九.冒険にはやっぱりメロン
「あ、あのレイ様」
「ん、どうした? アン」
絹で出来たエルフの服とベルト、皮のブーツという軽装。〝頂き物〟で身を固めたレイ。戦闘時にはルシアの力で漆黒の軽鎧姿になるのだが、今は目的地へ向かう道中であるため、ルシアの闇闘気による鎧を纏っていないのである。
「鎧を纏っていない状態でも、ルシア様とレイ様は一体化しているのですよね?」
「え、ああ。そうだな」
あまりレイは普段意識しないようにしているが、彼と闇精霊ルシアは魔力と生命力の核となる心核がひとつとなっており、文字通り一体化している状態であるのだ。
【ん、私が居ると不都合でもあるのかしら? アンちゃん?】
「ひゃうっ!? べ、別にそんな事はありません!」
どうやら脳裏へと伝えるルシアの声は、レイだけではなく、指定した対象にも聞こえるよう調整出来るらしい。突然ルシアの声が聞こえたものだから、素っ頓狂な声をあげて驚くアン。
(レイ様を独り占めしたいだなんて、これっぽっちも思っていませんからっ!)
必死に弁明するアンがそんな事を考えているとは、レイはこれっぽっちも思わないのである。
エルフの族長エルメシアンと密約を交わした翌日、アンはレイのパーティの一員として、里を出る事となった。
まだ旅を始めたばかりで装備品や資金の準備もないため、まずは次なる目的地を風の国の中心である風の谷に決める。道中出くわす魔物を倒し、資金源となる素材を集めつつ、中心部へと向かう算段だ。
「エルフの里へ到着する前から思っていたけれど、風の国は見た事のない植物や動物がいっぱいだね。あの大きな桃色の花はなんだい?」
「あれはお辞儀桜草ですね。ほら、こうして花を撫でてあげるとお辞儀して花の蜜をくれるんですよ?」
花弁を優しくアンが撫でると、花がぺこりとお辞儀をし、アンが懐より取り出した小瓶に黄金色の蜜がぽたりと落ちた。
「このお花の蜜は咽喉にいいんです。歌姫は声が命ですので。調合して毒の治療にも使われるので素材としても売れますよ」
「へぇー、そうなのか」
素直に感心するレイの様子にアンも得意気だ。
「そこにも大きな赤い花があるな。あれは素材になったりするのかい?」
「あ。いえ、その花は近づくとぱっくり頭から人間を食べてしまう血塗赤椿ですので近づかない方が……」
そうアンが言い終わる前に大きな花を口のように開き、レイをぱっくり食べようとするブラッティカメリア。魔物ランクは低等級の上にあたる中等級。駆け出し冒険者ならぱっくり食べられて冒険終了だったのかもしれないが、レイはそんな失態を晒さない。
「残念だな。綺麗な花のままなら散る事もなかったろうに」
既に顕現させていた漆黒の魔剣。右手を頭上にあげ天に掲げた事で、魔剣はブラッティカメリアの花へ突き刺さり、そのまま振り下ろされた魔剣によって胴体ごと真っ二つになる植物型魔物。
「流石です、レイ様♡」
魔剣を横に払い、振り返るレイの姿にうっとりするエルフ。
すると、遠く――森の奥で何かの獣が咆哮する声が聴こえる。どうやら、獣の群れが近づいているらしい。
「あれは……銅等級――はぐれ狼ですね。このままだと交戦する事になりそうです……」
「アン、この距離で視えるのか」
「エルフは他の種族より眼や耳がいいんですよ」
エルフは他の種族よりも視力と聴力、更には魔力感知などに優れているらしい。やがて、だんだんと狼の群れの駆ける足音が近づいて来る様子がレイにも認識出来るようになる。漆黒の魔剣と軽鎧を顕現させ、ルシアの力で殲滅させようと準備するレイだったが。
「待って下さい! レイ様。私、一緒に旅へ出ると決めた時から決意していました。足手纏いにはならないって。接近戦での剣戟だけでは群れなす狼の攻撃に対処出来ません。此処は私に任せて下さい」
「え? でも、アン。どうする気なんだい?」
ゆっくりと深呼吸をし、息を吐くアン。清心な空気がアンを包み、彼女を中心として、周囲が静謐な空間へと変化していくよう。エルフの少女が創り出す凛とした雰囲気に、レイも息を呑む。
――森の息吹は 森へ還る
鳴いた風は カワセミとともに
凪いだ波は 夜の静寂に
虫のさざめきも 吼える獣も
陽が沈めば 微睡のとき
いま母なる息吹に抱かれ 彼の者たちにシルフの祝福を
旋律は風――奏でるは声。歌姫は森の中、歌を歌う。心安らぐ聖母のような、優しい旋律。心地いい旋律に、レイも心が洗われるようだった。
【アンちゃん、素敵な歌声ね】
「ああ」
ルシアもレイと共に、その奏でる旋律に耳を傾けているようだった。やがて、両手を握り、風の旋律を奏でていた彼女が歌い終わり、レイへ優しく話しかける。
「終わりました。見て下さい」
「こ……これは凄いな」
群れを成してこちらへと向かっていたはぐれ狼は、一斉に足を止め、なんと丸くなった状態でぐっすりと眠りについていたのだ。〝風精霊の子守唄〟という歌姫独自の歌スキルらしい。
緊張の糸が解けたのか、アンがレイへとダイブして来る。
「よ、よかったです……私のスキルは中級スキルなんです……銅等級相手だと、集中しないと効かない事もあるんです」
「ま……待てアン……当たってる……当たってるぞ……」
アンがレイの鍛え抜かれた胸へと飛び込んで来た事で、エルフが持つ二つのメロンが強制的に押しつけられていたのだ。これぞ強制メロンダイブである。
「きゃっ……これは違うんですごめんなさい」
「嗚呼、気にしなくていいから」
顔を真っ赤にして両手を振り振りするアンと、居た堪れない気持ちになるレイ。
【お二人共。お楽しみのところ失礼するけれど、狼さんが眠りから覚ます前に、仕留めておいた方がいいと思うわよ?】
「え?」
「あ!」
ルシアの忠告に従い、眠りから覚めかけていた数十匹のはぐれ狼達を慌てて仕留めるレイなのであった。
【冒険にはやっぱりメロンね~】
「あの、その回復薬のキャッチコピーみたいな扱い困りますルシア様」
レイの中でメロンの感触を堪能した闇精霊ルシア――後の発言である。
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