出されていた。


 スタジアムの中央には椅子が5つのグループに分かれてセットされている。プラネットソウルズの主要5チームがあそこに座り、他のソウルギア使い達は観客席で決起集会を行うのだろう。

 だが、今は昼食会の時間なので人はまばらにしか映っていない。観客席で焼き肉弁当を食う奴等と、よくわからない機材やカメラなどを設置するスタッフだけだ。

 少なくとも、後一時間は経たないと決起集会は始まらないだろう。そんなモンを見て楽しいのか?


「はい、この封筒が依頼書よ。確かに渡したからね」

「むぅ、一番嫌な予想が当たってしまったでゲスね。町にも例の装置を設置されていた……決起集会を見ている暇はなさそうでゲスね」


 なんだか不穏なことを呟きつつ、店長は封筒を開き中身を取り出す。


「マモコちゃん、これは君宛の手紙でゲス。舞車町を出てから読む様に書いてあるからまだ読んじゃ駄目でゲスよ」


 店長は封筒から出て来た白い便箋を僕に手渡した。

 なんだこれ? 僕宛の手紙だと?


「これはトウカさんからの手紙かしら? それに舞車町を出てからってどういう意味?」


 少し嫌な予感がする。不穏な雰囲気だ。


「そのままの意味でゲスよマモコちゃん。この依頼書にはマモコちゃんを舞車町から安全な場所へと運ぶ様に書かれているでゲス」

「町から運ぶ? 私を? 店長が?」


 なんじゃそりゃ? そりゃあ、安全な場所は大好きだけどさ。


「その通りでゲス。アッシの本業は運び屋、依頼があれば何でも運ぶのがモットーの商いでゲス」

「え、パーツショップは副業なの?」


 確かに怪しいとは思っていたけど、運び屋って……


「あまり時間はないでゲスよマモコちゃん。舞車町がソウルワールドに包まれれば脱出がヒジョーに厳しくなるでゲス。ささっ、路地を進んだ空き地に愛車が停めてあるから行くでゲス」

「ソウルワールド? つまり組織が、EE団が襲撃して来るってことかしら」


 町をソウルワールドに包むのはアイツラの得意技だからな。

 でも、それなら逃げる事はない気がする。撃退すればいいじゃん。


「ちょっと誤解している様でゲスね。ソウルワールドを広げたり閉じたりするのは蒼星家に伝わる秘術でゲスよ。ソウルカードもその術を応用して作られている……お父さんに聞いたことがないでゲスか?」

「ええ、初耳ね」


 えっと、つまり蒼星家の誰かがこの町をソウルワールドで包むって事か? 僕を逃さないために?


「ムムム!? これは不味いでゲスね!? 恐ろしく強大なソウルの持ち主がこちらへ近付いて来るでゲス! 早く逃げるでゲス!」


 え? そんなの感じられないけど……店長もしかしてカワイイ僕を騙して誘拐しようとしてない?


「店長、一度トウカさんと連絡を取って確認を――」

「あー!! ここでお喋りしてる暇はねーぞマモコ!! 体育館にあの装置が並んでいる以上タイヨウ達の目的は明白だ!! ここでもたつけばトウカの覚悟を無駄にする事になる!! サッサと車まで行くぞ!!」


 店に入ってから沈黙を保っていたユピテル君が大きな声で叫びだした。


「ゆ、ユピテル君? 急にどうした――」


 あっ!? 確かに凄く強いソウルがゆっくりと近付いて来るのを感じる……凄えソウルだな!? 誰だ!? そして店長はソウル察知するの早えな!?


「マモコ!! いや、マモル!! このまま舞車町にいればお前はタイヨウ達の手によってプラネテスにされちまう!! 俺みたいな体になっちまうんだよ!! トウカはそれを察してお前を逃そうとしてるんだ!! だから早く行くぞ!!」

「へぁ!?」


 返事をする前にユピテル君に腕を引かれ、店の外へと連れ出される。


「ちょっとユピテル君、説明を――」

「昨日の夜トウカと話をして思い出したんだ!! 俺はユキテルの別人格じゃねえ!! ユキテルの双子の姉だったんだ!! ガキの頃に魂魄の儀でプラネテスにされた!! ソウルファクトリー五番炉の炉心に焚べる為にな!!」

「はあ!?」


 ユキテル君の双子の姉!? 五番炉!? 焚べる!?


 ユピテル君は僕の疑問などお構いなしにグイグイと僕を引っ張って行く。

 前を見ると店長はいつの間にか僕達の前を走っていた……店長足速えな!?


