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五十五.誓いのことば

 奴隷として二人を買ったご主人が誰か聞かされぬまま、マーキュリアの別荘へ連れて来られたマーサとルン。そこへ待ち受けていたのは、誰であろう、レイだったのだ。


「レイ、どうして……」


 どう表現していいか分からない複雑な感情に、泣き笑いの表情となった聖女。


「アンお姉ちゃん……」


 もう一度逢えると思っていなかった姉を目の前にして、溢れる感情を抑えきれなくなったエルフ。


 レイは、奴隷として国の偉い貴族に売られる事になっていたマーサとルンを、火の国より褒美として支払われる予定だった報奨金(・・・)を使い、お金で買ったのだった。


 罪人として厳しい監視下に置かれる彼女達は、当面冒険に出る事は許されない。そのため、水の都、マーキュリアに貰ったレイの別荘で、侍女として働いて貰う事にしたのだ。


「ルン、マーサ。君のした事を許した訳じゃない。だが、魔封石による影響もあった。だから、二人が罪を償うまで、俺が面倒を見る事にしたのさ」


「ありがとう……レイ」

「……圧倒的感謝」


「もちろん今後、新たな魔族に動きがあったなら、我々に情報を提供してもらうからな」


 風と共に颯爽と部屋へ登場するバニーガール。壁に身体をつけ、腕組みをした状態で二人へ声をかける。


「リーズは素直じゃないからねっ。ぼくは土の勇者ポポロンだよっ。まぁ、仲良くしよう、マーサ、ルン」


 ポポロンがマーサとルンへ握手をする。次の瞬間、マーサはその場に蹲り、堰を切ったように泣き出した。


「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい」


 だんだんと自身の中にあった小さな欲望が増幅されていき、自分では止める事が出来なかったマーサ。しかし、グラシャスと共にレイを殺したあのシーンが頭から離れないのだ。償っても償い切れない事実。それでも尚、レイは彼女がこの場に居る事を認めたのだ。


「マーサ。もういい。昔のようには戻れないかもしれない。なら、此処から新たに始めるといい」


 レイの声かけに、ゆっくりと頷く聖女。彼女は罪を償い、レイのために生きると誓うのであった。





  この日、戦いを終えた英雄たちは、別荘にて傷を癒す。


 別荘の奥には自然に囲まれた精霊庭園(エレメンタルガーデン)と呼ばれる精霊達が傷を癒し、休ませる事の出来る場所もあり、火の勇者グラシャスに縛られていたイフリートも、かつての精霊仲間、ウンディーネ、シルフ、ノームと共に再会を喜び、久しぶりの休息に心と身体を休ませていた。


 レイ達は、それぞれ用意されたペアの部屋へと泊まる事となる。聖女マーサとルン、ポポロンとリーズの勇者コンビが同じ部屋だ。二つ並ぶベッドに向かい合って座るレイとアン。エルフの真剣な表情に空気を読んだのか、ルシアは『ちょっとイフリートの様子を見てくるわね』と、精霊庭園へ移動していた。


「レイ様……わたし、酷いエルフです」


「アン、どうしたんだ?」


 いつもの温和なアンとは違う様子にレイも真剣な表情に変わる。


「マーサさんがレイ様にごめんなさいって謝っていた時……あの人の事を憎いと思ってしまいました」


「アン……それは俺の代わりに怒ってくれているのか?」


 アンはマーサがグラシャスと共にレイを裏切った張本人だと知っている。レイは自分のために彼女が怒ってくれたのだと想像したのだが、このあとアンの口から出た言葉はレイの予想とは違ったものだった。


「いえ、違うんです。彼女はグラシャスと共にレイ様を裏切り、レイ様の命を奪った。その事は勿論許せません。ですが、魔族長がそう仕向けた事実を知って、彼女を助けてあげたいと思いました。愛する人を手にかけるなんてこと……私には耐えられませんから……」


