六.むっつりエルフ
脱衣所で一人――エルフのアンは悶えていた。
自身を救うため、颯爽と現れた王子様。自身を闇騎士と名乗る少年が戦う凛々しい姿。
脳裏に焼き付いた彼の姿を思い浮かべつつ、白のチューブトップと茶色のショートパンツを脱いでいくアン。清楚な様子からは想像つかない桃色の下着上下が露わになる。
「嗚呼……レイ様……なんと凛々しい御姿。今頃はきっとお風呂に……」
鍛え抜かれたレイの身体を想像するだけで顔が綻び、口が半開きになるアン。
「えへへ……あ、いけない涎が……」
えっちぃのは嫌いと言いつつも、彼女はどうやら想像力豊かなエルフ……つまりは〝むっつりエロフ〟らしい。石鹸で泡を立て、ミルク色の肌を丁寧に洗っていく。すると彼女の背後より大人びた女性の声が聞こえる。
「お背中流しましょうか?」
「あ、ありがとうございます」
あまりにも自然な流れに成すがままお湯をかけられるアン。アンを覆っていた泡が流れ落ち、ミルク色の艶々な美しい肌が露わになる。
「予想通りの素敵な肢体ね。さすがエルフの巫女ね」
「きゃっ……誰!?」
突然現れた紫髪の女性に驚くアン。ルシアは優しく微笑み、産まれたままの姿でアンへ近寄る。
「誰って……視えていた筈よ? エルフの巫女は契約した精霊の姿も視える。違うかしら?」
「という事は……やはり、レイ様を覆っていた闘気、あなたのものでしたか。確かにレイ様の心核に朧気ながらあなたの姿を視ていました。闇精霊ルシア様」
自身の果実を両手で隠した状態でルシアの正体を言い当てるアン。ルシアは満足そうに頷く。
「ルシアさんでいいわよ? ねぇ、せっかくお互い裸なんだし、湯船に浸かって話しましょう? 聞きたい事もあるんでしょう?」
「え、あ……はい。わかりました」
こうして、アンとルシア。女同士の裸の付き合いが始まるのである。
闇精霊ルシアが自身の身体から離れた後、レイはゆっくりと湯船に浸かり、疲れを癒していた。
「これまで怒涛の日々だったな……」
仲間に裏切られてからこれまでの、怒涛の日々を振り返るレイ。思い出すだけで沸々と湧き上がる怒り。復讐を誓い、闇騎士となった少年は負の感情を少しでも忘れるため、今はこの露天風呂の温もりに身を任せようと思う。
『ちょっとその二つの果実。どうやって浮いているの? どういう原理かしら?』
『いや……どうやってと言われましても……』
「ブッフォッ――」
高い木の柵を隔てた向こうより声が漏れ聴こえ、思わず噴き出すレイ。
(まさかルシア。本当に『果実を堪能してくる』を有言実行しているんじゃ……)
〝湯船に二つの果実が浮いている光景〟を想像したら負けだと思ったレイは、煩悩を断ち切るべく、湯船へと沈んでいく。
『ちょっ、ルシア様……!? え、えっちぃのは嫌いです』
(ダメだこいつ、早くなんとかしないと……)
尚、この時ルシアは、二つの果実を日々頑張って支えているアンの肩をマッサージしていただけだったらしい。そうとも知らず、暫く湯船に沈んでいたレイが、温泉でのぼせかけたのは言うまでもない。
◆◇◆
「レイったら、女の子の裸を想像してのぼせちゃった?」
紫髪を靡かせ、黒い下着姿に白い羽衣を羽織った闇精霊。レイから肉体を分離させた状態で、ルシアは彼の顔を羽根扇で仰いでいた。
「ルシア様。レイ様を揶揄うのはやめて下さい。レイ様、大丈夫ですか?」
「ありがとう、アン。少し落ち着いた……」
エルフ用の白いローブを着たレイは、自身の起こした失態に、すっかり意気消沈していた。どうやら闇精霊ルシアとアンは、互いに露天風呂で自己紹介を果たした後のようであったが、この時レイはそれどころじゃない状況であった。
「しょうがないわね。反応がないとこちらも面白くないし、今夜は消える事にするわね」
ルシアはそう言い残し、レイの身体へと吸い込まれていく。アンはその様子を驚いた表情で見つめている。
「凄い……。レイ様。本当に闇精霊ルシア様と融合したのですね。」
「え? 嗚呼。それがどうかしたのか?」
寝巻き姿のエルフはレイの横へ座り、ゆっくりと話し始める。
「本来、精霊と人間の契約は、精霊が闘気の一部を分け与え、人間が魔力や生命力を還す事で成り立つもの。それはあくまで武器に闘気を宿す程度の力しか発揮出来ないのです」
「嗚呼、ルシアもそのような事を言っていた気がするな」
「でもレイ様は、闇精霊と融合し、まさに一体となっている。精霊と人間の枠組みを超越した存在。恐らくレイ様が扱っていた【死属性スキル】も、きっとそこから派生したもの」
EX属性――【死属性】。
生命力を奪う事に特化したこの属性の存在を、レイもルシアと出逢って初めて認知した。EX属性は火、水、土、風の四大属性よりも上位属性。彼はとんでもない力を手に入れた事になる。
「なぁ、アン。君は精霊に詳しいみたいだが、それはどうしてだ?」
「それはですね」
彼女はレイへ〝エルフの里〟の話をする。
此処〝エルフの里〟に住むエルフは、代々精霊を崇め、信仰して来たらしく、精霊との関わりが強いらしいという事。そして、彼女は精霊の意思を伝える〝里の巫女〟として力を受け継いだ存在らしいという事。闇精霊ルシアの存在を知っており、姿を認知出来たのもそのためであるという事。
「エルフの巫女だとは知らなかった。俺こそアン様と呼んだ方がよかったんじゃ……」
「やめてくださいレイ様。先程までと同じようにアンって呼んで下さい」
「そうか、わかった。アン。でも精霊の意思を伝えるって具体的にどういう事をするんだ?」
「そうですね……そのことについては明日話しますね。今日は遅いのでもう寝ましょう」
「え? 嗚呼」
話が長くなりそうだと思ったのか、アンは立ち上がり、そのまま部屋を出ていこうとする。火属性魔法によって灯ったランプの淡い灯のみが部屋を照らしている。部屋の扉を閉める前、
「あ、その毛布。柔軟羊のふかふかモフモフの羊毛を使っていてとっても気持ちいいですよ? おやすみなさいませ、レイ様」
「嗚呼、おやすみアン」
長い一日が終わろうとしていた。疲れていたレイは、そのままベッドに横たわり、毛布へ吸い込まれるようにして眠りにつくのであった。
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