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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

仮初の強奪人



世界は理不尽で出来ている。

神様は14歳の誕生日に平等にひとつのスキルを授けるが、そのスキルひとつで人生ってのは左右される。

ましてや、『スキルが無い』人間なんて居たらこの世はまさしく地獄だろう。


俺様が冒険家と言う職業に就いたのは、14歳の誕生日の事だった。

ギルドに入る事を決める人間は、14歳の誕生日、つまりスキルが発現する日に入る奴が大半だ。

それなのに、あのガキは10にも満たない年齢で入りたいってほざきやがった。

だからな、ギルドの受付からあのクソガキの年齢とギルドの加入希望が聞こえた時は思わずこう言っちまった。


「ここはガキの遊び場じゃねえんだ。帰った帰った。」


俺様が言わなきゃ多分誰か他の奴が言ってただろうさ。

スキルも無しにモンスターと戦うなんて自殺行為と変わらんからな。

子供が好きって訳じゃ無いが、黙って見殺しにする訳にもいかんだろう。

そんな気持ちを込めて子供の方に言った筈なのに何故だか受付嬢がしゃしゃり出てきた。


「アイロンさんは黙っていて下さい。」


なんだこいつ。もしかして俺様喧嘩売られてます?

子供を危険に晒すのは駄目だろうって事で汚れ役を買って出た相手に対して黙れってこいつまじか?

可笑しいな。受付嬢が言わなきゃなんねぇ説明をしただけなんだが?この街でもそこそこの腕っ節で、ギルドからの要請も断る事なく信頼関係とかも築いて来たと思ったんだけどもあれ?

なんで喧嘩売られたんだ俺様。

そんな感じの思考が止まらなくて頭を駆け巡りグツグツと黒い感情が沸き起こる。

ここまでの長い思いを一文で言うならばまじでキレた。これに尽きる。

つまり次の言葉がこうなってしまったのは仕方の無い事だ。


「あ"?やんのか?」


一触即発。

互いの考えを理解し合えぬままに睨み合い、ギルドの中は俺様に声援を送る音だけが響く。


「やっちまえ兄貴!」

「こんなガキなんざけちょんけちょんにしてやってくだせえ!」

「そうだそうだ!ここはガキはお呼びじゃねえんだよ!」


いつもの顔馴染みのメンバー、ギルドによく居る連中は俺様の言っている事を正確に理解した上で便乗する形でクソ汚い言葉を浴びせる。

あまり関係のない事だが、俺様を兄貴って言った奴とは同期である。老けてるって言いたいのかファッキンクソ野郎後で覚えとけ。

このままクソガキが帰れば何事も無かったかのようにいつも通りのギルドに戻るだけだろう。

もし、このクソガキが帰ろうとしないならば…


「ユキさん、僕は大丈夫です。手続きを済ませて下さい。」


その言葉に一瞬、全員が顔を見合わせた。

嗚呼、長い付き合いだからこいつらの大体の考えはわかる。


(なんか面倒な予感がする。)


そう思っているのだろう。

こんな子供がギルドに登録したいって理由で来るのは、子供故の好奇心や冒険家への憧れから登録に来る、もしくは金が無いとか親が死んだとか何かしらの理由で来る場合。

後は良いところのボンボンが変な理由で来る場合。

このクソガキのこの落ち着きを見るに、強面の男達に罵声を浴びせられてこんなにも平然とした態度を取れるのは確実に好奇心や憧れじゃないってのは確かだ。

ああ、クソ、何にせよ厄介ごとだな。

どうするかな。


「なんの騒ぎだい?うるさいったらありゃしないよ。」


ギルド長のババアがやって来た。

本名はバーバラ=アストラムとか強そうな名前で、見た目もやけに威厳があって強そうなのにもかかわらず、ギルド長は事務職なので弱いらしい。本人が酒の席で言ってた。

そんな強さの真偽の有無はともかく、この場を収める為に来た事は間違いないだろう。ありがたい。


「ギルド長、アイロンさんが新人君に突っかかって来て仕事が出来ません。どうにかしてください。」

「…は?いやちが…」


…えっ?職務怠慢なのは受付嬢だろ?

そう思ったが急な口撃に対応しきれずどもり口調になった。


「なんだいアイロン、新人イビリかい?そんな事より緊急依頼だ、さっさと用意しな。他の奴等は新たな出現報告が来たら順次出動、出番の無い奴等はスタンピートの予兆に備えて待機だ!分かったら散れ!」


よりによってこのタイミングで来たのか。

ここ最近、魔物の増加が激しいからそろそろだろうと思って何人か持ち回りでギルドに常駐していたが…ガキが気になるが仕方ない、行くか。


そう思い俺様は剣を片手にギルドを出たんだが、この時に剣を持つ手に少しだけ違和感を感じていた。

身体の調子が悪いのかと思っていたが、今思えばこの時にはもうやられていたんだろう。

剣がやけに重く感じたあの手の感覚が、未だに忘れられない。




魔物はすぐに退治された。

魔物を倒したのは俺様じゃ無い。とある新人が颯爽と魔物の群れを全て退治したそうだ。

とある新人とは言うまでもなくあのクソガキだ。

あの年でスキルがある訳が無いから純粋に腕力かなんか魔物に通じる程度に一芸に秀でてたんだろう。

世の中には例外ってもんがあるもんだなと思いつつ、魔物に関してギルド長にこう報告した。


「ギルド長、今回の依頼失敗に関してだが。」

「なんだいアイロン、ガキに良い所を取られたからって難癖付けようとかだったらお断りだよ。」

「んな事でとやかく言うかよ。今回の魔物なんだが、俺様の剣術が一切効かなかった。最初は変異種かとも思ったが、いつも見る魔物と毛色や体格に変化が無い、それに加えて一頭だけ特別なんて事は無く、どの魔物にも通じなかった。なんとか逃げ帰れだが、あれは明らかに異常だ。」