「アン、それなら……」


 悲哀に満ちた笑みを浮かべ、彼女は続ける。


「ですから矛盾しているんです。あのとき、マーサさんが泣きながらレイ様へ許しを請う姿を見て、私はこの人は許されるんだろうなって思いました。レイ様は優しいから。それと同時に、レイ様が私から離れていってしまうんじゃないかって……。嫉妬しちゃったんです。マーサさんがレイ様へ向ける視線や表情で分かりました。マーサさんにとってレイ様は特別な存在だってこと」


「待ってくれ。だが、マーサはグラシャスと」


 そう、マーサはグラシャスと愛し合っていた。マーサはグラシャスの物になったとレイは思っていたのだ。


「マーサさんが欲望に呑まれ、グラシャスと愛し合っていたのだとしても、きっとレイ様の事を特別な存在だって思っていますよ。見ていれば分かります。だって、私にとってもレイ様は特別な存在だから……」


「アン!」 


「えっ!?」


 レイが立ち上がり、アンの両肩へ手を乗せる。突然の事にアンの肩が揺れる。そのままアンの隣に座った状態で、レイはアンの方へ向き直る。レイの真剣な眼差しに、アンの尖った耳が真っ直ぐ立ち、彼女の頬が夕焼け色に染まる。


「確かに俺は、幼い頃からマーサと一緒に過ごして来て、彼女の事を特別な存在だと思っていた」


「はい……」


 アンの耳が静寂の海へ沈んでいく夕陽のように静かに垂れていく。


「だが、今は違う。一度命を失って、もう一度ルシアが生きる機会を与えてくれた。そして、アン、君という存在に出逢った」


「レイ様?」


「今俺の傍にはルシアやアン、リーズやポポロン。大切な仲間が居る。そして、アンはいつも俺の事を気にかけ、危険な戦闘の中でも身を挺して俺を助けてくれた。言葉では言い表せないくらい感謝しているんだよ。本当にありがとう」


「そんなこと、わたしはただ、使命を全うしただけで……感謝しているのはわたしの方です。エルフの村から飛び出して、新しい世界をたくさん見ることが出来ました。レイ様という存在が、わたしの中でどんどん大きくなって……」


「俺も同じだ。アン、俺にとって、君はかけがえのない存在だ。マーサでも他の誰でもない、君なんだよ」


「レイ様」


 プラチナブルーの瞳が宝石のように煌めき、アンの瞳から雫が零れ落ちる。


「これからもずっと一緒に居てくれ。アン、君を愛している」


「わたしも愛しています……レイ様」


 二人の距離が近づき、柔らかい部分がそっと触れ合う。

 そのまま泣き笑いの表情となるエルフ。


「えへへ……わたし、幸せです♡」


「アン、まだ今後も危険な場所へ行く機会も増えるかもしれない。俺は、どんなことがあろうと君を守る。これからも、傍に居てくれるかい?」


「勿論ですよ。それが巫女の使命であり、あなたを愛するわたしの意思ですから」


 互いの想いを確かめ合う二人。レイとアンの想いはこうしてひとつとなる。

 魔族が居る限り、魔と隣り合わせの世界。すぐにでも闇に潜む者達は動き出すかもしれない。


 レイは誓う。今後どんなことがあろうとも、アンを護り、仲間のために正義を貫くのだと。


 闇精霊と契約した黒の英雄――レイが居る限り、きっと強力な炎を吐く魔竜であろうと、魔族長だろうと、【死属性スキル】によって、殲滅無双される事だろう。



 そう、彼の伝説は、此処から始まるのだ――





           完

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気が付く誤字脱字もなく良いテンポで話が進み最後までストレス無く読ませてもらいました [一言] 次回作にも期待します
[良い点] 漸く結ばれましたね、アン…(微笑) ヨカッタヨカッタ…爆発しろ!(笑) [一言] 大団円、おめでとうございます☆ やはり、みんなで幸せになるのが一番です☆ 次回作も期待しております☆…
[良い点] 素晴らしかったです [気になる点] 連載お疲れさまでした [一言] 次回作にも期待します! とりあえず作者さんをお気に入り登録。
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