「いいかマモル!! 俺の場合はユキテルがソウルの中に俺を逃してくれたから炉の燃料にならずに済んだ!! だがな!! プラネットラボは新型のソウルラミネート技術を完成させた!! あれはプラネテスを特定の物質に閉じ込めて完全に逃さない為の技術だ!! もしもプラネット社に捕らえられたら一巻の終わりだ!! 永遠に炉心に閉じ込められるぞ!!」

「ええ!?」


 怖!? なんじゃそりゃ!? そんな非人道的な事してんのかよプラネット社!?


「あれが逃走用の車でゲス!! アッシの愛車に乗り込むでゲス!!」


 店長の指が指し示す先を見ると……軽トラじゃねえか!? あんなので逃げるのかよ!?


「乗り込むぞマモル!!」


 ユピテル君が僕を抱き上げ、そのまま軽トラの荷台にダイブする。痛い!? 頭打った!


「さあ! 振り落とされない様に掴まるでゲス!」

「待ちなさい!! 田中マモコを何処に連れて行くつもりですか!?」


 急に軽トラの前に躍り出た人影が叫ぶ。

 あれは……誰だ? 声の主は背の低い女の子、腰のホルダーから言ってシューターだろう。


「ちっ、誰だ? プラネット社の手先か?」


 いや、カワイイ僕が誘拐されてると勘違いした正義の一般人かもしれない。


「えーと……誰かしら? もしかしてプラネット社の手先――」

「はあ!? さっき校門前の広場で会ったじゃないですか!? あれだけ視線でサインを送ったのに無視して消えちゃうからすっごく探したんですよ!?」


 さっき校門前の広場で……ああ! 水星ミズキのチームメイトの中で一番睨んでいた女の子だ!


「水星ミズキのチームメイトね、婚約者の一人の――」

「違います!! 私をあんな気持ち悪い男の婚約者にしないでください!!」


 違うの? 十番目の婚約者がどうとか言ってたからてっきりチームメイト全員が婚約者なのかと思っていた。


「私は身も心もミナト様に捧げたメルクリウスガーディアンズ!! ミナト様が最も信頼する部下である青神ミオ!! 情報を得るために学園に潜入して、あのボンクラの部下の振りをしていただけです!! 失礼な事を言わないでください!!」

「ご、ごめんなさい」


 気持ち悪くてボンクラって、そこまで言わなくても……ん? ミナト君の部下? メルクリウスガーディアンズ?


「もしかしてアナタは……ソラ君の言っていた新しい仲間で連絡員?」

「そうですその通りです! じゃんけんに負けたせいで二年間もスパイ活動する羽目になりました! 半分はアナタのせいですからね田中マモル!」


 ぼ、僕のせいにされましても……


「これでようやく辛いお勤めも完了です! さあ田中マモル! 私に付いてきなさい! 町の外のランデブーポイントまで案内します! カロンでミナト様達が迎えに来る手筈です! ああ、ミナト様ミオがもうすぐ……」


 カロンって何? ランデブーポイントってのも意味が分からん。

 でも、迎えって事はみんなは中国から帰って来た様だ。

 それはもの凄ーく助かる。みんなと一緒ならプラネット社もそう簡単に手出し出来ないだろう。取り敢えず匿って貰えそうだ。


「カロン? なるほど、確かに冥王のダンナがミカゲお嬢様に持ってかれたって嘆いていたでゲス。あれなら安全にマモコちゃんを運べる……ミオちゃん! 案内よろしくでゲス! アッシの愛車でランデブーポイントまで運ぶでゲスよ!」

「気安く名前を呼ばないで下さい! 男の人は嫌いです!」


 文句を言いつつも助手席へと乗り込むミオちゃん。

 男の人が嫌いって……ミナト君だって男の子じゃん。難儀な子だな。


「よし! 発進するでゲス!」


 僕を荷台に乗せ、勢いよく……って訳でもなく。ゆっくりと安全運転で走り出す軽トラ。遅すぎない?

 だが、近付いて来る強大なソウルの持ち主は速度を変えずにゆっくりと進んでいる様だ。この速度でも余裕で逃げられるだろう。取りあえず追い付かれる心配はいらなそうだ。


 正直逃亡なんて非常に不本意で、事態を全然把握しきれていない。

 だが、三人の真剣な様子から僕の身に危険が迫っており、トウカさんが僕を逃してくれたのは真実だと理解出来る。


 安心と安全の為には逃亡もやむを得ない、僕の身の安全は何に置いても最優先される。

 ぐぬぬ……舞車町での生活は上手く行っていたのに。プラネット社と天照タイヨウのせいで台無しだ。


 はぁ、クリスタルハーシェルのみんなにお別れだって言えなかった。次に会えるのは何時になるかな……

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