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勇者パーティに裏切られ死に追いやられた劣等騎士、精霊の姫に拾われ《最強》騎士に覚醒する  作者: とんこつ毬藻・銀翼のぞみ
第三章 火の勇者 激突編
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五十三.戦いを終えて

 無音――何も見えない、何も聴こえない。漆黒の闇、まるで、地上の光が届かない深い深い海の底。


 とある少年の身体が、ゆっくり……ゆっくりと……どこまでも沈んでいく。痛みは感じない。あれだけ日常的に感じていた憎しみと怒りも地上に置いて来たかのように穏やかだ。


「ここは……どこだ……」


 身体を動かす事は出来ない。ただ、自身の身体がゆっくりと沈んでいる事だけは理解出来た。どこへ向かっているのかも分からない。ただし、そこに不安や焦りはない。


【グラシャス・フレイア・ロード。あなたは、生かされた(・・・・・)のよ】

「誰だ?」


 彼の脳裏に女性の声が響く。


【闇精霊ルシア。ルシア・タナトゥス・レーデ。この世界の〝混沌〟と〝死〟を司り、混沌流(カオスロード)へと()き着いた魂を導く存在】

「じゃあ、俺は死んだのか?」


 グラシャスの脳裏に自らが過去行って来た出来事が浮かんでは消える。


 彼はイフリートを己の持つ剣へ封印し、火の勇者となった。魔物を討伐し、国の英雄となり、ただ純粋に強さを求めた。そのためには手段を選ばない。


 己の中に渦巻く野望。 いつしか彼は、どす黒い感情へと呑まれ、闇そのものを自らへ引き入れた。そして、巡りに巡って、自らが手をかけたレイの逆鱗に触れたのだ。


「ふっ……自業自得だな。俺が行き着く先は地獄か」

【言ったでしょう? あなたは死んでいない。私が特別に出て来てあげただけ。まぁ、あなたの場合、生かされた方が、地獄かもしれないわね】


 無の空間で勇者はただただ嗤う。自らを嘲笑するかのように。何故、レイが殺さなかったのか? そんな事はグラシャスにとってはもうどうでもよかった。自然と世界に向けられた怒り、あれだけ求めていた強さへの執着は消えていた。自らの心を燃やしていた炎が鎮火してしまったかのよう。


【あなたの魂の根源は〝憤怒〟。そう、あなたは利用されていただけのようね】 

「ざまぁねぇな」


 勇者は悟る。己を利用していたとすれば、魔族。グラシャスは自ら破滅の道へと足を踏み入れたのだ。


 人間を貶め、貴族を脅し、エルフや獣人を奴隷商会へ送り、気に入った女を抱く。全ては勇者になると誓ったあの日、教会を燃やし、自身を裏切った世界への怒りだった。


「あんた、レイの中に居た精霊か」

【だったら何?】


「そうか。あのとき、俺の炎に焼かれて奴は死んだ筈だった。ようやく全てを理解したぜ」

【あなたがレイを恨んでも、その復讐を果たす事は叶わない】


 グラシャスは、自らレイと対峙して、彼の持つ死属性が普通の力でない事に気づいていた。死の淵からレイの魂を救い出した精霊の存在。彼が生まれ変わった時点で、復讐を果たす事は必然だったのだ。


「最早俺には何も残っちゃいないさ。奴に会ったら伝えてくれ。お前はお前の道を行け、と。マーサはお前にやるってな」

【ふふふ、私がそれ(・・)を伝えると思う?】


「伝えたくなければいいさ。どうせ、正義感丸出しのレイだ。あいつは俺と違うやり方で己の道を進むだろう?」

【それは否定出来ないわ。気が向いたら伝えてあげるわ】


 その声を聞いたグラシャスは、そのまま目を閉じる。どこまでも続いていく深淵に呑まれ、火の勇者の意識は遠のいていった。



 ◆◇◆



 グラシャスは回復用の魔法陣により、一命を取り留める事となる。しかし、魔封石の力を長く使っていた代償は大きい。イフリートも同時に失った事により、彼が本来の力を発揮する事は最早不可能であろうと、ルシアがレイ達に告げた。


 レイ達も戦いの傷を癒し、転移魔法陣にて火の国(イグニスフレイア)、グラシャス達パーティの住んでいた家の地下へと辿り着く。上階へ続く階段を上り、隠し扉から見慣れた部屋が視界に入った時、レイは複雑な心境となる。


「もう此処には二度と戻って来る事はないと思ったんだがな……」


「レイ様……」


 レイの心中を察し、アンがレイの袖を掴む。彼の傍には今、護るべき存在が居る。アンを不安にさせないよう、少年は頷く。


「嗚呼、大丈夫だ、アン」


「おぅ、憎いね~~二人共!」


「そ、そんなんじゃないですぅ~ポポロンさん!」


 距離が近い二人を揶揄うようにポポロンが飛び跳ねながら二人を弄る。聖女マーサと勇者グラシャスは寝室へ寝かせられ、ルンが傍についていた。逃亡する可能性が低いとはいえ、念のため、シルフが監視役として部屋の入口に配置していた。