俺様はこの時点では、異常なのは魔物であり、自身の力の喪失であるとは考えてすらいなかった。

この報告によってどう言う事が起こったかと言えばだ。


「アイロンさん、ギルドへの虚偽報告により貴方のギルド討伐員資格を剥奪します。」


ギルドから嘘つき呼ばわりだ。

曰く、新人の力量を見るために何名かのギルド職員と討伐員を連れていた為、魔物の強さに変わりなかった事は確認出来ている。お前みたいな問題のある嘘つきよりも伸び代のある新人の方が大事だから二度とギルドに来るなという事だそうだ。


ふざけるなと叫んだ。

だが決定は覆らない。

今までこのギルドに貢献してきた筈なんだ。

ここで生まれ育ち、ここに居る奴等と全員顔見知りで俺様がそんな事する訳がないと分かっている筈なのに、新人に罵声を飛ばしていた奴等も手のひらを返して俺様への罵詈雑言を吐き捨てやがる。

ギルドへの虚偽報告による違反金を取られただでさえ少ない貯蓄は少なくなり、稼がなくては生きていけないが、こんな小さな町で問題を起こした俺様を雇う店なんてあるはずもない。


別の町に稼ぎに行くしか思い浮かばなかった。

だけども町の外はちょうどスタンピート、クソガキが多少片付けたとは言え未だに魔物共がうじゃうじゃ居るときたもんだ。

だが、ここに居たって仕方無え、魔物を見てもなるべく逃げに徹していれば何とかなるだろ。

そう思いながら荷造りを終えて町を出た。


何とかは、ならなかった。

剥奪されたなら、不要だろうと手入れを欠かさなかった相棒の剣と鎧を手放した。

それでも、俺様のスキルは身体能力上昇、足にもそこそこの自信があり、俺様は別の町まで行ける筈だった。

なんでこんなに重いんだ?なんでこんなに動けないんだ?なんで俺様は魔物共に囲まれているんだ?なぁ、誰か教えてくれよ。


俺様は一体何をやったんだ?


そう思った時だった。

俺様は俺様を見た。


一閃


二束三文で売っ払った剣を払うだけで魔物の頭が胴体とサヨナラをした。


一歩


踏み込んだその足は常人のそれを逸脱したナニカだった。


だが、俺様はそれを見た事がある、いや、あれは俺様だった。

普段ではそんなぶっ飛んだ思考回路にはならない。

だが、鈍くなった身体と、魔物に囲まれた恐怖。現れた鮮明な子供でありながら卓越した身体能力に呑まれた俺様は不運にも正解を導き出してしまった。


「…返せよ。」

「助けたのに、礼のひとつも言えないんですか?」


腹が立った。誰のせいでこうなったと思っているんだ。ふざけるな。なんで俺様なんだ。

そんな感情は言葉よりも先に、身体が前に出た。


「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


何も持っていない俺様の、全身全霊を込めた握り拳はひょいと躱され、ついでと言わんばかりに足をかけられ無様に転んだ。

倒れた俺様を見下したクソガキを見て色々と思った事もあるし言いたい事や恨みも大量にあるが、口から出たのはこんな言葉だった。


「仮初の強奪人。」


急に出て来た言葉だが、目の前のコイツにはお似合いの名称だと思った。

俺様の言葉に訝しげな顔をしてクソガキがこちらを観ているのでさっきの言葉にこう付け足す。


「お前の二つ名だ。自分の物なんて何一つなく、人の物を奪い、これからも奪い続ける。お前にピッタリだろう?」

「そんな事は無い!!悪い事をした奴からしかスキルは盗ってない!!」


嗚呼、やっぱり、理屈は分からんが、コイツだったんだな。


「俺様、お前に殺される様な悪い事なんてしたか?」

「僕は、お前を殺すような真似なんてしてない!!」


いつもなら怒り狂う言葉だろうが、空っぽの奴に何を言ってもどうにもならないって分かったから事実だけを伝える事にした。


「普通の人間はな、モンスターと戦う時、戦闘スキルが無けりゃ死ぬ。普通の人間がモンスターと戦わずに食って生きていくにも、スキルが無けりゃ稼げない。お前が気軽に人から取り上げたそれは、お前が自分のものにしたそれは、命みたいなもんだ。」

「黙れ!それ以上口を開くと僕はお前を殺す!」

「やりたきゃやれよ。」


こんなクソッタレな思いを抱えて惨めに生きるぐらいなら、死んだ方がマシだ。


「なぁ知ってるか?泥棒って極悪人なんだぜ?」


どうせ死ぬんだ、最期まで俺様らしく煽り散らかしてやるよ。

そう思い、中指を立てて笑った。


クソガキが剣を振り下ろして叫んでた、ざまあ見ろ、人殺しの大悪党。お前の人生、俺様よりも大悪党だぜ。

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