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七.決闘

 翌朝、族長から話があると呼び出されたレイは、再び族長の家へとやって来ていた。

アンと、お付のエルフも既に彼の到着を待っていた。


「レイ殿。アンから既に話は聞いていると思うが、アンはのぅ、精霊の意思を伝える〝里の巫女〟として育てられた存在なんじゃよ」


「ああ、本人から聞いている」


「でじゃ。レイ殿。お主の旅に、アンを連れてってはくれぬか?」


「何?」


 族長直々の予想だにしない申し出に驚くレイ。アンは決意に満ちた眼差しでこちらを見ている。族長のお付だけが何か不服そうな表情をしている。


「それはどうしてだ?」


「お主のその力には、彼女の力が必要じゃからぞよ」


 族長はやはり、レイが闇精霊ルシアと契約している事に気づいていたらしい。しかも、闇精霊と契約する事は、単にメリットばかりではないと言う。


「闇とは時に己を蝕むもの。己の精神で制し、使い(こな)さねば、やがて呑み込まれ、暴走してしまうぞよ。そうじゃろう? 闇の精霊姫ルシア(・・・・・・)よ」


 族長の呼び掛けに、レイの身体から黒い靄のようなものが噴出し、漆黒の衣に身を包んだ紫髪の闇精霊が顕現する。お付の青年エルフは突然の光景に目を丸くする。


「お久し振りねエルメシアン。その精霊姫って呼び方はやめてくれないかしら?」


「儂は事実を述べた迄じゃよ、ルシア殿」


 どうやらエルフの族長とルシアは深い関わりがあるらしい。レイは二人の会話する様子を静観しつつ、先程の族長が言った言葉を脳内で反芻していた。


(闇は時に己を蝕む……ルシアとの契約にはリスクを伴うという事か)


 彼はそう思いつつも、あの場に選択肢が無かった事を思い出す。死よりも重いリスクなど存在しないのだ。


「確かに闇と一体になるという事は、自らが闇そのものになる危険を孕んでいる。だからこそ、そこに居るエルフ、アンちゃんの巫女としての力が鍵なのよ」


「レイ様、不束者ですが、よろしくお願いします」


「あ、こちらこそよろしく頼……え? いや、ちょっと待て!?」


 アンが二つ実った果実をぷるるん、ぷるるるんと震わせ、尖った耳をピンと立てた状態でお辞儀をするものだから、場の流れでお辞儀を途中までしたところで慌てて突っ込みを入れるレイ。


族長は満足そうにその様子を眺めている。若干族長の視線がエルフの豊潤な果実へ向いているような気もしないでもないが気のせいであろう。


「えっと、族長。それにルシアも。話がいまいち読めて来ないのだが。つまり、その精霊の意思を伝える巫女の力と俺がルシアの力を扱う事に、深い関わりがあるという事なのか?」


「そうじゃのぅ。まぁアンを連れていって欲しい理由は、他にもあるのじゃがの。アンはのぅ、精霊の意思を言葉として紡ぐ〝歌姫(ディーヴァ)〟としての力が備わっておるのじゃ」


「簡単に言うと、巫女が紡ぐ〝精霊の歌〟には精霊の力を援助したり、逆に力の暴走を制御する力があるんです。まだ巫女としては未熟ですが、御力になれるよう頑張りますので」


 レイの質問に、族長とアンが続いた。つまりはレイが闇に呑まれそうになった時、彼女の力でその暴走を止める事が出来るという話だった。ルシアがエルフの里へ彼を促したのは、どうやら偶然ではなかったらしい。


「ま、そういう事ね。アンちゃん、よろしくお願いするわね」


「は、はい。ルシア様」


「ちょっと待ってくれ!」


 アンとルシアが握手を交わしたところで、それまで族長の横で黙っていた端正な顔立ちの金髪碧眼のエルフが重い口を開いた。


「どうしたのじゃガルシア?」


「族長、こんな突然現れた素性も分からぬ男に、アンを任せるというのですか!? そんな話、認める訳にはいきません!」


 首の後ろで束ねた男の金髪が激しく揺れる。族長とレイの間に割って入り、アンを連れていく事に反対するお付のエルフ。


「闇精霊ルシアが認めた男じゃよ。我々は精霊女王の意思に従い、導かれるのみ。こうなる事は運命じゃて」


「ですが!」


 エルフの男が反対するのも無理もない。少なくともレイもそう感じていた。突然現れた少年が、里の巫女を連れていくという話が出たなら、反対する者が出る事も当然の流れだった。


「ガルシア、わたしは大丈夫だから、心配しないで」


「いや、いけない。闇精霊と契約するような男だ。こんな奴についていったら、奴隷にされて闇市場へ売られるのがオチだぞ!」


 ガルシアのその発言に、思わず眉尻が上がるレイ。元々正義感の強いレイにとって、女性を奴隷として売るという事自体、有り得ない行為だったのだ。


「俺はそんな事しない。ガルシアさん」


「いいや、分からんぞ。それに、どうせ闇精霊も力欲しさに契約したのだろう。こんな力も無い、闇の力へ走るような少年の旅にアンを預けてしまっては、アンの命が幾つあっても足りない」


 どうやらこのエルフは最初からレイの事を信用してはいなかったらしい。鼻を鳴らした状態で、互いの距離が近づく。レイがどうするべきか思案していると、それまで静観していた闇精霊が二人の間に割って入った。


「力が無いかどうか、あなたの眼で確かめてみてはどうかしら?」


「ルシア?」


 ルシアの思わぬ提案に彼女の方へ向き直るレイ。すると、ガルシア側に居た族長も……。


「それは名案じゃのぅ。ガルシア。精霊と契約した者と手合わせするなどなかなかない機会ぞよ。〝レイ殿とガルシア殿で一騎討ちをする〟というのはどうじゃ?」と進言する。


「ふ、こんな少年にオレが負ける訳がない」


「いいだろう。そこまで言うのなら、この勝負、受けて立とう」


 互いに視線を交錯させたレイとガルシア。族長へ促され、そのまま彼等は里の広場へと移動するのだった。


『おいおい、決闘だって?』

『なんでもアンを賭けた試合だってよ?』

『マジかよ、ガルシアは里一番の戦士だぜ、あの少年大丈夫か?』

『きゃぁあああ! 女を賭けた男の戦いなんて素敵だわ』


 いつの間にか広場には里の住民であるエルフ達が集まって来ていた。広場中央にはレイとガルシアが向かい合う状態で立ち、族長が立会人として二人の間に立ち、審判役を請け負っていた。


「互いに戦闘続行不能となった時点で決闘は終了じゃ。レイ殿が勝てばアンは巫女としてレイ殿の旅へ同行する。ガルシアが勝てば、アンは里に残る。それでよいな」


「わかりました」


「異論はない」


 互いに頷くレイとガルシア。アンは、静かに二人の様子を見守っている。


「それでは、両者。いざ尋常に、勝負。始め!」


 族長の合図と共に、レイは漆黒の軽鎧と漆黒の剣を顕現させ、ガルシアは腰に携えていたレイピアを引き抜く。


そして、レイの目の前……。

――刹那、彼の眼前からガルシアの姿が消えた。


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