「風の国へ銀次郎を飛ばした。風の王にも事の顛末は伝えられる事になる。火の王にも報告せねばなるまいな」


 ひと仕事終えたリーズが部屋へと戻って来る。

 魔族長ブネリ討伐と火の勇者の真実を火の国(イグニスフレイア)へ報告し、グラシャス達の身柄を拘束する必要があった。


 戦いの後、レイは謁見を予見し、魔封石を砕いた紅蓮の剣と、魔族長ブネリの爪を回収していた。水の勇者ロイドと同じく、グラシャスは英雄の称号や、冒険者ランク、勇者としての肩書全てを失うだろう。


 そして、闇に呑まれていたといえ、事実を知った上で行動を共にしていたマーサとルンもどうなるか分からないのだ。


「レイ様、ルンはどうなるんでしょうか……」


「そうだな。主犯のグラシャスを幇助(ほうじょ)した罪として、マーサもルンも火の国(イグニスフレイア)の法によって裁かれるだろうな」


「レイを殺した奴等だよっ! かつての仲間とは言え、罪は償わないとだめだよっ!」


「ポポロン!」


 レイのために怒ってくれたのか、普段怒りの表情をあまり見せないポポロンが腕を組んでプンプンしていた。リーズが慌ててポポロンを宥める。


「ルンは確かに罪を犯しました。レイ様の幼馴染であったマーサさんも。レイ様を殺した事……わたし、絶対に許せません! ただ、魔族長が貶めた事が原因だとすれば……わたしは救いがあってもいいんじゃないかと……」


「アン。それは火の国が決めることだよ」



 ◆◇◆



 一ヶ月後、火の勇者グラシャスは、灼熱の牢獄と呼ばれる罪人を収容する地下の要塞へと送り込まれる。勇者としての名誉も、財産も、冒険者ランクも全てを失い、投獄された後、全てのスキルを封じられた状態で投獄される脱出不可能な施設。


 死なない程度に魔物と戦わせ、地上では出来ない人体実験(・・・・)を強制される。死ぬよりも過酷な日々が、彼には待っているのだ。


 マーサとルンは、一般の罪人が投獄される施設へ収容された後、とある場所へと連行されていた。目隠しをされた二人に行く先は知らされておらず、二人の首には、魔力の籠った銀色の特殊金属で出来た首輪がつけられていた。


 それは、火の国(イグニスフレイア)独自の奴隷制度。国が管理する罪人を奴隷として照会し、普段はご主人に仕えると同時に、国が指定した仕事を課す。闇取引ではないため、国の監視下に置かれる立場となる。首輪には特殊な魔法が仕込まれており、主人の許可なしでのスキルや魔法の発動及び、指定された場所以外へ行くと、首輪が爆発する仕組みとなっている。


「ここが、あなたたちが仕えるご主人様の屋敷です。ご主人の許可なくスキルや魔法の使用、屋敷から出た場合、首輪が爆発する。気をつけるように」


 何日もの長い移動の後、辿り着いた場所は立派な屋敷だった。侍女の長らしき者に屋敷の中を案内される。


「このお屋敷の留守を任されております、侍女長のアマンダです。このお屋敷は、ご主人様の別荘です。あなた達は、刑罰として週に一度、国から指定された仕事を課せられる。地下に今回特別に創られた(・・・・)転移魔法陣で指定場所へ行って下さい。普段はこのお屋敷で侍女としての仕事を行ってもらいます」


「あの……それだけでいいのですか?」


 マーサが思わず本音を漏らす。奴隷と言えば、あらぬ扱いを受ける事が多い。国からの仕事は確かに誰もがやりたくないような仕事を押しつけられる事が多いとは聞いていた。だが、人間の尊厳すら与えられない扱いを受ける、彼女はそう覚悟していたのだ。


「ご主人様の恩情ですよ。魔族に利用されていた事実を知ったご主人様が、あなた達をお金で買ったんです」


 『世の中にそんな心優しい人物がまだ存在するのだろうか?』とマーサは思う。欲望に呑まれ、穢れてしまった聖女。そんな堕ちた聖女を買う人物なんて、物好きしか居ないと思っていたのだ。


「今日は特別に、転移魔法陣でご主人様がこの別荘に帰って来ております。ご主人様が部屋でお待ちです。こちらへ……」


 侍女長の案内で屋敷の奥へと向かうマーサとルン。ご主人様が待っているという部屋の扉を開ける。部屋の奥、大きな椅子に座る銀髪の少年と、その横には、美しいライトグリーンの髪を靡かせたエルフが立っていた。


「え……そんな……まさか……」

「レイ……アンお姉ちゃん……」


 聖女とエルフが雫を零す。そこには二人のよく知る人物とエルフが居たのだから。 

 立ち上がった別荘の主は、二人へ改めて自己紹介をする。


「マーサ、ルン。俺がこの屋敷の主人、レイだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 久々に来て(読んで)みたら…魔族長の最期ははダイジェスト扱いって(笑)まぁ、それはともかく… 良かったぁー!予想できたオチで☆(微笑)やっぱり、マーサとリンも幸せになってほしいし(苦笑) …
[気になる点] 途中の文章で一般の罪人が投獄される施設へ収容されるのが「アンとルン」になっていますが、「マーサとルン」ではありませんか?
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