男爵令息だって、ざまぁしたい。
男性から女性に対する婚約破棄からのざまぁって良く見るけど、女性から男性への婚約破棄ってあまり見ないから自分で書いた。もっと増えてくれないかなあ。王女様が手酷く婚約者振ってざまぁされるやつ。
「モナカ・ヤツハシ様!私、エリーゼ・ルマンドはこの場を持って貴方との婚約を破棄致します!」
ブルボン王国、ルマンド公爵の邸宅内、大広間にて盛大に催されていた一人娘であるエリーゼ・ルマンド令嬢の18歳の誕生日と成人式のパーティーの真っ最中に響き渡ったその声に、賑やかだった話し声も、耳に心地よく響いていた楽団の音楽も一瞬にして静まり返った。
人々がその声に振り返ると大広間の一番目立つ場所、パーティーの主催者が陣取る位置に一組の男女と少し離れた所に一人の男性が立ち尽くしていた。
女性は言わずもがなエリーゼ・ルマンド嬢、そしてその隣に立っているのはバームロール伯爵の次男であるアルフォートであった。
綺麗に結い上げた黄金にも勝るであろう金髪は、この日のために用意したであろう純白のドレスに良く映えていた。しかし、ブルボン王国の至宝と言われたその美貌は今、緊張のためか微かに震えながら目の前の男性、モナカ・ヤツハシを見つめていた。
そしてエリーゼ嬢の隣に立つアルフォート卿は彼女を優しく支えつつ、優越感に浸った顔で同様にモナカを見ていた。
「エリーゼ様、それは一体何故でしょうか?幼少の時より私は貴女に私なりに愛を育もうとしていたのですが」
対するモナカ・ヤツハシ卿の容姿を見てみると・・・これが酷い。決して高くはない身長に小太りの体型、そして人よりは魔物寄りの顔。
今のアルフォート卿とエリーゼ嬢が並んでいる姿が芸術だとすれば、モナカ公とエリーゼ嬢が並んでいる姿は滑稽絵にすらならないであろう。
「フッ、そんなこと、言わなければ判らないのかい?そんな顔でエリーゼ嬢と釣り合うと思っているその厚顔無恥がその理由さ!エリーゼ嬢は優しく慈悲のあるお方。お前の方から婚約を辞退するのを今日まで待っていたのに辞退しなかった。だからこそ私が相談に乗り、今日この日に婚約を破棄することにしたのさ!」
震えながらもこちらを強く見る目に、自分は『まあそうだろうなあ』とむしろ同情するような目で見つめ返した。
確かに自分の容姿は酷い。自分で見てもそう思う。しかし、それには深い理由があるのだ。彼女・・・エリーゼ嬢も覚えていると思ったがもう忘れてしまったのだろうか。アルフォート卿の言を否定しない彼女にもう彼女への愛は残っていないが、それでも私がしてきた行為を無駄にしたくないためだけに私は彼女に最後のお願いをすることにした。
「わかりました。今までエリーゼ様の温情に気付かず申し訳ありません。慎んで婚約破棄を受け入れさせて頂きます。ただ、最後に一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「・・・それは一体なんでしょうか?」
婚約破棄を受け入れられホッとしたのも束の間、最後のお願いと聞いて身を強張らせる彼女に、モナカ公は一言こう言った。
「その婚約指輪を誕生日が終わるまでつけておいて下さい。私の願いはそれだけです。」
私はそういわれて左手を見た。薬指に嵌まっている銀色の何の変哲もない指輪。思えばいつ頃から嵌まっていただろうか。
小さい頃、私は病弱だった。一年のほとんどをベッドの上で過ごす毎日。熱に浮かされ苦しむ私はいつしか死ぬことばかりを考えていた。
そんな毎日が終わったのは一瞬だった。ある日、左手に指輪が嵌まり、私に婚約者ができて、私は病気にかかることは無くなった。
多分、私が病気にかからなくなった理由はこの指輪のおかげだろう。しかし、私はもう健康になった。そして綺麗になった。もうこの指輪がなくても大丈夫。これから輝かしい未来が私を待っているだろう。そう考えると、このような指輪が逆に私を縛る呪いの指輪に見えてきた。
「いえ、婚約を破棄する以上、指輪はこの場でお返しするのが正しいでしょう。」
彼女はそう言って私に近づいて来た。
・・・残念だ。これで私の10年は無駄になった。彼女は私の目の前に立つと指輪を外し、私の手のひらに置いた。その瞬間。
指輪から膨大な光が溢れた
光が落ち着き、ようやく周囲を確認できるようになった私は、目の前に立っていた筈のモナカ卿が変わっていることに気がついた。
180センチは越えているであろう身長に端正な顔立ち。ただ、その顔は憐れみを湛えた顔でこちらを見ていた。
「昔、貴女はとある魔女の呪いによってその体を蝕まれていました。苦しんでいる貴女を見て、私はこの体に呪いを移すことを決めたのです」
そう言われて思い出した。熱に苦しんでいるとき、小さな男の子が優しい顔をして『君はボクが守る』と言ってくれたこと。そして指に銀の指輪を嵌めてくれたことを。
「結局呪いを解く手段は見つかりませんでした。それでも18歳の成人になるまでの間、この話を決して外に漏らさず指輪を嵌めていれば、その呪いの対象は完全に私に移るはずでした。公爵様は私に済まないと仰って貴女の婚約者にしてくださいましたが、私はその婚約は破棄するつもりでした」
モナカ卿は寂しげに笑いながら話を続けました。
「身分違いもさることながら、決して貴女は私を見ようとはしてくださいませんでした。私なりに貴女を幸せにしようとしたのですが、結局は貴女の側を離れる事こそが貴女の幸せになるとわかったのです」
そう言ってモナカ卿は完璧な礼をして立ち去っていった。
大広間から出る際、私は彼女に言った。
「先程も言ったように、私が身代わりに受けていた呪いは全て貴女に還りました。今までのような容姿でも健康でも無くなりますが、どうか頑張って生きて下さい。私からの心からの祈りです」
大広間の扉を閉めるとき、彼女の叫ぶ声が聞こえた気がした。しかし、重厚なドアからは一切の音は聞こえなかった。
「そう言えば令嬢からの婚約破棄って余り見たことないなあ」と思って数時間で書き殴った初めての短編。どうやら中世設定のなろう世界では女性からの破棄は、はしたないと思われている様子。もっと増えてくれたら自分が嬉しい。
という訳で、自分の様にもっと女性からの婚約破棄物読みたい方は、高評価して頂いてランキングに載れば増えると思います。
登場人物名前はそのまま某洋菓子メーカーの商品と和菓子から。まあ、相性悪いよね、って感じで。
もう少し肉付けして話を膨らませればもっとわかりやすくなったと思いますが、たまの休日の合間ではこれくらいが限界でした。ごめん。
10月24日追記
この短編を投稿してから一週間経ちました。多数の評価、ブックマーク、そして感想ありがとうございます。
皆様の大切な時間を貰うだけの文章を書けているかどうかは分かりませんが、それでも一生懸命書きました。
ぶっちゃけタイトル登場人物の名前で成り立っているような作品ですが、これを機に女性からの婚約破棄ざまぁ物が増えてくれる事を切実に願います。
感想頂ければ出来るだけ返信致しますのでお気軽に書いて頂けたらと思います。
読んで頂いた全ての方最大限の感謝を。